第143話 魔が刺す
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この宿に来るまでは少なかったとはいえ多少人の気配を感じた街道が、たった数時間で嘘だったかのように消えている。
街の大きさも最初に見た時よりも広く、7人だけで道を歩くには勿体無いくらいだ。
異様だと気付いていながらも誰も口には出さなかった。
出した所で他の人間が答えを持っているとは思えないからである。
しばらくの沈黙を楽しんでいると、いつものように上野が口を開く。
こう言う時は決まって上野か宮武が何か言い出すので、全員予測はしていただろうな。
何せ宿屋で休憩を終えて再度行動し始めてから30分程度経過していた。
ただ通行人がいないだけであるならば、店などに入ればどうにでもなること。
ここまで時間の掛かる作業では無かったはずだ。
言うまでもないが。そうでないということは店すらも営業していないということ。
「これは事件の匂いがしますね。この街の住民の集団神隠しですか。ちょっとオカルト的要素も入ってますねー!」
変なスイッチが入ってしまうのは上野の悪い癖だ。
この状況になると少し面倒な絡み方をしてくるので全員関わらない意思を示す。
それに乗じて俺も触れないでおこうとするのだが、爆弾の方から向かってくるので避けようがない。
「行きましょう助手担当の一ノ瀬さん!」
「バカいうな。知らない街でバラバラに行動するなってのは小学生でも知ってる常識だろ。」
「今更そんなこと言っても意味ないですよ。今までの街だって集団行動少なかったし。それに、何も得られる情報がないなら分担して探すべきですって。」
言い分は最もらしいことを言っているのだけど、その目の奥が言葉と違うことを語っている。
それに普段の街とは違ってどこに危険が潜んでいるのか分からない状況だ。
情報を取るか安全を取るのかは人の尺度によって変わってくる。
ここまで内心で愚痴を言いつつも上野の提案にも理解はあるつもりだ。
何時間も虚無を過ごす訳にもいかないからな。
迷う時間の間に状況がまた一変し始めた。
静かな街に軽快に響き渡る革靴の心地よい音。
意識は全くしていないが、その訪問者に目が向いてしまう。
スーツを身に纏った男女のペアが1組。
俺達にとっては何ら変哲のない格好なので違和感もないが、ここは異世界である。
今までの街で似たような格好はあっても完全なスーツ姿は見たことがない。
気になる点はスーツだけではないが、向こうから話掛けてきたので一度考えるのを止める。
「あら?この時間は外出禁止させている時間なんだけどなー。」
「どうせこいつらが旅人でルールとか知らないのさハニー。一応門番に伝えろと言ってあるんだけど、アイツは後で始末するべきだな。」
なるほどな。この街で権力を持っているのは、金持ちでも聡明な人間でもなく魔族側の奴らだということは薄々感じ取っている。
迫害されてきた人間がぼやいていたので間違いないだろう。
害の無さそうなどこにでもいるような顔をしているが、これは外部から来た人間に不信感を持たれないための擬態か。
近付いて様子を観察する為には警戒されてしまうと元も子もないからな。
「てかよく見たら武器を持って街の中歩いてるじゃない物騒〜。」
「本当だねハニー。ああいう野蛮な人間には関わらないほうが良いね。」
何か仕掛けてくるかと思ったが、ただ横を通り過ぎるだけ。
通り過ぎる時に1人1人の顔をじっくりと眺めていった。
その数秒に彼らの業が仕掛けられている。
流れるように1人に接近しては離れて別の人へ行くのを繰り返すは奇妙な行動にしか思えないが、ターゲットである人間に接触するのが不自然だと思われないようにするためのものだ。
1人が俺の視界全面に入り込みもう1人が全員から死角になる場所で目的を果たす。
俺達の前に堂々と姿を現したのはそれが狙いだったのかと理解した。
「この街に滞在するならきちんとルールを知るべきだと思うわ。痛い目を見ることになるから。では、またどこかで会いましょ〜。」
そのままどこか行こうとしている二人組に忠告をしておく。
「お目当ての物は返してもらったからな。人の物を盗む時はもっと慎重にやった方がいいぞ。」
その言葉を聞いて2人揃ってスーツの内ポケットなどを慌ただしく探し始めた。
こいつらの狙いは俺が持っていた秘宝の2つ。
井村の持っている秘宝は盗めば、大きくてバレやすいが俺の2つは大きさ的にも気付けない。
たまたまそのことに気付いて、盗られた瞬間に取り返すことが出来たの惨事には至らなかったが、もし奪われていたと考えると冷や汗が止まらないな。
「ハニーの腕前は世界1なのにそれを取り返すなんて只者じゃないね。」
「どうするのよダーリン!ムカつくし排除しちゃう?」
男の方は冷静さを保っているが、女の方が敵意を剥き出しにして今にも襲い掛かろうとしている。
相手がその気であるならこちらも応戦せざるを得ない。
ここは店や住宅が建て並ぶ街路ということもあり、派手に暴れれば被害が出るのは確定事項だ。
「まぁまぁ。ここは街の中、言わば僕らのテリトリーってことでしょ。それならこんな白昼堂々と戦う必要なんてないよ。闇に紛れた一撃を浴びせるのが僕らのやり方じゃないかハニー。」
「悪魔的な発言ね。そんなところに痺れて付き合ってあげてるんだけどね。」
「ハニー!!!そんなこと言うなんて今日は良い1日かもしれない。」
あちらは勝手に盛り上がっているが言うなれば脅されたようなものだ。
夜まで一瞬たりとも気が抜けない恐怖を味わせるつもりか。
それだと今戦わずとも宣戦布告として受け取って良いだろう。
「そっちがその気なら朝も夜も変わらないわ。今目の前に敵がいる間にやっちゃいなさいよ。」
宮武が指示を飛ばしてくる。
もちろん言っていることは正しいのだけど、何故か自分で動こうとしないところには納得できない。
後で不機嫌になられても困るのでとりあえず逃がさないようにしながら戦う意思を見せる。
「ぷぷぷ。こいつら私達と戦おうとしているんですけど。命知らずってやつかなダーリン?」
「たかだか冒険者の分際でハニーに逆らうなんて許せないねー!」
刀を見ても驚かないのは戦いに慣れている証拠とも言える。
緊張感のある空気が流れ息苦しくなりそうだ。
試すように測られるお互いの間合い。
相手の実力は未知数なうえに2人もいる。
迂闊に攻撃を仕掛けたら死は免れないかもな。
何秒こうやって睨み合っているか分からない状態が続いた後に違う人物の登場によって、この場は治められる。
「おい、てめぇーら!何こんなところで何しとるんや。勝手なことやってるとど突き回すぞ!!!」
「やばいよハニー!キャイトの野郎だ!」
「仕事戻るわよ仕事!」
キャイトと呼ばれる男の登場によって血相を変えて走り去っていく。
俺達も初めて会う奴ではあるが、威厳のある風貌に呆然と立ち尽くすのみである。
「魔族の奴らが世話かけたみてぇーで、申し訳ねぇー。だけど、これ以降はルールきちんと守ってもらえるよに頼むわぁ。」
言葉も態度も丁寧なのに、どうしてかあの男女よりも恐怖を感じる。
彼が立ち去ってしばらく経った今も鮮明に思い出せてしまうほどに。
きっと俺は、この身に刻まれたあの顔も名前も忘れることはないだろう。
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