第139話 平等と平和
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今までも何度か窮地の場面はあったと思う。
それでもなんとかなって来たのは運と環境の変化が大きく関係している。
つまり、この小細工が一切効かず周りからの援護もない状況は負け筋であるということだ。
そんなことはお構いなしに、イラが真正面から攻撃を放ってくる。
先ほどまでと同様にあくまでもスキルを使うつもりはないようだ。
付けいる隙があるのだとすれば、そこしかないがスキルを使わないから弱いというのは安直である。
現に指で刃物を止めてしまえるほどの能力を有している。
もちろん、速さも他の追随を許さない。
極め付けは俺のスキルを1つ実質的に無効化あているのである。
「こんなの戦いになるのかよ。」
愚痴を考える時間も短くして、魔の手が俺の目の前にまで届いている。
掴まれたら脱出するのは難しいと学習済みだ。
【受け流し】を使ってイラの攻撃を右へと受け流す。
勢いそのままに避けられてしまったのでイラは体勢を崩しそうになる。
いつもだったら今すぐにでも手を出したくなるような隙であるが、罠であることは明白。
「おっと、わざと転びそうになった演技をしたんだけど意外と冷静だね。目の前に吊り下げられた餌には食い付かない賢いタイプの魚だ。二つ名だけは立派に賢そうな馬鹿なドラゴンも見習って欲しいくらいだよ。」
あれだけの実力を持っていたインテグリルのことを嘲笑えるのは数少ない強者だけ。
その中にイラが含まれているのだけは確かである。
「俺を殺すのが目的ではなく、俺を駒にするのが目的だろ。なら安心して戦える。」
「君は既に見ているはずだ。とっておきの禁術をね。」
コイツが言いたいのは、エデルの街で目撃した禁術のことか。
意識もないままに指示を遂行する屍になるのだ。
死体が強ければ強いほど強力な駒になるのは言うまでもない。
つまり、生死は問わないということだ。
もっとも、俺が誘いを断って刃物を突き刺した時点で生きたままにする選択肢は消えたも同然だけどな。
こうなるぐらいなら大人しくついていくべきだったか。
長い物には巻かれろという言葉があるくらいだから、弱者が強者に従うのは何も恥ずかしくない。
揺らぐ決意。熱くなっていた気持ちが冷めきってしまう前に進化刀を必死に振る。
今までだったのなら俺の技術がなくても、進化刀のポテンシャルだけで相手を倒すことが出来た。
だけど、それもここまで。
欠伸をしながら刃物が振り下ろされる僅か数センチを避ける。
【風装】や【一心化】による能力の強化も無意味だ。
ゲームのラスボスがこいつだったら諦めて売りに出してしまうレベルで勝つ未来が見えない。
「諦めたらどうだい。今ならさっきのことも水に流してあげるよ。ほら、僕の手を掴むんだ。」
魅力的ではある。
一瞬、本当の迷いが生まれてしまった。
俺の手は後もう少しでイラの手を掴みそうだ。
「何やってるのよ!!!さっさとその男倒して、こっちの援護に来なさい!」
後ろの方から宮武の怒鳴り声が聞こえる。
イラと俺だけしかいないはずだった空間が急に広くなる。
視界にも脳みそにも掛かっていたぼんやりとした黒い霧が晴れる。
落差に洗脳でも掛かっていたのではないかと思えるほどだ。
「そういうことだ。歩く道はどうしても交わることがないな。」
「その道は狭く険しい。例えば、僕以上の敵と戦うことになるとかね。」
「いやー、それは勘弁してほしい。けど、そうなった時は全力で戦う。今日も明日も俺の考えが間違っていないことを証明するために。」
最初の時と同じ様にニヤリと笑って見せるイラ。
俺の回答に満足してくれたという認識で良いのだろうか。
「聞こえていたかいベルゼ。」
洞窟の奥からはもう1人の人物が。
完全に気配は感じなかったのに、どこから湧いて出て来た。
・・・、いや待て。ベルゼという名で呼ばれたのか。
どうしてここにいるのだと聞きたかったが、相手の言葉を待った。
ベルゼ改め飯野は、イラの質問に答えようとしていた。
「試す様なことをして申し訳ありませんでした。最初から貴方達全員を殺すつもりなどなかったのです。」
敵側として現れた人間の言葉を鵜呑みにするほど短絡的な性格ではない。
「魔王を倒す者としての覚悟を聞いてみたかったというのが今回の事に至った次第です。」
「直接口で聞けばよかっただろ。こんなに危険な目に遭わずに済んだ。」
「いえいえ、私の考えた様な人間でないのであれば即刻殺すつもりでした。」
今命があるということは、試験は合格だったということか。
実力の差を考えれば殺すつもりだったのが冗談ではないと分かる。
わざわざ圧倒的に強い人物を用意する必要は少ないからな。
リリスが気付かない間にイラの近くへと戻って来ている。
つまりは、他も奴らも戦闘を一時中断してこちらに向かっているところか。
「どうなっている。あの女いきなり付いてこいといって消えたぞ。」
姿が見えないのであれば付いて行こうにも場所が分からない。
結果的には俺のいる方へ進んで正解だった。
「それにあの人僕ら7人で戦っても全く勝てませんでしたよ。何者なんですか。」
俺に聞かれても返答出来ないからやめてくれ。
戦いが終わったのかも不明な状況だからか気合いが入ったまま抜けていない。
「説明責任はあの3人がしてくれる。だから、俺に一々質問してくるのやめてくれ。」
「本当だ。知らない奴が1人増えてるじゃない。」
「私のことは説明してないみたいですね。飯野忠。こちらの世界では、ベルゼといえば通用しますか?」
驚きのカミングアウトに空気が張り詰める。
追い求めていた日本人転生者が本当に魔族側の人間だったとは思いもしなかっただろう。
まだ、誰1人として警戒を緩めることはない。
それどころか武器を突きつけて敵対心が剥き出しだ。
状況が掴めていないクルートのポカンとした顔でも見て心を落ち着かせよう。
「あのー、これだけ武器を向けられると怖いのですが。」
「自業自得だ。それに俺もお前達のことが敵か味方かはっきりしていない。」
「イラ君。君の方から説明してやってはくれないですか。」
頭を2、3度掻いて面倒臭いというアピールをするが、意外にも素直に説明を始めた。
「僕も元は日本人。そして、彼女もね。こっちの世界に来た時に魔族と契約したから同等の力を持っているけどね。それでも、僕達の目的は、魔王も人間もその他の種族も関係なく生きることの出来る世界を作り上げる”オールフラット計画”を進めることだね。」
「聞こえは良いが方法はどうするつもりだ。」
「至ってシンプル。この世で最も権力を持っているのは武力があるもの。つまりは、圧倒的な力を持って納得させるよ。」
従わなければどうなるか言わなくても分かる。
けれど、その方法では恐らく魔族は壊滅させなければいけない。
同族を苦しめるのは心が傷まないのかと思ったが、元は日本に住んでいた訳だから同族としての意識が薄くて当然か。
「悪いが協力するつもりはない。」
ここまでの話を聞いた上で大城が冷たく突き放す。
「それで構わないよ。もしかしたら、今日のように拳を交える日が来るかもしれない。それでも君達は魔王討伐にだけ目を向けてくれれば良いんだ。」
「言われなくても元の世界に帰りたいからな。」
「ほら、クルートさんの娘さんが帰りを待っているだろうから早く帰ってあげたらどうですか?」
話題を変えて帰宅を急かす。
これ以上ここにいられたらまずい訳でもあるのかと勘繰ってしまうが、クルートの娘について話題に出されたら素直に帰るしかない。
彼らの野望がこの先にもたらすのは幸か不幸か。
「君もこちら側の人間のようだね一ノ瀬君。」
洞窟内の音でかき消されてその言葉が彼の耳に届くことはなかった。
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