第138話 死より深い闇
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イラは笑顔でこちらを見ていた。
まるで、他の人間はこの空間にいないようだ。
所望しているのは1対1の戦いということなのだろうか。
これは戦いなので素直に応じる必要はない。
「悪いが魔族の相手がどれだけ大変か知っているからな。数で押させてもらうぞ。」
「リリス。お前1人で十分だな?」
あちら側の構想では、リリス1人いれば他の7人を十分引きつけることが可能という計算らしい。
どうやら冗談ではなく本気で思っていたようで、透明化という厄介な能力を持っているリリスは実際に7人戦い始めた。
あくまでも2人の空間が欲しいのか。
俺としてはこんな奴に強い思い入れなど存在しない。
魔族という危険な種族に一方的に気に入られても正直面倒である。
「良いね。その実に不機嫌そうな顔が、自分の感情に忠実という感じがしてたまらないねー。」
どうやら俺がこうなると分かっていてわざと絡んでいるようだ。
このままだと完全に相手のペースになってしまうので、こちらからも質問して相手の内を探ることにした。
「あの魔物の統率はお前が教えたのか?いくら賢竜とはいえ魔物をあそこまで動かすことは出来ないと思うが。」
「あれはそうだね、何年も前からアルキフナルという村を襲わせている報酬とも言えるかもしれないね。」
アルキフナルにある秘宝を恐れてのことかもしれない。
魔王討伐のピースである秘宝を奪われては魔族にとって大惨事だ。
けれど、それが本当の目的ではないはず。
「本当の目的は別にあるんだろ。お前が素直に魔王の下に付いてるとは思えないからな。」
「流石イチノセだね。短い付き合いだというのにそれだけ僕のことを理解しているとは。僕の狙いは秘宝狙いの連中だよ。彼らにコンタクトを取ることによって上手く駒にして操ることで手を汚すことなく魔王を殺せるのさ。」
「魔王を殺すことが目的なら俺と敵対する必要はないだろ。」
「ないね。無意味で無価値で愚行だ。でも、僕の心が疼いてしまうんだよ。前にいる男と戦えってね。まぁ、でもそれは必然なことなのかもしれない。悪と正義というのはいつの時代も敵対関係だからね。」
「俺は正義ではない。ただ普通の人間だ。」
「何も間違ってないよ。君は自分を否定するようだけど、自分が思い込む正義よりも他人の目に映る正義の方が揺らぐことのない事実なんだから。」
見え方の問題ということか。
どれだけ深い闇を抱えていようと関係ないと言いたいらしい。
いや、こんな会話に惑わされてはいけない。
結局のところどれだけ交渉しても相手は戦うことを望んでいるらしい。
ならば、不必要な会話は時間の無駄になるだけ。
イラが会話に夢中になっているが、全て左から右へと流れていく。
気付かれないようにゆっくりと進化刀に手をかける。
戦い方が汚いと言われようと構わないので、不意の一撃で何もさせずに終わらせよう。
「【風装】+【一心化】」
静かな声で今出せる全力を使う。
そして首を狙って一気に攻撃を仕掛ける。
こちらに気付いていない振りをしているが、そんな訳はない。
隙をわざと見せて食い付かせるのが目的だろうな。
だけど、圧倒的な実力差がなければ俺を止めることは不可能だ。
「話している時は黙って聞いて欲しいんだけどな。そんなにつまらなかった?」
気付かない間に【魔族解放】を使い、姿を変えているイラ。
俺の攻撃は無惨にもたった2本の指によって止められている。
こんなことが起こっていいのか。
あまりにも高過ぎる障害物に絶望の2文字が過る。
武器さえも使われることが無かったどころか、指2本を斬ることすら叶わなかった。
「魔力を一部に集める訓練をすれば、スキルなんて使わなくても戦えるんだよ。良いね良いね、僕好みの表情になって来た。ほら、もっと絶望してくれ。天と地ほどある僕と君の実力の違いにさ。」
「絶望の顔に見えるのかよこれが。残念だが違う。お前を倒す方法を考えている顔だ。」
強がってみせるたのは、相手の気持ちを上げさせてはいけないからだ。
大体の勝負事は気持ちが大きく影響すると思ってまず間違いない。
先の戦いにおいて自分の中に秘める闘気とでも言うべき熱いものを出し切っている。
勝ちを拾えるとすれば、これ以上相手の調子を上げさせずに早い段階でトドメを刺すことだ。
まだ序盤であの強さをということは、必ずどこかの段階で死に直面することになる。
それだけは絶対に避けなければならないと常に思考を続けた。
「君もハッタリがもう少しうまければねぇ。そうだ!どうせ勝ち目のない戦いをするくらいだったら、僕の下に来ないかい?君だったらすごい待遇を用意してあげるよ。」
「実に良い提案だが、俺がそれを受けたら他の奴らはどうなる。」
「君が気にする必要のないことだよ。だって最初は赤の他人だったんだかさ。」
濁す言い方から察するに生きている可能性はこちらも低いということか。
自分だけ助かる。
それだけでも俺にとっては意味のある選択肢かもな。
武器をしまい両手を上げて降伏の意を示す。
これで良い。これが俺にとって最善の選択肢。
例え、その先が危険な場所であってもこの歩みを止めてはいけない。
「意外だね、君がこの条件を飲むとは。僕が思っている以上に打算的な人間だったのかな。」
「あぁ。俺は自分のことが何よりも大事だからな。」
「なら、僕の肩に突き刺したダガーを抜き取ってくれるかな?いくら魔族とはいえ人間と同じように痛みを感じるんだ。」
不意打ちというのは正々堂々とした戦い方ではない。
自分の実力が劣っていると理解しているからこそ放つ敗者の一撃。
ある程度の人間であるならプライドど下手な正義感から真似できない芸当だ。
俺にはそんなものないので簡単にやってのける。
結論的にはイラへダメージを与えることにも成功した。
あれだけ余裕そうにしていた顔が苦痛で歪むのは爽快感がある。
「悪いな手が滑ってしまって。悪気は無かったんだ許してくれ。」
「僕の認識が間違っていたようだ。そこら辺の魔族なんかよりも卑劣で狡賢くて誇りやプライドなど一切ない最高に邪悪な男だったとは。ますます君のことが欲しくなったけど、まずは上下関係から教えないといけないみたいだね。」
俺がダガーを握っている腕を掴んでくる。そのまま引っ張られイラの方へ体が寄せられる。
膝蹴りが俺の腹部にヒットする。
骨が折れたとかそういうことではないが、激痛が全身を走る。
その場に倒れそうになるが、髪を掴まれて膝を付いた状態になっている。
意識がギリギリ保っている。体も僅かながら反応がある。
少しでも動けるなら今動くしかない。
「悪いが俺も本気はまだまだ出してないぞ。【影操作】」
これで少しでも動きを封じて距離を取る必要がある。
幸いにも光源の少ない洞窟では、このスキルから逃れることは不可能だ。
「僕がその程度のスキルに捕まる訳がないじゃないか。暗闇よりも深い闇によって溶け込むのがこの僕さ。」
影に飲み込まれて別の影から姿を現す。
影を移動することの出来るスキルを持っているのか。
事象だけ見れば脱出に成功したようにも考えられるが、残るのは更なる壁だけ。
相性が悪すぎて【影操作】は使うことが出来ない。
ただでさえ少ない手の内の1つを潰されては、勝ち目も少なくなってくる。
それでも他のメンバーもリリスの相手をするので手一杯で加勢は見込めない。
最後に信じれるのは俺が身につけて来た実力のみ。
それを発揮して死ぬのなら悔いはない。
距離が空いている静かに2人は睨み合っていた。
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