第137話 果たされた約束
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完全に邪気を吸収し終えた俺はここぞとばかりに合図を出す。
敵の大技を繰り出せば、その後の攻撃に隙が生まれるのは想定済み。
ならば、後はその隙を狙うのが1番効果的だと大城には伝えている。
「こちらも準備は完璧だ。いつでもいけるぞ。」
「タイミングは任せるが、時間はそう長くない。早い内に頼んだ。」
早いうちにと言われれば動かない理由もない。
大城が指をパチンッと鳴らすと至る所に設置された札から氷の柱が出現する。
賢竜は身動きが取れないほど囲まれてしまい、ただただ無防備を晒してしまう。
こうなれば後は他の魔物と変わらない。
「私にはまだ奥の手があることを忘れてはいけない!【人化】」
体を人並みのサイズにすることによって、ここまで大掛かりの氷柱の檻も無意味と化す。
賢竜の目は、俺達の罠を破ったことによって勝利を確信している。
あれが最後の策略だったのだと思い込んで、こちらに攻撃を仕掛けようとする。
「【人化】は発動後、すぐには元のドラゴンの姿に戻れない。だから、しばらくはその姿で活動するしかないよな。」
「それを見破ってどうにかなるのか愚民が!」
まだ決着は付いていないのに自ら弱点まで認めてしまうとはな。
賢竜というのは名ばかりで、所詮考えを持った獣に過ぎないということか。
「こうなるな。【幻想の豪雪】」
人間の体には慣れていないことも知っているのでこの攻撃が避けらないのは想定の範囲内だ。
まだ、賢竜は悔しさと怒りを含んだ表情で氷の中に固められてしまう。
ここまでの計算された流れが無事に成功するかは五分五分くらいの低い賭けだったが、結果は見れば大成功に終わった。
俺は氷塊に近付いてそっと氷に触れる。
無事に終わったのだと実感したかったから。
しかし、まだ心の奥底では納得がいかないのか疑心が残っている。
「無事に終わったな。これで村の平和も約束されたか。」
作戦の立役者である大城が役目を終えて戻ってくる。
今の状況が続くのであれば大城の言った通りの計算でも間違いでないが、恐らく長くは持たない。
氷の耐久性や溶ける速さを考えると持って1日が限度だと思う。
全員を集めてそのことを伝える。
誰かが解決する手段を持っているのではないかと一縷の望みに頼る。
沈黙は10秒、20秒と続いていく。
こうなれば、倒せる可能性を信じて心臓を貫く選択肢を取ることにしようと決心した時だった。
井村がゆっくりと手を挙げる。
態度や顔を見れば分かるが確証のあるものではなさそうである。
けれど、今は試せるものは全て試しにので井村の話に静かに耳を傾ける。
「こっちの世界に来てから一度だけ、あらゆるものを封印できる魔法陣の作り方を読んだことがあるんだけど・・・」
言葉が尻すぼみになっている。
もどかしく続きの気になる俺は最後まで黙って聞いていられずに、問いを投げかける。
「覚えていないのか?それともここで作るのは条件的に不可能なのか?」
「材料の部分が1つだけ分からないように千切られていたんだよ。」
「手掛かりは全くなしということか。これは流石に行き詰まったな。」
「あ、いや。全部じゃなくて途中の文字までは見れるんだよ。でも、聞いたこともないようなものだから。」
とりあえず考えることは無駄ではないので、覚えている範囲で紙に模写してもらうことに。
平然とペンを動かしている井村であるが、普通の人間であるなら読んだ本の更に数ページだけを手を止めることなく思い出すのは容易いことではない。
感心している間に全て書き写したようだ。
肝心な穴あきの箇所は、[きを放つ][2種類][力]だけが書いてあったようだ。
「それならこうかもしれないですね。」
先程まで怪我の治療に専念していた上野と清水も参加してきた。
パッと見ただけで何か思いつくのか。
これもまた脅威的な才能の1つである。
1つ1つの歯車が完璧に噛み合うような現象に心が勝手に踊るような爽快感を感じたのは内に秘めておこう。
「[輝きを放つ2種類の魔力]って感じじゃないですか。もっとも、文章はそれよりも長いと思われますが省力したらこれくらいでも可笑しな文ではないかと。」
「つまり、上野が重要なピースになるということか。」
上野の考察を信じるのだとすれば光が出る魔力を使えるのは、【火魔法】、【光魔法】ぐらいか。
強いて言うなら【回復魔法】も暖かな光を出すが、輝きとは少し違うような気もする。
仮定だったとしても当てはまりそうなものが見つかったのなら実行に移すのみだ。
8人で協力すれば、これだけ広い空間に魔法陣を描くのもあっという間。
後は必要なものを円の中に入れて魔法を使うのみになった。
「右手と左手で違う魔法を使うのって結構難しいんだよな。」
言葉ではそう言いながらも3分もしない内にコントロールができるようになっている。
地面に触れながら全力で【火魔法】と【光魔法】を発動させる上野。
俺達も何もせずに見守ってはいられないらしく、全力で魔力を注ぐ。
「ここでワシがスキルを発動だ!【古代魔術】”古代封魔陣”」
無から作り出される鎖が賢竜目掛けて飛んでいく。
その強さは凄まじく捕らえるのに使っていた氷を最も容易く粉々に。
数分振りに外の空気を吸った賢竜はこの状況を理解出来ていない。
暴れるでもなく声を荒げるでもなく自分のことの顛末を見届けるのだった。
間も無く繭のように連なった鎖によって封印が完了する。
「これは永遠に続くものではないから、魔力と【火魔法】、【光魔法】を使える者を定期的に呼んでメンテナンスをした方がいいかもね。」
「ここまで世話になってすまない。なんと礼をすればいいのか。本当にありがとう。」
額から血が出るのではないかと思うほど地面に擦り付けて土下座をする。
「感動的になるのも良いが、こちらは対価を求めてやったまでのことだ。利害の一致だから気にする必要もない。」
「分かってるけどよ。それでも頭の1つくらい下げてないとこちらの気持ちが収まらないだよ。」
本人がしたいというならば邪魔は出来ないので見届けようと思ったが、第三者達によって強制終了させられる。
軽い拍手をしてこちらに賞賛を送っているようだ。
全部監視されていたということだろうな。
暗闇の奥からこちらへ向かってくるとそれが誰なのかが判明してくる。
他の7人は誰なのか分からないようだが、俺だけはその顔を忘れていない。
「まさかここにまでイチノセくんが来るとはね。僕としては計算外の進化だよ。本当に嬉しいぐらいに鬱陶しいね。」
「だいぶ懐かしい顔だなイラ。お前が小さな村をいじめてる犯人だったとは。」
もう1人が俺の皮肉を許さないようだ。
音もなく現れたリリスは俺の首にナイフを突き立てる。
リリスの登場によってようやく反応を示す者が増えた。
「やめろリリス。僕とイチノセのかけがえのない友情のやり取りの邪魔をするなよ。」
「大変失礼いたしました。」
実に矯正された忠犬ぶりを見せるリリスはまた音もなくイラの半歩後ろへと歩いていく。
「いつから友情を育んだのか議論しようじゃないか。」
「君も酷いことを言うね。けど、それも悪くない。議論の方法は武力と武力のぶつかり合いでいいかな?」
「最初からそのつもりの癖にきな臭い演技をするな。」
不運な予感は的中してしまった。
避けることの出来ない戦いがまた始まろうとしている。
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