第136話 窮鼠竜も嚙む
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「これが痛みか。初めて知るのがこんな場面だとは。ましてや、相手を勢い付ける失態までしている。」
急に落ち着いた態度で語り出す。
腹の中ではぐつぐつと燃える怒りを抑えているのかもしれない。
その判断は、どのような場面でも正しいと言える。
感情によって左右されてしまう人がどうなるかは明白だからだ。
暴れ狂ったり、感情が暴発して抑えきれなくなる人を人生で多く遭遇してきた。
そうなれば自分が気づき上げた功績や人間関係は例外なく崩壊の一途を辿る。
賢竜が人間如きに体裁を気にしているかは分からないが、あのまま行けば勝ちは目前だったのは事実。
そのままでいれば楽に終わったので非常に残念極まりない。
「大城、少しいいか?」
相手が警戒をしながら戦いをするならば、こちらも無策で戦う訳にはいかない。
小学生振りなのではないかと思われる耳打ちをして大城に作戦を伝える。
大城は多くを語るタイプではないので、俺の目を見て一度だけ軽く頷く。
タイミングは大城に任せるが完璧に出来れば確実に賢竜は思い通りに動くはずだ。
そんな俺の思考を読み取るかのように、上野が前へと走り出した。
相手が自由に動き回らないように常に足下を位置取りたいからな。
「この硬い鱗に効くとは思えないですが、新技として試してみる価値はありそうです!【光魔法】”エンチャントオブウエポン”」
光魔法によって神聖な力を得る上野の新武器ワンド。
殴打なので鱗を斬り裂く事は出来ないが、上手く行けば内部にダメージを与えれることぐらいは可能かもしれない。
慣れない手付きで殴りかかるが、賢竜よりも上野の腕の方が痛そうだ。
あまりの硬さに痺れが腕にまで来たのかワンドを地面に落としてしまう。
上野は、武器が無くても戦える人間であるはずなのに律儀にワンドを拾おうとする。
だが、そんな隙を逃すほど相手も甘くない。
足下で攻撃が難しいと考えていたが、器用に尻尾を振り回し鞭のように上野を薙ぎ払う。
井村が反転を使おうとするが、あまりにもあっという間の出来事で反応が遅れる。
紙のように軽く吹き飛ばされてしまう上野は俺達の方へと吹き飛ばされる。
俺と井村が2人係で受け止めても止まらず、最後には井村の【神通力】まで使ってようやく止まる。
強烈な一撃だったのか足が片方粉砕しており、腕もボロボロ。
まともに戦えるようになるまで後ろで回復に専念しなければならない。
「清水頼んだ。井村と俺で時間を稼ぐ。」
少しでも痛みがないように慎重に運び清水の近くで下す。
2人で時間を稼ごうにも、一撃くらえば即死の状況は体力と精神力を大幅に使わなければならない。
持ち堪えて、2人で10分が限界だろうな。
「なんで2人だけなのよ。こっちに2人、いや3人もいるでしょ。それとも頼りにならない。」
「もちろん期待してる。後ろからのバックアップは重要だからな。」
「分かってるならいいけどね。アンタが何をしたいかなんて知らないし興味もないけど、援護は得意だから任せなさいよ。」
実に頼もしい言葉だ。
魔導具の有用性は普段から実感している。
大城の準備が終わるまでの時間稼ぎはこれで安定しそうだな。
また暴れる前に前線に出ないといけないので、前を向き走り出す。
「私も!頑張りますから!」
いつもは大きな声など出さない小原が腹に力を入れてこちらに言葉を送る。
もちろん、小原の活躍にも期待しているので、振り返り腕を突き出して頑張れよとジェスチャーを送った。
「危ないよ一ノ瀬くん!前だよ前!」
敵はそれを待ってくれることなく空気を壊す様に爪で引き裂こうと腕を振り上げている。
井村の声が無ければ死んでいたと思うと、ここは戦場であり一切油断してはいけないのだと再認識できるな。
尾を使う攻撃と違い、腕は短いので攻撃速度もそこまで速くないから対処は出来る。
【分身】によって相手の思考を一瞬でも鈍らせる。
賢竜も【分身】が進化していないのでどれが本体か見分けが付くだろうが、それが自ずと迷いへと繋がっていく。
「【影操作】+【分身】!これでお前も動けないだろ。そのまま死んでくれたら楽なんだけどな。」
相手の操作を奪ったことによって余裕の態度を見せたいところだが、いつまでも拘束していれない。
抵抗力が強過ぎて【影操作】を使っている俺の体力が多く消費する。
ましてや、魔力を分け与えて動く分身の寿命は長くない。
1人1人と消えていく分身によって拘束が緩まっている。
その結果どうなるかは言わなくても分かりきっていた。
再度襲い掛かる賢竜。何度も何度も邪魔をされて粗が出始めているのが不幸中の幸いだ。
「言い残す言葉はあるか。弱き中では戦えていた人間よ。」
「人間ってのは群れで行動しているのが何故か分かるか?数ってのが立派な武器になり得るからだ。」
横から井村の【迅雷投擲】がインテグリルを襲うが、それを予知していたのか見向きもせずに振り払う。
「これがお前の言っている武器の力か。実に稚拙で実力不足だ。数が必要であるなら全人類をここへ集めることを勧めよう。」
「自惚れている所悪いが、実力不足だと決めつけるのは早い見たいだな。」
投擲物は振り払ったインテグリルの腕に張り付いている。
ただ張り付いているなら害を及ぼさないがスライムのような質感で徐々に広がり始めた。
人間の作った魔導具なんかと触れ合う場面は少ないので、未知の物体に嫌悪感を抱いくのは必然か。
「小賢しい奴らだ!全てを滅ぼすことでこの茶番も終わりだ。【激竜解放】”混沌を呼ぶ厄災”」
洞窟内に漂っていた邪気が一斉に賢竜に集まりだす。
勢いで魔導具は消滅、周りの岩も砂に変わるほど粉々になっているのが分かる。
俺達も同じ末路を辿るのは勘弁して欲しいので止めに行く。
「精霊の鏡によって生み出される聖気とどっちが強いか勝負だな。」
衝突する光と闇によって洞窟内の至る所が破壊されていく。
永遠に決着がつかないようにも見えるが、徐々に邪気が消えているのが分かる。
恐らく、進化刀の進化する際に多くの邪気を吸収したことと、相手の精神が安定していないことが関係している。
賢竜もこのまま黙って見届けるはずもなく、噛み付いて確実に俺を殺そうとする。
手が離せない俺は一度中断しないといけないが、そうなるとあの技が完成してしまう。
死んで英雄になるか、全員道連れになるしかない。
覚悟を決めてその場から動かないと誓う。
「ここが気合いMAXな漢の魅せ所!今まで死んでいった仲間の分の思いも受け取りやがれ!【パリィ】!!!」
スキルレベルは1しかないはずなのに、鉄の鍋蓋を持ってここまで来たのか。
絶対にそれでは防げないと思ったが、どこからか湧き出た摩訶不思議な力によって見事に弾き返す。
大きく仰け反ったことにより体勢は崩れてしまい、次俺に攻撃する時には邪気は消滅しているはずだ。
「あの隠された力を持つ7人ではなく、凡人な男にこの私が攻撃を防がれるだと!ありえないありえないアリエナイ!」
「それだけじゃない。お前はあれを防がれたことによって敗北は決定したも同然だからな。これを機に人間の強さを学ぶんだな。」
好転した機会を逃さないように最後の仕上げに入る。
アルキフナルと賢竜の因縁は長い歴史を経て終幕を告げるだろう。
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