第133話 乱心
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「思い出した振りをしている。消したい過去なんだろ、向き合いたくないんだろ?」
「あぁ、俺が悪いところはあったからな。それで友達を2人失った。他の奴らは真一だけを責めているが、俺にも背負わないといけない落ち度がある。」
「だったら、逃げろよ。今までだってそうしてきた。辛い過去だ。死人まで出た。」
よく分かってるじゃないか。さすがは俺だ。そうやって今まで逃げてきた。
自分に非があると思うが、中途半端に責任からは逃れる最低な人間だ。
それでも生きる術として身に付いたこれは簡単には消えない。
明日も明後日も嫌なことからは目を背け、取らないといけない責任からのらりくらりと逃れようとするだろう。
いや、予測ではなく決まっている事実だ。
だけど、俺も1人の人間。結局、最後は自分で自分のケツを拭くしかない。
「これは罰なのかもな、散々逃げてきた俺にとっての。でも、もう十分逃げてきた。逃げて逃げて疲れ果てた先で振り返り立ち向かおうという意志が芽生えた。」
「随分と無責任だな!それで傷付く人間はどうなる!それもまた逃げるってのか?」
偽物の俺と変わりだそうとしている俺の感情の間に矛盾が生じ始めているのか、余裕がなくなっているように思える。
荒々しく取り乱し、強い口調で責め立てる。
俺自身の迷いが目の前に可視化されている気分だ。
作られた握り拳はふと緩められる。
戦うことをしなくて良いと気付いたから。
仮に殴られることがあっても甘んじて受ける必要があるから。
「なんで平然と立ち尽くしてるんだよ。俺を殴り飛ばして、この幻術を解かないといけないんだろ!来いよ、気が済むまで殴り返してやるからな!」
「どうしても殴りたいならそうしろ。これで幻術が解けなくてもずっとここにいる覚悟を決めた。」
ハッタリなどではなく本心からの言葉。
今までの自分も悩み苦しんでいた。決して忘れてはいけない過去だから。
それも今日で終わりにしよう。忘れるのではなく、向かい合うというたったそれだけで。
腹に一撃喰らう。鳩尾に直撃して吐き気を催すがなんとか止める。
重たい。逃げた時間だけ殴る強さは増しているのだと思う。
「さすが俺。良いパンチだな。」
「余裕ありますよってか。冷静を装えば凌げると思ってるのか?そんなの反感を買うだけだろ。」
沈黙の時間が流れる。
分かっているはずだから何も返事はしない。
ただ、変わることについて異様に怯える。
1歩先の景色がどんなものか、手に届くはずの範囲なのに全く見えない。
足を踏み外す可能性だってある、何かに衝突してつまづくことだって。
だから、今までの俺が愚かだとは思わない。むしろ、懸命だった。
「次の攻撃は避けないとまずいんじゃないかァ!?」
心なしか先ほどよりも軽い。
が、頬へ当たったことによって口の中が切れてしまっている。
痛みよりも力が弱くなったことへの関心が強い。
幻術が薄れてきたのではないはずだから、原因があるとすればもう1人の俺にあると言える。
「痛みを伴ってもまだ受け止めるつもりなのか。」
「それだけの覚悟を持って前に進む。それも良いと思える環境が近くに広がっていたからな。」
「過去の俺はどうなる。無かったことにするのか。罪を償うことなく、自分だけ成長して美談で終わらせるのかよ。」
「そう見えるかもな人によっては。でも、お前はどう思う。俺が美談で終わらせようとしているのかどうか。」
俺がどうなろうと思っているのか気付かないはずがない。
そんな人間じゃないことぐらい知っている。
反論が返ってこない代わりに暴力で返ってきた。
果ては倒れ込んだ俺に馬乗りになって何度も何度も殴り続ける。
どれだけ殴られても痛みは感じない。
痩せ我慢などではなく、殴られるよりも何倍もの痛みを知っているから。
「・・・どうしてだよ。どうして今更。今までだって機会はあったはずだ。あれだけ苦しんできたのになんで今更解放されようとする。」
今更だけど、今だから変われる。
自分と向き合う機会なんて今後あるとは思えないからな。
既に殴る手は止められてただ胸ぐら掴んで激しく揺らされるだけ。
あと少しで気持ちの整理が出来てしまうのかもしれない。
あの事件を片付けてしまって良いものかと何年も悩んできた。
きっと記憶のない空白の期間も悩んでいたに違いない。
「今はただそんな気分だっただけだ。」
「俺を否定して先へ進むのか。」
「どうあがいても過去の俺が消える訳じゃない。記憶の一部としていつまでも残り続けるだろうな。」
馬乗りから解放される。
俺が立ちあがろうとすると手が差し伸べられた。
もう1人の俺の顔は悲しい表情を浮かべている。
「戻る場所があるんだよな。行けよ。今のお前なら数倍強くなっているはずだ。」
「なんだろうな。俺に言われる変な感じがするが、1番信用出来る言葉だな。」
挨拶をすることはなく、横を通り過ぎていく。
振り返ってどんな表情なのか見てみたいが、今は歩くしかない。
なんだか怒られてしまいそうな気がするから。
真っ直ぐに歩いていくと徐々に元の場所へと戻っていくのを感じる。
どういった仕組みなのか分からないが、自分の足でここまで来ることができた。
他の人はまだ幻術に囚われているようだ。
待機時間中に進化刀を握りしめて素振りを始める。
いくら怠惰な俺でも、あのことがあった後では時間を無駄にできないという認識を持つ。
1人、また1人と確実に現実世界に戻ってくる。
前にも似たようなことがあったが、その時と違って焦りも不安も恐怖も感じられない。
俺以外の人もまた俺と同じように突破して来たはず。
だから、あえて何があったのかなど口にしない。
全員が揃うまでにはそう時間は掛からなかった。
戻って来た時の顔は全員大きな決断をして来た顔に。
「行くか。時間は有限だからな。」
大城がいつもの様に指示を出したことによって、全員が歩き出した。
いつも以上にバラバラな足並みだけど、いつも以上に向いている方向は同じ方向を向いている。
「結局、宮武の覚醒スキルは正解だったのか分からなかったな。」
「そうね、今回ばかりは人の感じ方次第って感じだものね。」
「僕は良い体験が出来ましたよ。実に興味深い結果も出ましたから。」
確かに上野だけ表情が明るい。
最初はいつもの痩せ我慢かと思ったがどうやら違う様だ。
他人というのは推し量れないというが、こいつはその中でもトップクラスだな。
そんなことを考えていると大城が立ち止まる。
それに合わせて俺達も。
何事かと思ったが、正面の大きな門を見れば説明は不要だった。
本物か分からないが、門は骨で出来ていて所々に頭蓋骨が見える。
実に趣味が悪い奴だ。
確証はないがこの扉の先にインテグリルがいるような気がする。
もしもそうであるなら最終局面にいよいよなっていく。
重い扉が鈍い音を立てながらゆっくり開く。
そこに待ち構えているのは、人の姿をした生き物。
ただ、それが人間じゃないことはこの距離からでも分かる。
「ようこそ、私の世界へ。侵入者、いや挑戦者として歓迎すべきか。まさか、村の人間も一緒になって反乱を起こすとは思ってもいなかったよ。退屈しのぎにはなってくれよ?」
間違いなくそいつが賢竜だった。
緩やかな口調の中に感じる威圧感が俺達全員を襲う。
一瞬でも気を抜いたら死が待っている戦いが始まった。
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