第132話 友情と愛情
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自分を客観的に見るのはなんとも不快な感じがする。
ましてや、それと戦わないといけないなんて不毛すぎて呆れてしまう。
「俺自身が傷付くところは見たくないんだ。さっさと消えてくれ。」
偽物はその言葉を聞いてぴくりと体を反応させる。
一瞬、願いが叶うのかと勘違いしたが偽物はただ大きな声で笑い出すだけ。
何が可笑しいと問いただすまでもなく語り出した。
「お前はそんな人間じゃないだろ?自分のことなんてどうでも良くて、困っている人見かけたら結局文句を言いながら助ける偽善者。聞こえだけは良いけど助け方は問わないからな、結局不幸になる奴等が出てくる。」
「まるで知ったような口ぶりだな。」
体や喋り方だけじゃなく情報まで完璧に再現されているのか。
なら、これ以上口を開いてもらっては困る。
じっくりと会話するためにここへ来た訳じゃないし、過去を振り返るのも好きじゃないからな。
「知ってるさ。俺はお前なんだから。」
気持ちの悪いセリフだ。
たかだか幻術の類でこうも気分を害するとは思っていなかったな。
まずは、顔を狙って拳を突き出す。
俺ならこの攻撃で弱音を吐いて逃げ出してしまうだろう。
「当たらない。そんな攻撃。お返しにこれでも喰らってろ。」
脇腹に蹴りを一撃入れられる。
痛みが全身を駆け上がり、膝をついてしまう。
ただ痛いだけじゃない。模倣品がオリジナルを超えているという事実がより一層の傷つける。
「俺が俺を否定する限りは、勝つことなんて無理だな。」
「俺は哲学には興味がないからな。自分をどうこうってのはよく分からない話だ。」
ここは偽物のペースになった空気を取り戻すために知恵を振り絞る必要がある。
あれがもしも完璧に俺を模倣しているのであれば、近接戦闘の心得はないはずだ。
狙いは機動力を奪うための足下に切り替えるべきか。
武器が使用できない分、いつも以上の神経と身体能力を必要とされるのが懸念点ではあるな。
それに、俺の真似をしている癖にあいつは常に最高の状態を維持している。
これでは一方的な戦いになるのは必然。理不尽すぎる試練に不満はいくらでも出る。
「考えごとばかりで何も動けない。だから、あの時失うことになった。」
耳が痛い話だ。
今まで心に蓋をしてその話題に触れないようにと逃げてきたのに。
心理戦まで不利となるといよいよ勝ち目が薄くなる。
もはや、何も考えなくて良いように絶えず体を動かした。
左へ右へと意識を1つに絞らせないよう攻撃に変化をつけて工夫する。
1つとして成功がないことに苛立ちは募るばかりだ。
「どうした?事実から目を背けることもまともに出来ないのか。いつも冷静を装っているが、その実、人一倍俺は感情的な人間だもんな。」
「感情のないロボットよりかは良いだろ。それに冷静で余裕がある方が大人としての格好良さがあるだろ?」
これが今できる限りの抵抗だった。
耳痛い言葉は正面から当たらない。冗談めかして遇らうことで、少しでも傷付かないようにする。
人間はガラスで出来ているように脆い生き物だと知っているから。
「その顔は少しずつあの事件を思い出してきたって顔をしているな。逃げても逃げても結局そこに戻ってくる。知っててもなお逃げ続けるのか。」
「真一も偽物の俺も幻影はあの事件に触れないといけないルールでもあるのか。」
「それはお前が1番気にしているという確たる証拠さ。何せ、晴子が死んだのは俺のせいなんだからな。」
「あれは真一が殺した。だから、俺には・・・」
悪くないという言葉だけが出てこない。
その言葉だけは出してしまってはいけない気がしたから。
◇
俺と真一は高校で仲が良くなり大学も同じところへ行った。
そして、その大学で1人の女性と出会うことになる。女性の名は、晴子。
162センチと女性にしては高い身長と腰まで伸びた艶やかな髪が印象的な女性だった。
いつも遊ぶ人数が2人から3人に増えただけのこと。
俺はそう思っていたが、今となって考えると2人にとっては違っていたのかも知れない。
夏休みになると遊ぶ時間もかなり出来て3人で行動することがより増えてきた。
遊ぶ時の集合場所は決まって大学付近のファミレスで、他の人を待つ間にドリンクバーで粘るのだった。
その日もいつものようにファミレスへ行くと、先に真一が待っている。
流れるようにその席まで行くと真一の表情は穏やかなものでは無かった。
今日は多少機嫌の悪い日なのだろうと気にも掛けていなかった。
「遅いな晴子。時間過ぎてるだろ。」
「あぁ、そうだな。・・・なぁ、晴子ってどう思う?」
「どうって何がだよ。」
あまりに曖昧な質問だったので、問いで返してしまう。
しかし、返答はないので自分なりに”どう思う”の意味を考える。
「うーん、あの成績でよく大学に入れたよな。」
「そうじゃない、色恋としてどう見えるかって聞いてるんだ。」
「色恋?うーん、顔は可愛いんじゃないの。」
あまりにも興味がない話題だったので当たり障りのないように答えた。
これ以上、話が盛り上がって欲しく無かったので携帯とにらめっこを始める。
「ごめーーん!遅くなっちゃった!行こっか!」
ナイスタイミングで登場した晴子によって気まずい空気が流れることなくその日を終える。
恋愛に疎いことなど真一がよく知っているのに、あの質問をした意図がその時は本当に分からなかった。
なんとなくその日を境に遊ぶ頻度は減った気がする。
いや、前が毎日のように顔を合わせていたから減ったと思うだけなのだが、それでも確実な変化は起こっていた。
それから数日経ったある日のこと。
目が覚めるとぼんやりとしたまま朝食の準備を始めた。
コーヒーを先に用意してトースターを焼いてるうちに、コーヒーを飲みながらニュースを見る。
俺はあるニュースを見て、時が止まったように感じる。
真一と晴子の死亡を告げるニュースだった。
2人の死因はナイフによって刺されたからだと言われている。
そして、その凶器からは真一の指紋しか出てこないところを見ると心中の方向で捜査を進めるらしい。
もちろん、警察が事情聴取へやってくる。
俺が犯人である可能性も確かにあるが、親友を失った俺へ酷なことをする連中だ。
何時間も拘束された後に解放された。
また、インターホンが鳴らされて警察が来たのかと思い乱雑に扉を開ける。
立っていたのは警察などではなく、歳が50代くらいの女性だった。
俺は1度も会ったことはないけれど、恐らく彼女は真一の母親。
まだ息子がこの世から去ったショックがあるからか、事務的に話をして1枚の手紙を手渡し帰っていく。
急いで手紙を読むと内容は想像もしないものだった。
俺が晴子のことを好きだと思った真一は取られてなるものかと思い告白したらしい。
しかし、晴子は俺のことが好きだったらしく影で両思いになっている2人に怒りを覚えたようだ。
なんと幼稚な理由で晴子を殺して自殺をしたのか。
この結末は、俺が晴子のことをなんとも思っていないとハッキリ言えば起こらなかった事件。
俺はこのことを一生背負うことでしか許されることはない。
◇
「その顔、しっかりと思い出してきたようだな。」
「忘れてない。ただの1度もな。」
心の奥底に閉まったはずが、こんな形で現ることになるとは。
その瞬間、ズキズキとどこかに痛み始めた。
痛い場所が体なのか心なのかは分からないが、これ以上は長引かせたくない。
やっと俺はもう1人の俺と向き合って勝負を挑んだ。
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