第131話 たった1人の自分
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
よければ、評価とブクマ等していただければ幸いです。
時間というのは、その時の気持ち次第で如何様にも早さを変える。
見張りをしていた時は永遠とも思えた時間も、変わってしまえばあっという間に過ぎていく。
睡眠時間もきちんと確保はしているが、自分の体はいつにも増して欠伸が止まらない。
今日も1番最後だろうと思って辺りを見渡すと、昨日の疲れもあってか全員泥のよう眠っている。
それを見ると健康的な生活を送っている自分を賞賛したくなる気持ちと、まだ眠っていても良かったのかと後悔する気持ちが両立していた。
このまま二度寝しても良いが、せっかくなので起きておくことにしよう。
狭いテントでは息苦しく感じるので、ふらふらっとテントから出ると微かな風に揺られてコーヒーの匂いが香る。
洞窟内でなければ、なんと心地の良い寝起きだろうか。
「珍しく1番に起きましたね!」
最後の見張りは、朝食の準備もあるので清水となっている。
まだ誰も起き出す時間帯でないことを考慮するとあれは自分用のコーヒーだったのか。
じっと固まっていると清水が慣れた手つきでカップを用意する。
欲しがっているのが声に漏れていたのではないかと思うほどに察しが良い。
「はいこれどうぞ!入れたてだから熱いので舌火傷しないようにしてくださいよ。」
「子供か俺は。」
「大体そんな感じだと思ってますよ。」
たまに見せる笑顔でクスクスと笑って答える清水。
俺だって子供でいられるならずっとそうしたいものだが、生憎年々衰えるので確実に大人へと成長している。
悲しい事実から目を背けるようにコーヒーをいただく。
カフェインというのは、なぜこうも脳内をクリアにするのだろうとしみじみ思う。
それと入れてもらったコーヒーは確かに熱くて舌を火傷しそうになったのはここだけの話だ。
優雅な時間を楽しんでいると次々に起床してくる。
そして、1人も例に漏れることなくお化けや妖怪を見たような目で驚くのはやめてくれ。
たまには俺が早起きする日があっていいだろ。
「い、いやー今日は天気が良いですねー。」
「下手な会話するな。後、俺が早起きしていたら気まずいのか?」
「やだなー冗談じゃないですか。・・・たぶん。」
目覚めが良いタイプなのか上野は元気そうに俺に絡んでくる。
俺が寝起きだったら絶対に無視していたな。
全員が揃った頃には簡易テーブルの上に食事が準備されている。
ちなみに最後に起きてきたのは小原で、自分以外が起きていることに驚いて慌てながら席に着いていた。
食事を進めながらも洞窟内のことを共有する。
と言っても難しい話などは一切なく、昨日の魔物の大群がどうだったとかが主な内容だ。
「強さはなんとかなりそうですけど、量が多過ぎますね。昨日のようなことがまた起こったら辿り着く頃には疲労困憊ですよ、きっと。」
清水の言葉は最もだった。
全貌の見えない道を進むには根気と体力が必要だ。
魔物に割ける分も自ずと少なくなる。
「僕も気になったことがあります。魔物の統率力。いくら賢竜と言えどあれほど完璧な軍隊のように使役出来るでしょうか。」
そういえば昨日も似たようなことを言っていたな。
俺には何も感じなかったが強く引っかかるのであればそうであるのかもしれない。
いや、そうで無かったにしろ可能性を考慮するのは正しい選択だと言える。
「なぁ、イチノセ。昨日のハンソンが言っていたことが本当なのかも。」
気を遣ってなのか俺だけに聞こえる声でそう呟いた。
クルートには悪いと思うが、あれが本物のハンソンという男だったかは分からない。
人の心に漬け込んで迷いを生ませるのが狙いの可能性だって十分にあり得る。
「とにかく行くぞ。迷っていたら解決する訳じゃない。」
いつものごとく、大城の言葉によって会議は終了する。
気になることもあるかもしれないが、確証が得られないうちに掘り下げても混乱を招くだけなので、ここで切り上げる判断が完璧だったと言える。
食器を片付けるのを手伝ったり、テントを畳んだりするなどの準備を終わらせてその場を後に。
移動を始めるという瞬間も上野とクルートは考え事をしている表情だった。
その後の歩みはいつも以上に遅い。
先頭がペースを上げることも出来るが無理矢理そうしたところで後ろはついてこないな。
特に最後尾はこの早さでも俺達の3歩後ろを歩いている。
そうこうしているとやっとの思いで、次の場所まで辿り着いたようだ。
「分かれ道か。何度も行き来出来るなら順序良く進めばいいけどな。」
通常の枝分かれした道ならな。
ここは神殿のように綺麗な内装が施されていて、分かれ道は大きな扉を潜り抜けないといけない。
扉1つ1つから溢れる雰囲気は何か不気味さを感じさせるものがあった。
警戒しないと何が起こるか分からない状況なのは誰が見ても理解できる。
3つの扉にはそれぞれ立て札が設置されており、『光の間』『闇の間』『無の間』と書かれている。
「どれが正解だ?というより正解があるのか?」
「こればかりは僕にもヒントがなさすぎて分からないですね。」
頼りにしていた上野をチラッと見ると、流石に情報ゼロから考えるのは難しいようで首を横に振る。
しかし、分からないと言いながらも目を凝らしながら看板に近づいて仕掛けがないかなど隈無く探し始めた。
何分かして戻ってきた時もまた首を横に振る。
「恐らく、看板の文字が扉の先のヒントになっていると思うんですが、それ以上は何も。」
「ここは私の出番のようね。3択でもしっかりと正解を導き出せるわよ。【運命天論】」
コインは空中へ勢いよく弾かれた。
そして、必要以上に周りながら落下する。
硬貨特有の音を鳴らして地面に落ちた後、1度だけ跳ねて『無の間』に転がっていく。
「決まったわね。さぁ、行きましょ。」
結果がどうだったとか口にしない。
全員が結果を見届けていたのだから。
そうして意気揚々と中へ入る宮武の後を全員が追うのだった。
8人が入ったと同時に開かれたいた扉は猛スピードで閉まる。
まるで獲物は絶対に逃さないと言いたいそうだ。
「なぁ、本当に・・・」
周りには俺の言葉を返してくれる人は誰もいない。
ただただ、白い部屋の中に俺だけが存在するのだった。
どこかでアイツらも同じ状況になっているのだろうか。
「ようこそ、一ノ瀬勇。」
何もないはずの空間から音もなく現れる人物が1人。
服装は俺と同じで、髪や顔つき、果ては声までそっくりだ。
つまりはもう1人俺がいるのと同意義である。
「で、聞きたいことは山ほどあるけど1つだけ。どうするれば出られる。」
偽物の俺はその質問を待っていたと言わんばかり口角を上げる。
俺って笑うと少し不気味だな。
「もう1人の俺のことだ、分かってるだろ?俺を殴り飛ばせば終わりだ。」
人差し指をクイっと曲げて挑発的な態度を取る。
相手は丸腰なので勝てない理由は見当たらない。
手を伸ばして進化刀を取り出そうとする。
しかし、その手は空を掴むばかり。何度やってもそれは変わらない。
「おいおい、まさか進化刀に頼ろうなんてしてないだろうな。漢なら拳と拳の殴り合いだろ?ちなみに、スキルも全く使えない。」
はっきり言ってテンション高い俺はうざいな。
実際にこんな喋り方したことないよなと不安になる。
諦めて、俺は軽く体を動かす準備をした。
よし、勝って戻ったら真っ先に宮武に文句を言おう。
ご覧いただきありがとうございました!
宜しければブックマーク、いいねお願いいたします。
毎日22時から23時半投稿予定!