第129話 過去の敵、再び
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謎の幽霊と会話をした後なのに何事もなかったかのように道を進んでいる。
昔ならリアクションの1つでも見せていたかもしれないが、今ではそれぐらいのことで驚かなくなったものだ。
しかし、それは縁もゆかりもない人間の話。
1人だけは状況が飲み込めず、虚空を見つめてただ促されるままに後ろから付いてくるだけの人間になった。
生贄に出された人間が洞窟に現れたら生きていると思うのが普通だ。
「いつまで落ち込んでいるつもりだ。いなくなった人間は戻ってこないぞ。」
「分かってる!分かってるけど、ちょっと時間が欲しい。」
意味もなくただ歩いていたクルートは立ち止まり、黙りこんだ。
その瞬間どれほどの思いが込み上げてきたのかは計り知れない。
積み上げた思い出の分だけ、動けない時間も増えるだろう。
俺はわざわざ待ってやる必要もないので先へ進む。
それ以上先へは自分の足で進まなければならない。
立ち止まれば立ち止まるほど、足は重くなり底無しの沼へと沈んていく人間をいくらでも見てきた。
なんとなくだが、そんな人々とクルートは違うような気がする。
パンッ!っと大きな破裂音。
何かに襲撃されたかと思うほど大きな音だった。
だけど、音の正体はなんとく分かっている。
「腫れてんの清水に治してもらうか?」
「いや、このままで行く。痛い方が現実と向き合えるから。」
真っ赤に染まった2枚の紅葉は、もう秋を終えようとしているのにも関わらず強く咲き誇っているようだ。
最初はただの頼りがいのない父親かと思っていたが、俺なんかよりも数倍まともな人間だ。
しばらく歩いても洞窟になんの変化も見られない。
立て続けざまに色々なことが起こっていたので何もないと拍子抜けするな。
そうなると自然に集中力が低下していくので、維持させるためにも洞窟内を隈無く観察しておく。
何気ない変化に一喜一憂は出来ない性分なので次の曲がり角に出会したころには、飽きが来ていた。
「ここまで何もないことがあるか。」
黙っているのも限界迎え文句の含まれた疑問を投げかける。
他の人も疑問には感じていたようでうーんと唸り声を上げて考える動作を見せた。
幻術の可能性も考えられたが、どうやら違うらしい。
ただの何もない洞窟。
これも賢竜の仕掛けた罠の1つであるなら人間の心理をよく理解している。
「まぁ、何か発見があるまでは・・・」
上野の言葉を遮るように何かの鳴き声が聞こえる。
俺達はこの鳴き声を聞いた事がある気がする。
慎重に壁に沿って歩く。音が出ては気付かれてしまうので息1つにも神経を使わなければならない。
「これはリトルオーガですかね?」
「あぁ、色までは一緒じゃないが恐らくアロット近くで戦ったリトルオーガだろうな。」
あの時の苦労は良い思い出になっているが、今回はそうならない。
「今の僕達には敵じゃないでしょうね。僕が行ってきますよ。」
1人でも勝てると身勝手に飛び出していく上野。
普段ならこういうバカな行動は取らないが、今までの退屈を晴らすためなのだろう。
近付く上野を警戒し振り下ろされた金棒を冷静に避ける。
始めは狙って上野に攻撃していたリトルオーガは、当てられないことによって乱雑な攻撃に変わっていく。
これには上野も対処できないかと思い援護に入ろうとするが、上野は俺の想定以上の実力を見せつけてくる。
「【火魔法】+【衝撃】!」
燃える衝撃波は、金棒だけでなくリトルオーガごと焼き尽くしていく。
これでリトルオーガも限りある生命を終えることになる。
「ウガァアアーーーー!!!」
雄叫びは洞窟内に響き渡る。
耳を塞がないと気絶してしまいそうなほどうるさい。
しかも、これは死にかけの生物が最後に上げた咆哮などではない。
体の火を消し、神秘的な輝きを放ち出した。言うまでもなく反撃を始めようとしているのが分かる。
「ただのリトルオーガじゃないってことか。どうだ上野!援護は必要か!」
「こんなことで必要になる訳ないじゃないですか。むしろ、今からが本番ですね。」
自分の攻撃があまり効かなかったことで余計に闘志を燃やす上野。
進化するのは、相手だけではないということを見せつけるようだ。
【悪心】
記憶を取り戻した人間だけが使える特殊なスキル。
多少凶暴な部分が出てくるもののそれと引き換えに強大な力を得る。
上野は【悪心】を使い圧倒的な力の差でこの戦いに幕を下ろすつもりらしい。
先ほどの火魔法よりも静かでありながら強さは数段上の炎がリトルオーガを襲う。
一瞬でも上野の心配をしたのが間違いであった。
もはや、抵抗という機会すらも与えぬまま消えていく。
近くに行くと灰も残っておらずドロップアイテムだけが残されていた。
「それ、杖じゃないか?」
人の身長より少しばかり小さい杖は先がくるりと曲がっている。
「どんなスキルが付いてますか?」
「スキルが付いてる前提なのかよ。まぁ、【鑑定】」
名前:鬼杖・酒毘天々
説明:鬼のように威圧感のある杖。作りがとても頑丈で硬さはオリハルコンと同じと言われている。魔法の威力を上げるものとして使われるが、一部はただ振り回す凶器として使うことがあるらしい。
スキル:【身体強化】Lv1 【魔力強化】Lv4 【魔力解放】Lv2
もしこれを使うとすれば上野か清水の2択になるな。
どちらにも利点があると言える。が、倒したのが上野のことを考えると必然的に上野が所有することになるか。
手に取ると軽く振り回す上野。
慣れた手付きで操作をしているのを見ると器用なことが伝わる。
元々定まった武器を使っていた訳ではない上野にとっては最高のドロップアイテムかもしれない。
「それにしても、洞窟の中にリトルオーガがいるのは不思議ですね。あの魔物は集団生活を好むので生活のしやすい森などを選びますから。」
いつの間にか魔物のことにも詳しくなっていた上野が解説を始めた。
生息地でないにしろ存在したことは事実だ。
情報との差異に悩む必要性もないだろう。
「アンタらがゆっくりしている間に次が来たわよ。」
次の相手は、ファイアードラゴンの幼体である。
ここで俺達は既に気付いていた。
今まで戦ったことのある魔物が次々と現れていることに。
「あれも前に戦った時より強くなってると思う?あれだったらかなり面倒なんだけど。」
「そこじゃないだろ。これを倒したところでまた他の魔物が生み出されるだけだ。何か仕掛けがあるんだとしたら早いうちに対策しないと。」
「話は後にしてよ2人共。ワシらだけじゃ耐えられないから!」
井村の悲痛な叫びによって戦闘に参加する。
上野がいないところを見ると仕掛けを止めるのはアイツの係だろうな。
なら、時間をできる限り作る必要がある。
「ゴブリンも出現したから清水と小原で頼んだ!」
「「了解です!」」
数種類の魔物が登場したことによって戦場はあっという間に騒がしくなる。
退屈を嫌っていた少し前の時間を返してほしいぐらいだ。
急激に魔物の相手をすることになったので、まだ体は温まっていない。
それでも俺はため息をつきながら1番厄介であるファイアードラゴンに刀を向けた。
この戦いが長引かないことを祈りながら戦いに専念しよう。
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