第125話 慎重な挑戦者
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俺達の朝は早かった。
というよりも、一刻も早くドラゴンを倒したいという気持ちに溢れているクルートに叩き起こされたというのが真実だ。
再三に渡って言うようだが、娘の命が掛かっているからの行動である。
分かっている。分かっているつもりではあるが、少々暑苦しくも感じているのは俺が冷たい人間だからだろうか。
「気合いを入れ過ぎですよ。空回りしたら勿体無い。」
自分より娘の方が歳の近い青年に注意を受ける大人。
少し大人しくなったのは羞恥心というのを持ち合わせていからか。
腹が減っては戦が出来ぬと良く言ったもので、こんな状況でも腹が減り活力はどこか失われているのを感じた。
具材がほとんどないのに野菜の旨みがしっかりと感じられるスープに、お世辞にも美味しいとは言えない硬い自作のパンが1つ。
クルートはいつもよりも乱暴にその朝食を食べている。
焦って食べても時間は誤差の範疇でしか変わらないというのに。
「お父さん、恥ずかしいからゆっくり食べてよ!」
娘の言葉を聞いてゆっくりと食べ始める。
これではどちらが親か分からないな。
「ご馳走様。・・・少し先に外に出ているから準備が済んだら呼んでくれ。」
こんな空間では心を落ち着かせることも満足に出来はしないので、外の空気を吸って時間を待つことにした。
他の奴らと違って昨日用意したもののないので、準備の必要性もないしな。
2番目に食事を終えて出て来たのはクルート。
途中で喉に詰まらせたのか涙目になっている。
誰かに本気で怒られたとかではないだろうな。
「ゴホッゴホッ。本気で死ぬかと思った。」
「お前、今までどうやって生きて来たんだよ。」
「失礼な奴だな。俺はこの厳しい環境を生き抜いて来た男だぜ?」
俺の経験則が正しければ、こういった昔話をする奴に碌な奴はいない。
もっと言えば今までの厳しい環境にいたのは生贄にされてきた本人や親族であって彼ではない。
いや、この村全員を等しく家族と捉えるタイプの人間であるならば。
どちらにせよ俺が共感できる話では無さそうなので返事は沈黙で返そう。
「俺の娘も同じ反応をよくするよ。嫌なら口で言えっての。」
「口で出して悲しそうな反応をしなければ問題なくそうしてる。」
まだそうした訳でもないのに容易に想像ができてしまう。
「楽しそうに会話しているところ悪いけど、準備は万全よ。行きましょうか。」
この会話が楽しそうに見えるのは、どういった脳の構造をしているのか今度じっくりと話合う必要がありそうだな。
それにしても今から戦況の地へ赴くというのに何とも拍子抜けした会話をしているものだ。
洞窟へと続く道は前回と同じなので変わり映えがない。
そのせいか緊張感も不思議と薄れてしまっている。
このまま何もない時間が続けば良いのにと感じてしまうほどであった。
その後も各々会話を楽しんでいたが、洞窟が目の前に来ると空気がガラッと変わったのは敵の強さ故だろう。
「本当に薄気味悪い場所ね。さっさと倒して帰りたいくらいよ。」
「それが可能であればとっくにしていると思いますけどね。」
余計な一言を付け足した上野。
言い方はあれだが言っていることは正しい。
今回の挑戦で討伐することを望むのであればより一層慎重で無くてはならない。
ただ宮武も本気で言っていた訳ではなく、正論で返されたことに腹を立て1発小突いていた。
手加減しているようにも見えたが、それに対してオーバーなリアクションを取っている。
張り詰めた空気は2人の寸劇によっていつも通りの調子に戻っていた。
「気を締めていくぞ。」
大城の掛け声で俺達は暗くて先の見えない洞窟へと足を踏み入れていく。
前回と同じ所が少なく本当に同じ洞窟か疑いたくなる。
ただ、嫌に冷えていている空気だけは変わらないようだ。
賢竜の罠がどこに隠されているか分からないので慎重になって歩みを進める。
もしかすると、既に術中に嵌っている可能性もあるかもしれない。
洞窟内を2〜3分進んだ時のことだった。
魔物の大群が通路を防ぐように敷き詰められている。
そしてそれは随分と先まで続いているようだ。
別の道があるのであれば時間が掛かったとしても引き返してそちらを選ぶのだが、生憎ここまでの道は1本道。
残された選択肢は1つ。
みんなそれを分かってはいるが、実行すうにはあまりにも気乗りするものでは無かった。
「仕方がない。倒して先へ進むぞ。」
「この量を倒すのは現実的ではないけど、そうする他ないですよね。」
2人が先導して魔物に挑み始めた。
洞窟内の通路という狭い場所なので大技を使うのも躊躇われる。
ならば、進化刀の活躍の場ではないだろうか。
進化刀を引き抜いて、少しばかりの深呼吸で気合いを入れる。
後は何も考えることなくひたすらに刀を振るだけだった。
無心になっているつもりでも、魔物を斬り裂いた感触や血の匂いがどうしても頭の中に入り込んでくる。
気付けばかなりの返り血を浴びていて、血独特の鉄の匂いが至る所から匂ってくる。
後ろを見ると死体は山のように積み重なっており、移動するのにも苦労しているのが分かった。
「あんたどんだけ戦闘狂なのよ。ホラー映画並みに血だらけじゃない。」
「最初に掛ける言葉はそれで合っているかしっかり考えた方がいいぞ。これだけ血が付いていれば、流石の俺だって今すぐにでも着替えたいくらいだ。」
しかし、そんな悠長なことはしていられない。
ましてや荷物になる着替えなど持ってくる訳が無かった。
先頭で立ち止まっている俺達を不思議に思い続々と人が集まる。
「どうしたんだ。何か問題でも起こったか?って汚ねぇなー、ちょっと待ってろ。【家事】”クリーン”」
クルートのスキルによって俺の体や服は一瞬にして綺麗になった。
これはかなり便利なスキルだなと感心していると自慢げに話を始めるクルート。
「いいだろ?戦闘系のスキルは全く持ってないけど生活系のスキルは持ってたんだぜ?」
「初めて有能な部分を見つけることができたな。」
「ま、まぁそうだな。戦いでは役に立たないかもしれないけどこっちはいつでも頼ってくれ。」
まだまだ元気があるようで幸いだ。
それに、魔物もまだ手こずるようなレベルのものはいない。
賢竜がそんな単調な仕掛けだけを用意しているとは思えないが今はただ前へと進んだ。
次に出た場所は広い空間だった。
不気味にも剣を持った門番の石像が2つ設置されていて恐らく次の道へと続く扉を守っている。
遠くから見るとそこまでだった大きさも近づいて見れば、下から見上げなければ像の顔が見れないほど大きい。
「何か書かれてますよ。えーっと、汝この先に何を求める、ですね。」
「何ってそれはドラゴンをぶっ潰すに決まってんだろ!」
安易に言葉を発したクルート。
不運なことにそれが何かのトリガーだったらしく、大きな石像が動き出した。
何か罠が仕掛けられていることは理解していたが、まさかこんな石像を動かす力まであったとは。
「まずいです!この石像、刃が全く通りません!」
上野が全体に伝わるように情報を共有する。
刃物が通用しない相手に対してどうやって対処すればいいのか。
最初の難関は意外にも早く訪れるのだった。
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