第124話 脈動
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スキルを取得した話を聞くのはもう何回目になるか。
10を越えた辺りから数えることをやめた。
娘は同じ話にも関わらず毎回初めて聞いたかのような反応を見せている。
家族というのは固い絆、いや愛で結ばれた尊いものだと言わんばかりだ。
しかし、他人がいる前ではやめてくれ。
俺の心中があいにく喜ばしくないものへと変化しているのを感じる。
「スキルの1つぐらいで騒ぐなよ。あの後もずっと自慢話聞かされた俺の身にもなれっての。」
「お、おう!でもな、この村は外敵に襲われることがないから戦闘スキルを持ってる奴なんて俺くらいだぜ!」
確かに村の近辺では魔物を見ていていない。
獣の本能のようなものでドラゴンの危険性を感じ取り、付近には近付かないようにしているのか。
「本当に他の奴は戦闘に関するスキルを持っていないのか?普通であれば身に付けようと考えるんもんだけどな。」
機会が無くとも腐る物ではないので取得していて損はない。
むしろ、そう考える方が自然だとまで言える。
「いない訳ではないんだけどな。そいつ、訳あって最近ここに住み始めたんだ。余所者ってことで最初は邪険に扱われていたんだが、根が良い奴だからすぐに馴染んだよ。」
「名前は?」
「そんなもん聞いてどうすんだ。まぁ、気になるなら教えるけど。・・・そいつの名はベルゼ。もしかしたら、お前らに匹敵するくらい強いかもな。」
神妙な面持ちで語るのは、俺達と同等だということを躊躇ってか、はたまた別の理由が存在するのか。
もはや、それを考えるのすらどうでも良くなる情報が語られたことに気付くのは数秒後だった。
ベルゼ。俺達が探し回っていた日本人可能性がある転生者。
半ば捜索を諦めて秘宝集めを優先した節があった。
そうであるのにも関わらず、こうも簡単に見つけてしまうのは神の悪戯であることに他ならない。
「ベルゼって言ったのか。それは本当にベルゼなのか!」
この時の俺は少し興奮気味だっただろう。
気迫ある問いかけにクルートは俺が憤りを感じていると思ったようだ。
体を小刻みに震えさせながらも返事だけはしっかりと返して来た。
「ベルゼで間違ってない!なんなら家の場所も教えてやるから行ってこいよ!」
擲り書きで記された町の地図に丸で場所を示した物を作ってくれる。
俺は奪い取るように地図を手に持ち走り出した。
感謝の言葉を大きな声で伝えながら。
村の規模は小さいのでたどり着くまでに3分も掛からなかった。
地図が正しければここに同じ日本人がいる。
出会えば何か利点がある訳でもないのに気持ちが昂るのは、共通点を持っているからに相違ない。
チャイムなんて立派な物はこの村のどこにも付いていないのでノックを軽く3回する。
間もなく返事は帰って来た。
しかし、返事をしたのは女の声。
目撃情報は全て男だったはずなので人違いだったかと落胆する。
「あの〜・・・。何か御用でしょうか?」
「どうしたリエル。珍しく来客でも来たのか?」
「あっ、ベルゼ様。恐らくそうではないかと思うんですけど、お知り合いですか?」
部屋の中からもう1人の人物が出てくる。
顔を見合わせた瞬間に互いが日本人であることを認識した。
それは顔の作りがどうとか言動がどうとかではない。
脳が直接的に語り掛けてくるように直感的にである。
「いつかこの日が来るとは思っていました。ここでは何ですので上がってください。」
部屋の中へと案内される。
普通であれば初めて来た部屋では、内容や趣味嗜好に目が行ってしまうが俺はそれどころではなかった。
ましてや、隣にいる女性との関係を気に留めることすら不可能だ。
「さて何から話した物か。」
1から10まで語るには数日あっても足りないほど聞きたいことがある。
とはいえ、今はドラゴンのこともあるので長く時間を作ることができない。
脳をフル稼働させて聞きたいことを絞る。
「考えがうまくまとまらないですからまずは名前から。私は、飯野 忠、日本ではただの会社員をしていました。」
「一ノ瀬 勇だ。しがないフリーターだった。飯野はこの世界に来たのはどれくらい前なんだ。」
自己紹介からまずは入った。
ただの会社員とは言っているが日本での行いで気になることが1つある。
彼は罪を犯した人間なのかどうかだ。
俺達は7人とも犯罪者らしい。もし、彼もそうであるならこの世界に送られてくる条件が少しは絞られる。
問題点があるとすればそれをどうやって本人に聞くか。
いきなりの初対面で聞くにはハードルが高い。
顔に出ていたのか飯野が汲み取って話をしてくれた。
「もしかするとあなたが聞きたいのは、犯罪者でるかどうかではないですか?」
「そうだ。それを理解しているということは肯定と捉えていいんだな。」
「えぇ。この世界で他の転生者にも会いましたが例に漏れず全員。」
やはり転生しているのは1人、2人の話では無かった。
なんとなくそんな気はしていたが、確証に至ったのは今この瞬間だ。
「聞きたいことは山ほどある。けれど、時間がないので今日はこれが最後の質問にさせてくれ。」
「えぇ。私に答えられる範囲であればなんでもどうぞ。」
「お前は敵か味方か。はたまた、それにすら当てはまらないのか。」
これだけ知ることができれば後は早急に知るべき情報は少ない。
例え、嘘の証言をしたとしても真偽の審判を持っているので無意味なことだ。
「それを決めるのは君であって、私ではないですよ。少なくとも情報を交換するほどの仲でありたいとは思いますけどね。」
実に曖昧な答え方だ。
どれだけ味方だと本人が答えても俺が邪魔になると判断すればそれは敵と変わらない。
自分の目で判断する他ないということか。
少し話ただけで言動の節々で知性を感じる。
霞を掴むように全貌を見せない飯野に感心と恐怖の感情を覚えた。
この男が敵でないことを祈るばかりだ。
帰り道は行く時よりも長い時間を要した。
気付けば日も落ちかかっていて辺りを橙色に染めている。
晴れるはずだった気持ちはまだ僅かながら曇りかかっている。
「帰ってきたのか。」
他の6人もどうやら用事を終えて帰宅していた。
まだ、クルートはベルゼ改め飯野のことは話していないらしく問い詰められることもなかった。
俺はこのことは言わないでおくことにした。
なぜかと聞かれれば答えはパッと出てこないが、なんとなく大勢で会いに行くべき相手ではないと感じたから。
あの時の会話を思い出すと彼の目は俺では無くその奥深くを覗いているようだった。
「明日はいよいよ洞窟へ再挑戦する。異論のある奴は?」
大城が全員へ念のための確認を始めた。
まさか、ここでノーを突きつける人間はいない。
まばらな返事ではあったがそれぞれの覚悟は決まっているようだ。
「信じていんだよね?私、まだ生きていられるよね?」
不安が大きくなるのは時間が迫って来ているからか。・
まだ10歳にも満たない子供が数日先を生きていられるかどうかで悩んでいる。
それを知ってしまった以上は是が非でも倒し切る必要がある。
時計の針が刻一刻と進んでいくのは誰にも止めることができないのだから。
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