第123話 再選の準備
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「俺を強くしてほしい。」
まだ日が登ったばかりの時間にクルートは頭を下げて乞う。
確かに昨日はあまり役に立っている印象は無かった。
それは魔物が全くいなかったので戦闘する機会が皆無だったに過ぎないが、彼にはそれが理由にならない。
「時間がないんだから今日も洞窟へ行くだろ。」
「いや、今日は行かないですよ。今度は一切洞窟から出ないつもりで攻略を進めるつもりなので今日はその準備をするんです。」
何故、それを俺は聞かされてないんだ。
そう思ったが他の人は知っているらしいので決まったのは俺が起きる前に決まったことだろう。
話が逸れてしまったが、1日空きになるならクルートの願いを誰かが叶えてやる必要があるだろう。
これが俺達に全くの無関係であるならば話は変わっていたのかもしれない。
そうでないのであるから無視することが出来ないのだ。
自分は全く関与しないと決め込んで準備された朝食に手を伸ばした。
温かい料理とはいつの日も美味しく感じるものだと思う。
ここに味噌汁があったなら日本人としては最高の朝食になっていただろう。
清水と小原が早起きをして準備した朝食なのだから、これ以上ない物のことを考えるのはやめておく。
「現実逃避するのは良いですけど、もちろん教えるのは一ノ瀬さんですよ。」
俺の名前を出すのはやめてくれ。
教えることは確定していたとしても俺以外にいるだろ。
てか、頭が良い上野が教えてやれば万事解決だ。
主張は俺の中で固まったのでよしと深く息を吸っていつも異常に酸素を脳に巡らせてから言葉を吐き出そうとする。
「お兄さん、お願いします!私の父をどうか。」
大きな声で娘も一緒に懇願する。
俺は深く息を吸っていたせいか少しむせてしまう。
食事の途中だったのが不幸中の幸いで、食卓の上に用意されていたコップの水を飲み干す。
「何やってんのよ朝から。アンタが無駄な抵抗でもしようとするからそんなことになるんでしょ。」
「他人事だと思って好き勝手言いやがって。・・・はぁー。分かった分かったそこまで言われてたら俺が教えるしかないだろ。」
逃げ場を失った俺は大人しく従うことにする。
明日に向けた細かい準備をしなくて済むのは楽だしな。
ゆっくりと時間を稼ぐように朝食を食べるがそれも長くは持たなかった。
食べ終わったのを見て催促してくるので、着替えを済ませてある程度暴れても問題のなさそうな広場へと移った。
移動中の際にもクルートが「力には自身があるんだ!」とか「武器は斧と鍬が使えるぜ!」とか話ているのを二つ返事で返していたので、着く頃には疲れが出始めている。
「んで?何から知りたいんだ?」
俺の教えられることはあまり数多くない。
無理難題を言ってくるのであれば、きっぱりと言ってやるのも俺の役目だろう。
「戦闘している時邪魔にならないよう防御系のスキルが教わりたい。」
スキルの伝授か。
自分が教えてもらう側になったことはあるが、逆の経験は皆無だ。
「俺もスキルの伝授は出来るかどうか分からないぞ。」
理に適っているのでスキルを求めること自体は否定しないが、俺の知っている方法はあまりおすすめ出来ない。
今でも思い出すだけで理不尽さに絶句しているぐらいだ。
「やってみるに越したことはないだろ。よし、どんなことでも絶対に耐えて見せるからどんとこい!」
俺は無性に思ってしまうことがある。
この世に絶対という言葉は存在しない。
それを分かっていながら使ってしまうから痛い目に遭うことになる。
今回が良い例だ。
「クルート。お前がそういうなら俺は止まらないからな。・・・死ぬんじゃないぞ。」
ダガーを構えていきなり襲い掛かった。
もちろん本当に殺すためにしたことではないが、クルートにとっては命を狙われていると思うのが普通だ。
あの時は俺もそう思ったしな。
「うわうわうわ!何すんだ!」
困惑した情けない声が出ている。それでも手を緩めることはしない。
時間が経過すれば何かしらのスキルが開花するはずだ。
防御のスキルが欲しいようなので守りに専念させるため反撃の隙を与えない。
最初こそ戸惑っていたクルートだったが、稽古が始まっていることに気付いたらしく表情は真剣だ。
それでも、今までただの村人として過ごしていたことが大きく影響して動きが悪い。
どんなモーションの攻撃にも大振りの動作で弾き返そうとするので次の攻撃が防げなくなる。
「これで17回目の死亡だ。本当に連れて行って欲しいなら考えるのをやめるな。何も考えずに防御しているだろ。」
アドバイスするつもりは無かった。
自分で答えに辿り着かなければ結果に繋がらないと思っていたからな。
ただ、例外だって存在する。
経験則に基づいて人は動く生き物なので元々の経験値が少ない奴には多少の言及も許されるだろう。
何せ、いたずらに時間だけが無駄に過ぎていくのだけは避けたい。
常に考えて動けと言われた次の瞬間にはぎこちないながも考えているのが伝わる。
なるべく動きをコンパクトにして次の行動に対応できるように工夫している。
こっちが大きな動きを見せると斧を横にして弾き返してくるようにもなった。
「こっちも少しレベルを上げるか。土魔法”マッドショット”」
飲み込みが早いので、次の段階に移っても良いと判断した。
遠距離攻撃はどうやって対処するのだろうか。
俺の中では最も威力の低い技は使ったので最悪直撃してもなんとかなるはず。
「遠距離は・・・。そんで・・・。」
ブツブツ小声で何かを呟いているクルート。
恐らく今が集中力の限界点に到達したところだ。
考え込みすぎて顔面に直撃してしまいそうになる。
「体に流れ込むように使い方が分かる!【パリィ】!」
あわや大惨事になりかけたと瞬間にスキルを取得していた。
それも攻撃を弾き返すスキルなので汎用性は高い。
経験が無かったとは思えないスピードで成長を見せるクルート。
先祖は生粋の戦闘民族だったのかもな。
「や、やったぞー!!!イチノセ見てたか俺のスキルを!」
子供のようにはしゃぐ大人を見て何とも言えない微妙な空気が広がる。
とはいえ、目標は達成したのであとの時間はのんびりと過ごしても許される。
「明日からまた洞窟へ行くんだろ。イチノセはそんなに余裕そうにしていて大丈夫なのか?」
立て続けに動いていたので一時特訓を中止して休憩に入る。
2人しかいないのでどちらが喋らなければ無言が続く。
だから、こんなたわいもない話を振って来たに違いない。
「他の奴らが食料とかは準備してくれているしな。俺は武器だけ持っていけば良い訳だ。」
「お前らが戦っている所はまだ見たことないけど、強いってことは十分理解した。任せて良いんだよな。」
この言葉にはどれ程の想いが込められているか。
それを知るにはあまりにも彼のことを知らない。
「ドラゴンの強さは理解している。1度だけ幼体と戦ったことがあるからな。成体なら尚のこと強いだろう。・・・それでも、勝たないといけない理由があるなら負けることはねぇーよ。」
このまま何もしなくても明日は来てしまう。
賢竜との再戦は苦い思い出にならないようにと願うばかりだ。
何かを予感させるようにいつもより冷たい空気が肌を撫でた。
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