第122話 賢竜の罠
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「おいどうした。急に頼りがいがなくなったが洞窟は初めてか?」
現在、クルートに案内されて洞窟を散策している。
彼は足を一切止めることなく道を進んでいるがこれが異様だとは気付いていないようだ。
「待てクルート。これは本当に洞窟か?なぜ、魔物が出て来ない?」
「それは賢竜が洞窟の奥にいるからだろ。魔物をビビって出て来ないのさ。俺が生まれた時からあのドラゴンは住み着いているんで、一度もその他の魔物がいるのを見たことがないらしい。」
「らしい?どうして、不確かなんですか?」
「あぁもー、いちいち疑問の多い奴らだな!近寄んないんから噂程度にしか聞かないんだよ!」
気になることは山ほどあるがこれ以上を控えないとクルートの怒りを貯めてしまうだけだ。
「なんであんなに怒っているんでしょうね?」
「俺も胸に手を当てて考えるからお前も一緒になって考えろ。」
割合で言えば俺が7割で上野が3割ぐらいの責任だろう。
いち早く賢竜を討伐して欲しいクルートにとって、慎重性は全く必要としないからな。
焦る気持ちは分かる。何せ娘の命が掛かっているのだから。
しかし、その感情をこの場に持ってくるのは不正解だ。
早くも同行を許可したことを後悔しそうになる。
「止まってください。」
「今度はなんだ!俺は一刻も早くかえって娘を安心させないといけないんだ。」
「生きて帰りたいなら冷静になるべきだ。それに、僕らは現在進行形で相手の術中に嵌められているようですよ。」
何かに気付いた様子の上野。
俺達はまだ何が起こっているのか理解できていない。
勿体ぶる上野に当たり前の問いかけをした。
「んで、それはなんだ。俺達は全く気付いていないけど。」
「この道は普通の道じゃないです。恐らく、何度も同じ道を行き来しているかと。」
「全く景色が違うじゃないか。それに違和感すら感じない。気でも狂ったのか?」
上野は冗談や確証がないことを口に出す人間ではない。
つまり、根拠を持って発言をしている。
そうなれば、次の瞬間には反論している状況が目に見えるな。
「根拠の1つ目、足跡。人が頻繁に出入りする場とは思えないか足跡がたくさんついています。足跡の種類からして人数は8人。僕達の人数と一致する。根拠の2つ目は、移動した経路です。右に計6回、左に計4回角を曲がりました。それぞれの分かれ道の角度と距離を考えれば現在地は入り口付近。しかし、全く見たこともない風景なのは明らかにおかしい。」
これだけの情報を判別できるのは、上野かスーパーコンピュータぐらいなものだ。
その勢いに圧倒されたのか俺に小さな声で話掛けてくる。
「おい、あいつは気でも狂ったのか。同じ言語とは思えないな。」
「気が狂っているはいつものことだが、あいつの頭脳だけは確かだ。もしかすると賢竜なんて聡明な二つ名を相手に対抗心を燃やしているのかもな。」
「問題ないのなら良い。おい!ウエノ、ここから出る方法はあるのか?」
自分の世界に入り込んでしまった上野は一切の返事を返さなかった。
クルートは無視をされたのかと一瞬考えたが、そうでないことは表情を見れば明らかだ。
「こうなったら動けそうにないわね。休憩でもしましょうか。」
「上野の理論が正しければ幻術を操れる可能性もあるな。仮に違うとしても賢竜がこの現象を引き起こしている可能性は高いだろうな。」
「やめてよアンタまで考え出すの。息が詰まりそうだわ。」
「宮武も少しは頭を使ったらどうだ。」
「会話の邪魔をして悪いが2人とも飲み物はいるか?」
他の4人には渡している温かいコーヒーに似た味の飲み物を手渡す。
俺が間に入らなくても問題は無かったと思うが、あれ以上の発言は遮らせてもらう。
洞窟は外よりも日差しがない分温度が低い。
冷気が顔に当たって芯まで冷えていたので、温かい飲み物が染み渡るのを全身で感じる。
「分かりました。ここの脱出方法が。」
「ほ、本当か?なら、なるべく早くここから脱出しよう。このまま野垂れ死ぬのはごめんだからな。」
「少しお借りしますね。」
上野は俺から真偽の審判と精霊の鏡を借りていく。
この2つがあれば幻術を打ち破るが出来るようだ。
言葉に反応を示すだけかと思っていた真偽の審判は誰も言葉を発していないのにも関わらず大きく揺れている。
空間に張り巡らせられた幻術という偽りに反応しているということか。
洞窟内をうろうろと歩き始めると反応する強さが変化する。
とある大きな岩石がある場所に着くと反応が異常なまでにあった。
騒がしく絶えず揺れ動くペンダントを見て、今度は精霊の鏡を準備。
鏡を使うと全体に白い光が溢れていく。
絶えきれなくなった俺は思わず目を瞑ることになる。
「どうやら上手くいったみたいだな。」
「えぇ、僕の辞書に失敗の2文字はないので。」
腹立たしいキメ顔で格好をつけているが、今回は窮地を脱した功労者なので何も言うまい。
出口が見えたので一旦洞窟から脱出を試みる。
『低脳な愚者よ。今回は難を逃れたようだが、2度と我が聖域に立ち入ることなかれ。』
洞窟全体に響き渡る謎の声。
正体は言うまでもなく賢竜インテグリルだろう。
「どうする。対策のしようがないなら賢竜のいる場所に辿りつく以前の問題だ。」
1番焦っているのはクルートだ。
娘の命が掛かっているなら仕方がないが、どれだけ攻略を急いでも結果が伴わなければ意味がない。
相手は洞窟全体に影響を与えるスキルを持っている。
安易に歩みを進めれば、必ずまたどこかで壁にぶち当たってしまうはず。
本人はそれを理解していながら、焦りと葛藤しているのだ。
彼の気持ちを汲み取ってあげるならば今日中にでもまた挑戦したところだが、そうもいかない。
「タイムリミットはいつまでだ。」
「10日後に娘は生贄として出される予定だ。だから、どうかそれまでには頼む。」
頭を下げることにはもはや抵抗などないだろう。
自分のプライドで娘を助けられるなら安い物だ。
ならば、俺達もそれに応えなければならない。
「安心いてください。それだけの時間があれば攻略して見せます。なので、今日は村に戻って明日攻略を再開しましょう。」
洞窟から出ると入った時は眩しかった陽の光もすっかりと姿を消している。
辺りに響く虫の音が夜の静けさをより強調させていた。
賢竜の姿さえも見ることがなく1日目は終了。
残り9日あるとは言え、余裕があるとは言えない日数だ。
帰り道は、誰も言葉が出ない時間が続いた。
1日中洞窟を動き回っていたと言う理由もあるが、敵の力に思う部分があるのだろう。
特にクルートは追い詰められた表情なのが数歩離れた後ろからでも分かる。
村に帰るとライムが門に寄りかかるようにして待っていた。
俺達の姿を見るとパッと明るい表情を見せて手を大きく振っている。
その光景が余計にクルートの胸を締め付けていた。
「すまないライム。・・・まだ、インテグリルは。」
申し訳ないという感情で顔を見て喋れていない。
それを見たライムが彼の顔を両手で掴んで強制的に顔を見合わせた。
「おかえり!」
たった一言だけだったが、クルートの心を救うのには十分だった。
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