第121話 アルキフナルという村
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村は農業が盛んなようで、畑には様々な果実や野菜が実っている。
そのどれもが、見たことのないものばかりで興味が湧く。
「あの作物を売ってこの村は生計を立てているのか?」
「それだけじゃない、何から何まで自分達で作って賄っている。そうしないと金がないからな。」
確かに人々の身なりや食事を見る限り裕福とは到底思えない。
「全部、あのドラゴンのせいだ。食事を献上しないと暴れ出すのさ。そのせいで供給が追いつかなくなってこの有様だ。」
「相当やられたい放題ね。村を移すって考えにはならなかったの?変なプライド守るよりよっぽど生きる方が大事だと思うのだけど。」
宮武はもっともらしい意見を投げかけた。
何も言い返すことはできない。
頭ではそんなこと分かっていても心が追いついて来ないのだろう。
文化や歴史など数えきれないほどの時間で紡いできたしがらみが彼らを掴んで離さない。
「お父さんをいじめないであげて。」
上目遣いで泣きそうな顔をしているライムを見て、あの宮武ですらたじろぐ。
ライムは会話の内容など3割にも満たない程度にしか理解できていない。
しかし、彼女は父親が悩み苦しむ姿を何度も見てきたので、いくら宮武の言葉が正論であったとしても父親の味方をするのだ。
「ま、まぁ、後のことはこっちで進めていくから何かあったら協力して頂戴。」
「本当にすまない。俺が行くべきでありながら人に任せてしまうなど情けない。」
「アンタには家族がいんでしょ。守るべきもののそばにいてあげなさい。」
清水が強く頭を縦に振っている。
家族が急にいなくなるというのは、幼い子供にとってどれだけ悲惨なことか。
「そうだな。もうこいつには俺しかいないんだからな。」
村に帰りついても母親らしき人物と遭遇していない。
なぜかと理由を聞きたいところではあるが、そこまで無神経になれるほど空気が読めなくはなかった。
翌朝、目が覚めると小鳥の綺麗なさえずりが1番に耳へ入ってきた。
普段は起きる気力が起きないほど眠気には弱いのに、朝から自然に触れるだけで目覚めの良くなるのは不思議だ。
いつものように俺が最後に起きてきたらしく食卓には朝食が並んでいる。
先に食べていたようだが、みんな量が減っていないので遅れたのは少しだけだろう。
「ほら、座ってください一ノ瀬さん。これ、私とライムちゃんで作った朝食なんで感謝して食べてくださいよ。」
「お父さんどう?私、初めて料理してみたんだけど。」
不安と期待が混じる目で父親に問いかける。
迷うことなくクルートは返事をした。
「うまいぞ!やっぱり母さん譲りの料理の腕前だな!」
喜んで食べ彼の目には涙が浮かんでいる。
娘の成長と過去の思い出がその涙に繋がのだろう。
「やったー!私、これからももっと料理頑張る!それでお母さんみたいに美味しい料理たくさん作るね!」
「出来るよライムなら。絶対にな。」
なんと感動的なホームドラマだろうか。
俺がまともな人間であれば涙腺はとっくに崩壊していた。
「感動の場面を邪魔して悪いが早速今日洞窟へ様子を見に行くつもりだ。場所はどの辺りか分かるか?」
お構いなしに質問をしたのはもちろん大城。
この人には血も涙もないらしい。
クルートは溜まってきた涙を拭って、深呼吸をしてから答えた。
「俺も付いていく。戦闘はしないと約束するが、案内が出来る者が必要だからな。」
正直なことを言えば足手まといになる人間を連れて行くのは、簡単には了承できない。
しかしながら、彼の意思が変えられないのは今までで学習してきた。
「武器くらいは持ってるんだろうな。」
まだ関わりは浅いがどう見たって彼は一般人だ。
村から出ることもあまり無さそうなところを見ると、武器を持っていないと言われた方が納得できる。
俺の考察とは裏腹に家の奥へ行き。
2〜3分程度探してから戻ってくる。
まだ、見せられてはいないが持ってきた布の中に武器があるのは確かだ。
形状からして長い日本刀のような武器ではないかと予想する。
「先祖7代受け継がれている家宝。名前はアマノムラクモノツルギ。これがあればどんなものでも斬り裂いてみせる!」
その後も自分の家系のすごさを自慢しているが、誰の耳にも届いていなかった。
「念のため確認したいことがある。ドラゴンの巣窟にある秘宝はどんなものなんだ。」
「知らないで魔王討伐とか言ってたのか?ドラゴンの巣窟にあるのは、竜魂っていう秘宝だ。武器に竜魂を宿せば、ドラゴン同様山1つを容易く破壊するって噂だ。」
全くの別物だ。
言い伝えられている能力は普通の魔導具と違い絶大な効果を持つがエルフ族で伝えられた物ではない。
「竜魂っていうのは俺達が求めている秘宝じゃない。」
「違うのか?でも、洞窟にある秘宝って言ったらそれぐらいなもんだぞ。」
あなたの家宝が俺達の求めているものですとも言い辛く、誰も言い出せないでいる。
会話のキャッチボールは既に投げられているのにも関わらず何も返ってこないことに疑問を感じている様子だ。
このままではただ気まずい雰囲気が流れるので誰かがこの沈黙を打ち破らなければならない。
「俺達が求めているのはその天叢雲剣だ。竜魂じゃない。」
「ど、どういうことだ。話と違うじゃないだろ!そうなれば洞窟の件はどうなる。それよりもこの家宝を奪うつもりなのか!」
反応は予想通り気が動転している。
約束を反故にされる不安からか怒りも少し含まれているのも感じられた。
俺はそんなクルートを尻目に悪魔のような笑顔を浮かべる。
悪役に徹する方が何倍も上手くいく事例がここに存在したからだ。
「選べよ娘を愛する父親さん。アンタの選択肢は2つ。家宝を渡すことを成功条件にしてドラゴンの討伐を依頼するか、娘は飽きらめて鉄屑抱いて寝るかだ。」
「・・・それが目的で最初から近付いてきたのかぁ!なぜ、なぜそんな非道なことができる!」
「他の6人がどう思っているかは知らないが、俺は最初っから見返りを求めるつもりだった。そっちばかりにリターンがあるなんて美味しい話はないだろ?」
無償の救いを想定してのだろうが、この世にそんなものは存在しない。
心のどこかには何か見返りを求めているのが人間だ。
「娘に決まっているだろ。こんな物と娘は駆け引きにすらならん。冷静さを取り戻したから俺の口から言わせてくれ。どうか、村に災厄をもたらす憎きドラゴンを討伐してくれ。」
選択肢など本当は1つしかなかった。
家族思いの父親が後者を選ぶはずがないのだから。
強引と思われても仕方ない手法で魔王討伐のラストピースをもらうことを確約した。
残された項目はただ1つ。
ドラゴンに勝つこと。
シンプルでありながら高難易度のお題に頭を悩ませる。
約束した以上は失敗という2文字はない。
どれだけ苦戦したとしても成功へ導く必要がある。
「あの家宝である天叢雲剣をもらうというのは非常に申し訳ないですが、その分ドラゴンの討伐は任せてください。」
「成熟したドラゴンの肉を食べる経験なんて今後ないだろうから楽しみにしてなさい。」
親子の目に俺達がどう映っているのかは分からないが、その目は先ほどよりも幾許か希望の光が秘めていた。
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