第118話 覚醒者の花道
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「隙が大きいよおじいちゃん!【火魔法】”ファイアーガトリング”!」
無数の火が隙を与えまいと絶え間なく襲い掛かってくる。
側から見れば井村はただの老人にしか見えないはずなのに、最初から強力な魔法を使うのは実力を警戒してのことだろう。
「いきなり覚醒スキルを使うのは芸がないと思ったけど、そんな余裕はどこにもないみたいだ。【消失した色彩】」
何が起こるスキルなのかと誰もが注目をしていると、いつの間にか井村の姿は消えている。
数秒後にフウライの後ろから出現する。
しかし、背後に現れた瞬間に研ぎ澄まされた神経によってフウライは攻撃を避けた。
「透明になるくらいなら数え切れないほど見て来たから簡単に対処できるぜ。」
「透明か。その色もまた美しい。まぁ、残念なことにワシのスキルと関係ないよ。」
「どれだけ強がろうとアンタは攻略したも同然なんだよ!【剣術】”裂刃斬”」
井村の攻撃よりも先にスキルを発動させるフウライ。
剣はまだ何も準備が出来ていない井村を確実に捉えている。
このままいけば最低でも腕の1本は持っていかれるな。
今後に支障が出るので、そうでないことを祈るしかない。
「いくら透明になろうとこの攻撃は避けられないだろ?」
「色を消すというのはそう言うことじゃないんだよ。」
また姿が見えなくなる。完全に見えなくなるまでに3秒も掛からない。
消えた瞬間にフウライの攻撃は不発に終わる。
透明化がスキルの正体では無かったらしい。
「隠れているだけじゃ勝ち目はないぞ!出てこい!」
沈黙が続く中、気配すらも感じられない相手に苛立ちが隠せなくなってくる。
確かにここまでで井村の攻撃は皆無。
何がしたいのか。それは誰も理解できない。
「まずは、刃を彩る美しい銀色をいただく。【消失した色彩】!」
もう1度スキルを使用した井村。
その効果は俺達が想定した何倍も強力な効果を持っていたようだ。
発言通り銀色の刃は消えてなくなる。
消えたのは刃だけではない。
舗装されていた砂利の道も街を囲う城壁もかなりの範囲に渡って銀色は無くなったようだ。
フウライは使い物にならない短剣を捨て体術戦闘に切り替える。
ここで動揺の1つも見せないのがA級冒険者としての威厳を見せつけられる。
A級冒険者でも苦戦を強いられているのは、運が悪かったと思って今後を生きてほしい。
「どういう仕組みか分からないが、指定した色の部分を消すスキルか。体術ならどうかな!【体術】”内部破壊一手”」
良い判断だな。
井村が消したのはあくまでも無機物。
灰色を瞳や髪までもが消えることはなかった。
唯一生命を持っている者の中で本人が消えるのは、何か特別な理由があると思ってまず間違いない。
「消えたも物はまた別の物となって生まれ変わる。これが世の中の真理さ。」
その言葉と共に灰色の壁がフウライの進行の邪魔をする。
消した色から新たに物を生成まで出来るのか。
自由の発想と機転を持っている井村には相性の良いスキルかもしれない。
「それぐらいで止まる俺じゃないぜ?」
物の見事に障害物を避けて残る壁は1枚のところまで来た。
「君に勝ち目はないからそこまで頑張らなくて良いよ。」
「やってみないと分からないぜ?」
「空、見てよ。さっきまで綺麗な水色だったのに。」
夜にでもなったのかと錯覚するほど黒い空模様。
消えていない太陽がより一層異様さを引き立たせる。
「これで作る物は圧倒的なまでの力を秘めているだろうね。」
「く、環境までも変化させられるのかよ。こりゃエイジオ達が壊滅状態で帰ってくる訳だ。」
諦めたのかこれ以上の抵抗は見せない。
その潔さに免じて、一思いに決着を付けて欲しい。
「【消失する色彩】」
現れたのは、大きな津波。
神ですらここまで津波を起こせるかどうか。
そのまま街を飲み込む勢いてフウライを襲う。
時間にすれば60秒程度。
苦しさが出始めた段階でスキルが解除される。
あと数十秒違えば酸素不足に陥り、もっと遅ければ殺していた。
「かはぁっ!ゲホゲホッ!なんで殺しきらないんだよ。その甘さが後に響くかもしれないぞ。」
「たははは!ワシより若い者に説教されるとは耳がいたいよ。でもね、ワシの特技は2色の世界で色付いた物語を作り上げることであって、人殺しじゃない。これが甘いと言われるならいくらでも受け入れるよ。」
「人を殺せないってのはこの先生きづらいだろうな。この世界じゃ、強大な悪の前では中途半端な正義は通用しないぜ?分かってんだろ勇者さん達。」
俺達にまで投げかけられた問い。
それには否定することがなかった。
正義というのはいつだって一方通行で、身勝手だ。
理想論を掲げて正しいと信じて疑わない。
そして、俺も自分の中には少なからず正義感をいうものが存在している。
これが完全に振り切ったものなら賞賛に値するかもしれないが、誰しもがそういうわけではない。
「面白い冗談ねそれ。」
「本当にそうですね。この人見る目がないですよ。くくくっ。」
上野や宮武が笑う理由はなんとなく分かる。
フウライの発言が当てはまるのは純粋な心を持った勇者の場合のみ当てはまる。
言っただろ?俺はハンムラビ法典の考え方が好きだと。
「黙ってたけど、俺達は正義の味方なんて柄じゃねーんだ。相手が悪だろうとしても関係ない。それよりも強い悪を持って捻り潰すのみだな。」
フウライは遠回しな表現を聞いて混乱しているのか理解が追いついていないようだ。
側から見えれば善行を行っていたようにも見えるかもしれないが、自分達の欲望のまま動いていたに過ぎない。
それに勇者と聞いただけで良いやつ風なイメージが先行するから勘違いしていたのだろう。
「・・・一体何もんなんだよお前ら。」
そんな古典的なセリフを聞く機会があるなんてな。
人生何があるか分からないもんだ。
「ワシらはちょっとだけ世界に嫌われた哀れな罪人だよ。」
ここぞとばかりに決め台詞を吐く井村。
後ろの方では上野や宮武が言えなくて悔しそうにしている。
俺もただの通りすがりですよとか言いたかった。
「おい、ギルマスさんよ?まだ邪魔するのか?」
その言葉に返事は返ってこなかった。
と言うよりは、その前の段階で空いた口が塞がっていなかった。
屍のようになった男の相手をしている暇もないので、街の中に入らせてもらう。
入り口には倒れ込んでいる人が多いので避けて入ると必然的にグランガの横を通ることになる。
俺達7人が通り過ぎても反応を一切示さない。
本当に死んでいるんじゃないだろうな。
荷物をまとめて外へと再び出る際には、どこにも姿が見えない。
この街にとって最善なのは今回起こったことを全部なかったことにしてやり直すことくらいだ。
そうなればエルフとの戦いも起こる可能性があるけれど、次回はエルフだけでどうにかしてもらうしかない。
「結局、井村さんも記憶を取り戻しましたね。」
上野がほら言わんこっちゃないと言いたげに話しかけてくる。
7人中5人も記憶を取り戻したのだから、順当に行けば俺と小原も近いうちにそうなる。
「あぁ、そうだな。」
記憶を取り戻すとどうなるか分からない恐怖心から空返事する。
少なくとも変わらない信念は持っていて欲しいと切に願った。
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