第116話 酔い回り時廻る
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今、俺は人生で数回しか経験できないことが目の前で起こっている。
長いテーブルに数えきれないほどの料理がずらりと並んでいる。
テーブルの長さを10メートルはあるらしいので、これだけの量を食べ切れるか心配になる。
「うわぁー!馴染みのある料理から見たことないものまで種類が豊富ですねー!」
清水は料理が運ばれた段階で見えないよだれをダラダラと垂らしている。
俺も清水までではないが、心が躍っているのは確かだ。
皿の上にはまだ乗っていない状況だが、エルフ全員が座っているのでとりあえず着席する。
「すべての恵みと幸運な巡り合わせに感謝をして。いただきます。」
日本でよく見た光景を目の当たりにする。
食事の前にする感謝の意味を込めた挨拶。
前の勇者から教わったのだろうか。
両手を合わせて数秒間沈黙の祈りを捧げる。
当たり前でないといけないはずなのに、日本人である俺達が忘れていたのは少し恥ずかしいな。
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!これ私が作ったんだよ食べて!」
俺達は彼女に連れられて並べられた料理のコーナーに足を運ぶ。
それを見てからエルフ達も遠慮がちに料理を選びだした。
場を盛り上げるためなのか演奏まで付いているようだ。
彼女が指差したのは、唐揚げに似た料理。
この幼い子が唐揚げを1人で作れるのだとしたら将来は安泰に決まっている。
行儀が悪いとわかっているがその場で取り分けて7人全員で食べてみる。
食べてみて分かることは見た目だけじゃないということ。
外はカリッとした皮に覆われていて、中はモチモチとした弾力のある食べ応え。
味も噛めば噛むほどうまみが沁み出てくる。
日本の調味料で例えるならニンニク醤油のような誰もが好きであろう味付けだ。
「うまいな。」
「本当ですね!これ食べ出したら止まらない!こんなに料理が上手いなら良いお嫁さんになれるね!」
「本当!?なら、私勇者様と結婚したい!」
無邪気な子供の唐突な発言に男性陣は咳き込む。
「よく聞いてね。悪いことは言わないから普通の子を結婚しなさい。」
冗談を言うでもなく目線を合わせて真剣な表情で忠告する宮武。
当事者である中の1人である俺が言うのもなんだけど本当にやめておいた方が良い。
この中の選択肢はどれもハズレしかない。
「えぇー!なんで?まさか!お姉さんこの中に好きな人でもいるの?」
「恋愛させてくれるくらいまともな奴がいれくれればどれだけ良かったことか。」
子供は何を言っているのか分からないらしく頭を傾けている。
意味が伝わっている小原と清水は苦笑い。
男性陣に至っては深く同意している。
俺も含めて自覚は持ち合わせているようだ。
美味しいご飯を食べていると当たり前のようにお酒が進んでいく。
酒が進めば次第に酔いが回るのは、呼吸をするのと同じように自然な摂理だ。
エルフだってそれは変わらない。
最初の印象とは掛け離れるほど陽気になる者や自作の踊りを披露する者。
多種多様な酔い方が見れるからこそ盛り上がりに拍車が掛かる。
ここで今日1番の盛り上がった歓声が聞こえる。
何が起こっているのかとエルフの群衆をかき分けて前へ行くと、身覚えのある男が1人ステージの上に立っている。
「いいぞ!オオシロ!」
「まだまだ飲めるよね!オオシロ!」
酒豪を豪語するエルフとの酒戦を繰り広げているようだ。
大城の近くには何人ものエルフが倒れていることから相当な量の酒を飲んだことが窺える。
俺も知らなかったが大城は酔うことが全くないらしい。
戦う相手もいなくなったのに1人で酒を飲み続けている。
これ以上は見ていられないので場所を移すことにした。
「これは今日も泊めてもらうしかなさそうね。」
当たり前のようにワインを1本まるごと開けている宮武が話掛けて来た。
彼女の言う通り泥酔の怪我人を抱えながら移動するのは面倒なので、今日はここで寝るしかない。
エルフのことだから申し出れば喜んで泊めてくれるだろうが、好意に甘え過ぎてしまうのも心が痛む。
「ぜひ!子供達もそうしていただけると喜ぶと思います!」
エルフの長がたまたま話を聞いていたらしく快諾してくれた。
「何から何まで申し訳ない。」
「何を言っているんですか。貴方達がここを守ってくれたから今があるのです。こうして、笑っていられるのです。これ以上にないものをいただきましたから。」
A級の冒険者を相手にするのは大変だったが、ギルドの味方をするよりもエルフの味方をして良かったと改て実感する。
引き続き宴をお楽しみくださいと言って長はどこかへ消えていく。
「人間ってのは本当に欲に塗れた生き物よね。」
「おまけに愚かでもあるな。奴隷になんかせずにまともな交流をもっていれば、エルフとの関わりを持てた可能性もあったのに。」
「力の誇示をしたいのよ。子供みたいにね。」
宮武の言葉で納得する。
力の差を見せつけることによってどちらが上かはっきりさせたいのか。
宴も徐々に終わりへと向い、夜も更けてくる。
夜も森は冷えるかと思ったが案外過ごしやすい温度なのは何か工夫がされているからなのか。
あれほどあった食事も嘘のように綺麗さっぱり消えている。
テーブルの上が綺麗な状態を保たれているのは、種族としての性質が表れているな。
片付けをテキパキと行っているようなので俺も手伝うことにした。
皿を持って洗い場に行こうとするが場所が分からない。
その辺をウロウロとしているとエルフが声を掛けてくれる。
「あ!勇者様はゆっくりしておいてください!私達で片付けますので!」
「皿を片付けるぐらい手伝う。何せ、準備は全く手伝わなかったんだからな。」
「い、良いんですか?それじゃお言葉に甘えて。」
話掛けて貰ったついでに場所を口頭で教えてもらう。
教えてもらった場所まで皿を持っていくと洗い物をしているエルフ達も案の定アタフタし始めた。
エルフ達にとっても気が気ではないだろうから、さっさと皿を置いて立ち去ることに。
皿等を片付けるとエルフ達が申し訳なさそうな顔をするので、別のことを探した。
するとふと先ほどの悲惨な光景を思い出して大城がいた場所へ戻る。
「酔い潰れてるやつばっかりだな。」
結局は大城も酒の飲み過ぎて眠ているようだ。
大人1人を抱えて運ぶのは重労働なので、少しでも役に立ったと言えるだろう。
1人1人を綺麗に並べて風邪を引かないように布団を被せておく。
良い年をした大人とエルフがここまで泥酔するとはだらしがない。
それだけ今日の酒が美味かったと言う証拠でもあると思うことにしよう。
「おぉー!一ノ瀬君!君は酔い潰れてないみたいだね!」
井村が酒瓶を片手に持って近づいてくる。
もう宴は終わったのにまだ酒を飲んでいる奴がいたのか。
というより、それは何本目の酒なんだ。
「俺は酒を飲むけど、限界値を把握しているからな。」
「君もまだまだだねぇー。限界気にして飲んでるようじゃ二流だよ。」
そうだとするならここで酔い潰れて寝ている奴らは三流だな。
「俺はそれでも楽しめたから十分だ。あと、老人の体には多すぎるアルコールだから今日はそこまでにした方がいいぞ。」
「何言ってるの!もうここまで飲んだら1本も2本も変わらないよ。」
俺が忠告してきたので、これ以上会話とするとまた飲むなと言われると思ったのかその言葉を残してどこか消えた。
あれほどうるさかった空間も静かになれば寂しさを覚える。
今日の夜空は少しだけいつもより明るいように見えた。
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