第114話 優れた才華
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近接も遠距離も完璧に対応する相手に勝ち目はあるのだろうか。
序盤から一心化を使っているのにも関わらず、未だ力の差は歴然。
手の内もほぼ全て使い切っている。
エイジオは俺が追い詰められているのを見て満足そうに笑っている。
ここから負ける未来など考えられないとでも思っているのが態度や表情などから感じ取れる。
「負けない戦いってのはこうもつまらないのか。ちょっとは傷付けられるよに努力してくれ。」
挑発的な発言をいくらされようとも冷静さを欠いてはならない。
少しでも付け入る隙を与えれば、流れるように敗北へと導かれることになる。
言葉を発して余計な情報を出さないように無言で進化刀を振りかぶった。
「効くかよ!俺とお前には圧倒的な技術の差があるんだからな!」
当然のように正面から受けられる。
攻撃をしていたのは俺のはずなのに、力で負けているのか進化刀を握る手は電気が流れたと錯覚するほど痺れる。
一瞬刀を手放してしまいそうになるが、そうなればエイジオの剣が直撃して深い傷を負ってしまう。
「勝てるのか?お前すごい弱いぞ。」
「俺が1人ならな。」
後ろからの攻撃。
予め分身を用意しておいて正解だった。
全く後ろを振り返る様子もない。
あと少しで刃はエイジオの脇腹に突き刺さる。
そうなれば出血多量でまともに動けなくなるのは明白だ。
勝機が見えた時にこそ絶望が訪れるのはもはや定番になりつつあるのだろう。
見えていないはずのダガーをノールックで回避する。
回避した瞬間を狙っての追撃すらも許されない計算された動きに立ち尽くすことしかできない。
「実に無駄な足掻きだったな。確実に狙えた心臓を狙わないのは何故だ。」
「うるせぇーよ。どうせ狙ったところで避けられただろ。」
「俺が言いたいのはそういうことじゃない。戦地に感情を持ってこない方がいいぞ。ここにあるのは生きるか死ぬかのどちかしかないぞ。」
人を殺すことには抵抗がある。
魔物ならあれ程簡単に殺めることができたのに。
魔族だってほとんど人と同じ形をしているのに躊躇いはなかった。
ただ、人だけを殺すことだけが前の世界の倫理観を思い出して踏み込めない。
この世界において、それがどれだけ甘い考えかは理解しているつもりだ。
理解してもなおこの生き方しか出来ないのだ。
「殺さない戦い方ってのもある。選択肢を狭めて思考力を下げるのは詐欺師の高等テクニックだな。」
「見せてもらおうか。その殺さない戦い方を。【魔法剣術】”ファイアースラッシュ”」
メラメラと燃える炎はまだ近くにも来てないのに熱さを感じさせる。
後ろに逸らすことも考えたが、エルフの村がある森を背にして戦っている。
森までこの攻撃が届けばどうなるかぐらい小学生でも分かることだ。
「A級冒険者の割に卑怯な戦い方をしやがるぜ!」
大声で文句を言いながらも正面で受け止める。
なんとか耐えていているが、徐々に押されているのが分かる。
土に爪先を食い込ませて踏ん張っているが、綺麗な2本の直線を増やしているだけに過ぎない。
「選べイチノセ!このままファイアースラッシュを受けて背後の俺に突き刺されるのか、自分の身を1番に思いエルフの森など捨て逃げるか!」
後ろでは剣を構えるエイジオの姿がある。
あいつの言ったようにこのままでは串刺しになるのがオチだ。
2つの選択肢でどちらが大事か聞かれたら迷うまでもなく自分の命を取る。
今起こっている全てのことを投げ出してどこか遠くへ行きたいくらいだ。
「なぜそこまでする。エルフはお前達に無関係だろ。」
突き刺さった剣は確実に心臓を貫通している。
意識が少しずつ薄れていく中で微かに聞こえる遠吠え。
ヴァイスは宿に留守番をしているはずなのになと思いながら瞼を閉じようとした。
『お前は何でこっちに来てるんだイチノセ。』
真偽の秘宝の魂であるレインの声が聞こえる。
なんでと聞かれてもここがどこかすら把握していない。
『ここは人が立ち寄ってはいけない空間。魂と魂を往来する狭間。』
クリスタが丁寧な口調で説明を挟む。
俺が死んで魂がここに来たということか。
あれだけ心臓をしっかりと貫通していれば死んでいない方がおかしな話だ。
『何故平然としている!』
『そうです。貴方はここへ来るには惜しい存在。ほら、今すぐにでも貴方を呼ぶ声が。』
『声と言っても鳴き声なんだけどね。』
導かれるがまま意識を手放すと次の瞬間には現実世界に戻っている。
変わったことがあるとすれば、白い大きな狼が俺の心臓付近を舐めているぐらいだ。
「お前が蘇生してくれたのかヴァイス。また知らないうちに大きくなっているし不思議な奴だな。」
「クゥーーン。」
死んだ俺を見て本気心配していたのか、悲しそうな鳴き声を出す。
本当であればここで遊んでやりたい所だが、エイジオの様子が気になる。
「その生き物は・・・なんだ。ただの魔物ではないことは分かる。」
息も絶え絶えに言葉を吐いたエイジオを見る限り、進化後のヴァイスの実力はA級冒険者に匹敵することが分かる。
そうであればヴァイスを援護するように立ち回れば勝機が見える。
そうだろヴァイスと言わんばかりに振り返ると元の子犬の姿に戻っている。
ここまで活躍してくれたので文句はないがどういったメカニズムで進化しているのかは気になるな。
「前の時同様に頼らせて貰うか。もう死なない為に力を貸してくれよ精霊の鏡。」
潔白なオーラを身に纏い、バトルの最後を派手に彩る。
進化刀も前の時と同様に裏の姿へと変貌を遂げている。
「どこまで優遇されているんだ!これは俺の物語だ!俺以外に最強はいらない!!!」
異様な雰囲気を察知したのか怒りの感情が漏れ出している。
俺も逆の立場なら似たようなことを思ったかもしれない。
力も武器も出会いにも恵まれ過ぎている。
「物語には必ず終わりがあるんだ。ここで終わったとしても不思議じゃないだろ。【風装・聖】」
神聖な力を得たことによって変化した技。
何が変わったのかと聞かれればよく分からないが今は速さが必要なので使っておく。
「終わらせてたまるかぁーーーー!!!【魔法剣術】”フォーススピリット”」
風、水、炎、土の4属性がエイジオを剣の形になって浮遊しながら防御をしようとしている。
「あと少し早ければ負けていたかもな。」
エイジオの奥の手はまともに発動することすらなく負けてしまう。
それも一ノ瀬の宣言した通り誰も死なない勝利だった。
特別な要因があった。
言い訳しようと思えばいくらでも見つかる。
が、それも意識があればの話。
最後の一ノ瀬の攻撃は峰打ちだったとはいえ、スキルによって速度を増した一撃をまともに喰らったのだから無理もない。
「俺は仕事したぞ。あとの奴らはなんとか頑張ってくれよ。」
他の全員が勝利していることを願いながらも、森の方へと向かった。
ヴァイスも帰すわけにもいかないので抱きかかえて同行することに。
命を救ってくれた救世主は嬉しそうに尻尾を振っている。
謎が深まるばかりだったが、可愛いので問題ないだろう。
文字通り死を乗り越えた勝利の余韻は、1匹の犬によって気の抜けた空気と癒しで溢れた。
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