第112話 エースの風格
誤字脱字や文章の下手さについてはご了承下さい。投稿予定時間になるべく投稿できるようにします。
よければ、評価とブクマ等していただければ幸いです。
「アンタ、1人で私達の相手するつもり?」
「・・・。命令されたからそうする。それだけだ。」
「まるでロボットね。井村、油断はしないように。2人を相手に出来る実力があるから任せられているはずよ。」
「分かったよ。こっちも全力尽くそう。」
ワンズと呼ばれた男は、多くを語るような相手ではなかった。
寡黙ではあるが、虎視眈々と戦闘の機会を狙っている。
どちらが先に仕掛けるのか。
それが戦況を大きく変えるので互いに様子を見ながら、相手の出方を探っている。
先に動いたのは、痺れを切らした宮武の方だった。
魔導具を取り出してワンズの方まで投げ飛ばす。
ワンズに直撃することはなく目の前で勢いは失速。
足下までコロコロと転がっていく。
そして、コツンと1回爪先に当たると信じられないほどの眩しい光を放ち、ワンズの視界を奪う。
「まだまだあるからいくらでも喰らっていいわよ!」
確実に攻撃がヒットしたのを確認して次の行動に出る。
バッグから取り出してのは、粘着力の高さそうな物体。
「井村、これを【反転】で送って。」
ワンズの足下に1つ、また1つと展開していく。
ペースは完全にこっちが掌握したと言ってもいい。
その証拠に相手は一切動く気配が感じられない。
「総攻撃チャンスよ!」
「【念力】+【反転】+【迅雷投擲】!!!」
「【運命天論】!」
ここぞとばかりに2人は自分の出来る限りの攻撃を仕掛ける。
井村の攻撃は、ダガーが縦横無尽に空を駆け無数の傷を相手に与えていく。
出血しているのも見えたのでこれ以上やると死んでしまうのではないだろうかとさえ思えた。
それでも、ここは戦場。相手に慈悲の心を向けるのは失礼にすらなりうるので攻撃の手は緩めない。
宮武も自身が使える数少ない攻撃スキルをここで発動した。
1枚のコインを指で天に弾く。
弾いたコインは、見えないところまで消えると2度と降りてくることは無かった。
代わりに、どこからか降り注ぐ岩の塊達がワンズを襲う。
どれだけ攻撃を続けようともワンズは動くことすらしない。
もはや、早い段階で死んでいたのではないかと思ったが、攻撃が止んだ瞬間に動き出した。
井村も宮武もまだ息があったことには驚いたが、反撃に備えて構える。
「・・・終わりか?」
短い言葉には、圧倒的なまでの実力差を感じさせる。
あれだけの攻撃を直接受けておいて、たった一言返すだけなのか。
何もないに等しいと言いたいのだろうか。
「なら、こちらのターンだな。」
戸惑っている2人を見て、ワンズは容赦なく攻撃のモーションに入る。
何かスキルを使ったタイミングで相殺するようにスキルを使うしかないと2人は考えていた。
しかし、2人の考えを上回る能力を見せつけられることになる。
大地を1度蹴り込むと弾丸のような素早さでこちらに突進してくる。
慌てて武器を構えるが、綺麗に避けられて顎を突き上げる一撃を井村が貰う。
そのたった一撃で脳を揺らされ立っていられなくなり地面に膝をつく。
勢いは止まらないまま宮武の方へ。
「好き勝手しすぎなのよ。【運命天論】」
「・・・お前の運はないようだな。何故なら相手が俺だから。」
宮武のスキルは1度も不発に終わることは無かったのに、ここに来て何も起こらない。
足を払われて体は宙に浮き、そのまま顔を鷲掴みにされ地面に叩きつけられる。
痛みが全身を襲うが、それよりも不安が勝る。
まだワンズはスキルを全く使用していないのだ。
これだけ壊滅状態へ追い込んできた相手の実力は、序の口に過ぎない。
一方でこちらは出来る限りの手を使っている。
状況だけ見れば誰だってどちらが勝つか予想が出来た。
投げられたコインはようやく落ちてきて、宮武のアイテムバッグからこぼれ落ちた魔導具に当たる。
〜〜〜♩
魔導具からは綺麗な音が流れる。
何かが起こっているのは感じ取れたワンズだったが、今から起こることの予想はできなかった。
動かなくなったはずの2人の体がぴくりと動いたのを彼は見逃さなかった。
それだけでなく、自分の身体は先ほどの攻撃を無にするほど回復していることに気付いた。
「・・・慈悲のオルゴール。音を聞いただけで回復できる優れ物よ。」
もちろん強力な効果がある分弱点も存在する。
音を聞いただけで回復するので敵も味方も関係なく回復してしまうのだ。
ワンズは無傷に等しかったのでこれが最良の選択だったのは言うまでもない。
「自分にとって最も優れた選択が訪れるスキルか。見たことも聞いたこともないスキルだ。」
言葉数が少なかったワンズも宮武の覚醒スキルに興味を持ったようだ。
「一瞬で見破るなんてアンタが初めてね。でも、アタシばかりに注目しているけど2対1ってこと忘れないほうがいいわよ。」
背後から忍びよる刃。
距離にすれば拳1つ分もない。
「案ずるな。気付いている。」
気配にはとっくに気付いていたワンズの回し蹴りがダガーを持ったいた腕を蹴り飛ばす。
人間から鳴ってはいけない音が聞こえた。
「木製の人形か。」
背後の攻撃はダミー。
粉々に砕けた音も木製の腕が破壊される音。
ならば、本物の井村はどこへ。
「攻撃直後なら流石の君でも硬直して動けないよね。」
あえてワンテンポ遅らせて木製の人形と位置を入れ替える。
井村に取って宙に待った木の破片も強力な武器へと移り変わっていく。
「【念力】!」
バラバラに散らばった木片は一斉にワンズへと襲い掛かる。
井村もそれに合わせて攻撃を。
相手は、片足の状態で体勢を戻そうとしている。
絶対に避けられないと確信した井村だったが、それは相手が常人だった時の想定の話。
崩れた体勢からでもバク転をしながら避ける。
「これも避けるのかい。」
「どうしようかしらね。これ以上勝つ方法が思いつかないわ。」
諦めるという次元ではなかった。
事実として残されたのが勝てないという結論だったに過ぎない。
「ここまで緊迫感のある勝負をしたのは久しぶりだ。しかし、気力を失った相手と戦うのは面白くない。お前らに朗報を与えてやろう。俺は、スキルを使わないんじゃない使えないんだ。」
ワンズの口から聞こえてきたのはまさかのカミングアウト。
敵である人間の言葉を信じるのは愚行と思われるかもしれないが、何故だけ彼が語る言葉に偽りを感じられない。
「何よそれ。余裕のつもり?」
「舐められたもんですね。」
「実際に勝ち目がないと思っていたのは事実だろ。」
「馬鹿ね。勝負の世界にはね、例え負けると分かっていても戦わないといけない時もあるのよ。人はそれを馬鹿だと言って笑うけど、譲れないものを守るには必要なのよ。」
魔導具はアイテムバッグから取り出して戦いの準備を万全に整える。
強がっては見たがスキルが使えないと知れたのは大きなアドバンテージだ。
それだけで戦略の幅を広がる。
あとは、弱点を補って余るほどの身体能力の高さをどう攻略するか。
「ワシも隠すのは得策じゃないかもしれないな。」
そう呟く井村の言葉は、宮武にまで届いていた。
何かこの状況を打破するようなものを隠しているのか。
勝利への糸口が少しずつ鮮明になり始めた。
ご覧いただきありがとうございました!
宜しければブックマーク、いいねお願いいたします。
毎日22時から23時半投稿予定!