第100話 犬と休日
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白い毛並みを靡かせて、威風堂々と俺の側を歩いているのはヴァイスという犬?らしき生き物だ。
たまに見せる謎の力には驚かされるが、それ以外は何も普通の犬と変わらない。
むしろ、今まで見てきたどの犬よりも可愛いと断言できる自信がある。
今日は、休日ということになったので散歩をしながら街の散策をするつもりだ。
「可愛いですねー。」
「うちの奴隷もこのワンちゃんくらい賢ければね。」
すれ違う人には高確率で声を掛けられる。
犬や猫などの愛玩動物を飼っているというのは、こっちに来てから見たことも聞いたこともない。
そもそも愛玩動物がいるかどうかも怪しかったが、犬を知っているようだったしいることは間違いないだろう。
最近では危険な場所に連れて行くのもどうかと思い始めて、宿屋に預けていることが多い。
ヴァイスは、俺達が出かけるたびに悲しそうな鳴き声を出して、帰ってきた時に大きくて嬉しそうな鳴き声で迎えるので申し訳ない。
「今日は休日だからな。目一杯遊んでやるからな。」
犬の目線にかがみ込んでわしゃわしゃと顔を撫でる。
触れた手は毛の海に沈み込みなんとも言えない暖かな気持ちになる。
もふもふで1度触れば一生手が離せなくなりそうなくらい触り心地も完璧だな。
休日とはいえ、何も考えない時間を作るというのは現状で難しい。
ここまでで出てきた調べることだけでもかなりの量があるからな。
調査が多い分、これ以上はこの街で戦闘が起こらないことを祈りたい。
「ワンワンッ!」
ヴァイスが嬉しそうな声でまた鳴き出した。
数秒後にその理由が判明する。
「ヴァイスはいつでも元気だね。ワシは、店にいくだけで疲れたよ。」
井村は、手に本を買ったと思われる小袋を抱えている。
休日は本を買い漁って読むところしか見たことがない。
いくら好きなものとはいえ、それに没頭できるのは余程の情熱がないと続かないものだろう。
「いつも本を読んでいて飽きないのか?」
シンプルな疑問。本は生きている限り読み終わるということはない。
だからこそ、終わりのない物を追いかける途中で飽きるということはあっても不思議ではない。
単純にどんな本への愛があるのか知りたくなった。
「飽きるか。本当に面白い話だけど、今の歳になっても時間がまだまだ足りないくらいさ。でも、最後まで本を読んで死ねるなら後悔って単語は浮かばないと思ってさ。迷惑が掛からないなら、やりたいことだけやって生きろ。老人のアドバイスだよ。」
時間制限のある人生で悔いのないように生きるのは簡単ではない。
ならば、人々にできることは1つだけだと井村は語った。
人として芯を持った生き方をする井村が、次の覚醒者になるとは到底思えない。
思えないからこそ疑わなければならない。
信用は時として毒となる。全身に回るまで全く気付かない猛毒。
「人生の先輩らしいアドバイスをありがとさん。で、1つ聞くんだけど、今はまだ記憶を取り戻していないんだよな。」
「そうだね。確か、上野君、大城君、宮武ちゃん、清水ちゃんの順番で記憶を取り戻したんだっけ?酷いじゃないか黙ってるんなんて。ワシがそうなった時はしっかり言うから安心してよ。なんなら、使ってみる?」
首元の真偽の審判を指差している。
確かにこれを使えば1発で答えを知ることが出来るな。
それでも安易に使うことは出来ない理由がある。
ここで使ってしまえば、井村の信用を失うことだって考えられる。
それどころか協力的でなくなってしまえば魔王討伐の確率も下がると考えていい。
「いや、遠慮していおく。休みの日に呼び止めて悪かった。」
「こちらこそ意地悪なことを言って悪かったね。休みの日は、本屋か宿屋にいるだろうから気になったらいつでも来ると良い。いくらでも小説の話ならしてあげるよ。」
すれ違う瞬間に微かに香ったのは、どこかで嗅いだことのある匂い。
あれは、煙草の匂い。最近は、煙草を吸っている場面に遭遇する機会が多く候補が絞れない。
井村は本屋以外にも目的の場所があった。
人にあっていたのかどうかは不明だがそれだけは分かる。
真偽の審判を使うことはなかったが、この情報が入手できたことは大きな発展だ。
「待たせたなヴァイス。いくか。」
散歩を再開させる。
ヴァイスもただの犬じゃないことくらい分かっているが、優先度としてそれを調べるまでには至らない。
それに普段の生活を見る限りでは完全に犬だし。
しばらくするとそこら中から美味しい匂いが漂ってくる。
何事かと思い周りを見ると飲食店に次々と人が入って行くのが見えた。
「もう昼頃か。全く気付かなかった。こんだけ歩いたんだヴァイスも腹減っているよな?」
「わふ!」
尻尾をフリフリと動かして感情を露わにしている。
俺の言葉を聞いただけでご飯と理解できたのは賢い証拠なのだろうか。
ここで問題になってくることが1つ。
デバルツに来てから出店というのを1回も見たことがないのだ。
どちらかと言えば、高級料理店のような格式高いところばかりである。
そんな場所に犬?を連れて行っても怒られはしないだろうか。
とは言え、他に食べ物にありつけそうな場所はないので質問ぐらいはしてみることにした。
「ここはこの子と一緒に食事はできる?」
「あ、えーっとですね。ちょっと確認してみないことにはですね。」
「じゃあ、申し訳ないけど確認してほしい。」
「そうしますとお時間がかなり掛かってしまいまして・・・。」
遠回しに帰って欲しいと言われいるようだ。
小さなことでも店側に迷惑を掛けるわけにもいかないので、礼だけ言ってその場から離れようとする。
ちょうどその時だった。
「あれ?イチノセじゃないか!奇遇だね。ここの店に来たのか?ここの店の味なら保証するから心配するなよ。」
「ふ、フウライ様。この方とお知り合いなのですか!?」
「ちょっとして恩があるんだよ。なぁ、イチノセ。」
フウライの登場によって訪れる先に未来がなんとなく分かってしまう。
ソロでA級になるくらいの実力を持っているんだから、知らない人はいないくらいに有名に間違いない。
その知り合いの俺がこの店から出ようとしている状況は、店側の今後の影響を考えると良くない。
俺はどうするのかをアイコンタクトで求めた。
少しでも妙な間を作らないようにと直ぐに俺とフウライ、そして無事ヴァイスも入店することが出来た。
「その子も一緒に入れて良かったな。」
どうやらフウライは俺と店の会話を目撃していたようだ。
フウライとヴァイスと会うのは初めてなので、紹介をして撫でさせてやる。
あまりにも撫でる手が止まらないので、途中で引き剥がすことになる始末。
料理の味も店の品格に見合ったハイレベルなものばかり。
フウライが味の保証をするのも頷けるな。
ヴァイスには、店のご厚意で生肉を用意してもらっている。
調理工程のない生肉とはいえど、高級素材を厳選しているのこの味を覚えられたら後々苦労しそうだ。
食事を済ませて店から出るとフウライは、ギルドの方へ向かっていった。
フウライ曰く、これはエルフの時のお礼とは別だから安心しろよとのこと。
俺としては、恩に感じるようなことをしたつもりもないので期待はしないで待っておこう。
「今日はどうだったヴァルス?」
「ワンワンッ!!」
興奮気味に俺の足元をくるくると回っている。
普段から時間を作ってあげられないけど、次の休日も時間を作ってやろうと強く思った1日だった。
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