第099話 消えゆくもの
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今日の議題はもちろん最後の秘宝のこと。
とはいえ、話し合うにしても情報がないので推測でしか語れない。
分かることといえば、この世界は確実に俺らの知っている日本という国に関係しているということぐらいだ。
「あの、すみません。天叢雲剣って一体どういうものなんですか?ちょっとそういうのに疎くて。」
「おほん、ここはワシが説明させてもらおう。八咫鏡、八尺瓊勾玉に並ぶ三種の神器と呼ばれるもので伝承では、スサノオがヤマタノオロチを退治した時に体内から発見されたと言われるもので、「はい、ありがとうね。これ以上喋らしたら止まらなくなりそうだから私が止めておくわ。」
自分の得意な分野だったことで熱が入ったのか饒舌に語り出した井村であったが、度を越した補足説明に入ろうとした瞬間に宮武に止められてしまう。
本人は残念そうな顔をしているが、質問した手前止めることの出来なかった小原のことを考えるとこれで良かった。
「つまり、日本の神話として語り継がれている神器は最後の秘宝であるということだ。」
「僕たちが探しているベルゼも直接会った訳ではないですが、日本人の可能性が高いですね。」
「これを偶然と捉えるには無理がある。」
「必然的にこの状況が生み出されたのだとすると、元凶は神以外考えられないですけど。」
神という存在が脳裏によぎる。
日本にいた頃には全く持って信じてなどいなかったが、この世界の超常現象を見ていれば信じたくもなる。
いくら悩もうとも答えの出ない問いに全員が頭を悩ませる。
数分間、全員が唸りながらも言葉は交わさずにいたが、それも長くは続かなかった。
「あぁー、もうこれ以上考えると頭がパンクするわ。神がどうこうよりも重要なことがあるでしょ!重要なことが!」
「え?重要なことですか?ドラゴンの巣窟にあるくらいしか聞いてないですけど。」
「それよそれ!1番問題なのは、秘宝を見つけるためにはドラゴンと戦わないといけないってところでしょ。」
「それなら問題ないですよ〜!だって、私達ティキアの時にドラゴンには勝っているじゃないですか!」
どうやら秘宝を守っているであろうドラゴンは、ティキアで見かけたのと同じくらいのを想定しているようだ。
確かあの時鑑定をして出ているのは、火龍の幼体だったはず。
苦戦を強いられたのが、ドラゴンだったと知ったら清水は口から泡を吹いて倒れてしまうだろうな。
「非常に残念なお知らせですが、あれはドラゴンの幼体、赤ちゃんです、成体のドラゴンは比べものにならないほど強いと思われますよ。」
どこから仕入れたのか、上野もあれが幼体だったということは知っていたようだ。
今の舐めている状態よりは良いだろうけど、真実を伝えたことによって清水は固まったまま動かないぞ。
多分、知らなかったのは清水と小原くらいで後は知っていただろうな。
「・・・って、あれが赤ちゃんなのーー!!!」
現実世界に戻ってきた清水は開口一番に叫び声を上げる。
見た目だけで見れば人間の何倍もあるので初めてみたあのドラゴンを成体だと思うのも無理はない。
清水は、ようやく最後の秘宝がドラゴンの巣窟にあることが一大事であることを理解し始めた。
「強さは前と比較できないほど強くなっていると思ってまず間違いない。」
「場所が大雑把にドラゴンのいる洞窟として知らないから、探すところから始めないといけないな。」
「ここの街で数日滞在して、聞き込みなり、文献を読み漁るなりして調べるんだ。ギルドも今まで見たどの街よりも栄えているんだから、ドラゴンのいる洞窟ぐらい知っている人間がいてもおかしくない。」
目標があることで、ここでの活動がスムーズに進むのは嬉しいことだ。
しかし、どれだけ情報が集まるかは別の話。
こちらから提示できる情報が少ない分、あまり期待はできない。
大体の話は終わったので、夜が明けるまでに解散する流れになる。
全員が席を立ち上がり、腰を伸ばして部屋まで移動しようとすると清水がそれに待ったを掛けた。
清水がこの場で全員に話がある時点で察しがついているがとりあえず再度席に着く。
彼女の顔は真剣そのもので、自分の気持ちに嘘がつけない時の表情をしている。
しかし、記憶は既に取り戻しているはずだ。そうなると何の利点があるか分からないが演技の可能性も捨てきれない。
「やっぱり、私エルフの奴隷になった子を救いたいです。」
エルフに対して情が芽生えたのか、そんな提案をしてくる。
もちろん、清水を除く6人の中に解放させたくないと思う奴などいない。
気持ちの中で止めるのと実行に移すのでは訳が違うという問題があるから誰も言い出さなかったのだ。
「却下。無理があるわ。それこそ、偽善ね。エルフの奴隷を1人助け出すのに、A級冒険者のパーティを相手にするのはどう考えたって無謀ね。」
「それでもやるべきだと思います。」
2人とも顔を逸らすことなく見つめ合ってる。
どちらの意見も正しいといえば正しく、間違いといえば間違い。
そうなれば、どちらが自分の気持ちを押し通せるかの勝負になってくる。
「どうやってエルフの奴隷は解放するんだ?清水には策があるということか?」
「話合って納得してもらいます。彼らも人間なので理解してくれるはず。」
その言葉を聞いた宮武は、荒々しく椅子を倒しながらも席を立つ。
何が起こるのか理解しようとした時には、宮武が清水の胸ぐらを掴んでいた。
「前から思ってけど、ムカつくのよね。その行き過ぎた偽善の押し付けが。」
「なら、殴りますか?それでも私の意志が変わりませんけどね。」
挑発に乗った宮武は、大きく拳を振り上げる。
そのまま振り下されると思い見ていられなかったが、拳が振り下ろされることはなかった。
「いつまでも、甘いこと言ってんじゃないよ。」
「無謀だって分かってます。可能性が低いって分かってます。・・・それでも!それでも、困っている人を見つけたら見逃せないでしょ!」
宮武の清水を掴む手が緩む。
ここにいる誰もが助けれるなら助けたいと思っている。
それを貫き通す心を持ち合わせているのは清水ただ1人だったようだ。
「交渉してダメだったらどうするのよ。大金叩いて買ってたんなら中々手放さないわよ。」
「俺もそう思う。目の前で見たが何が何でも手に入れという意志があったからな。」
「最終手段としては、こっそり連れ出します。」
笑顔で語る清水には、前までは感じなかった狂気を感じる。
助けるために働く悪は、悪ではないのだろうか。
答えは人によって違うが清水は悪ではないと思っていそうだな。
「アンタの本性が怖すぎるわよ。」
「お互い様ですね。」
話合いの末、エルフの奴隷についても人員を割くことになった。
成功するかどうかは分からないがこれで清水を納得したらしい。
「宮武もあれで良かったのか?」
どこからか入手したタバコを吸っている宮武の方へ話掛ける。
タバコなんて吸っているところを見たことがなかったが、ここに来てから隠し続けてきたのか。
「いいも何もあれだけ眩しいもん見せられたら文句言えないわよ。あぁ、アタシこれだから子供は嫌いなの。」
口から吐かれた煙は、静かに夜の空気に溶け込んだ。
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