第097話 平和
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「なぜ、村は見えないようになっていたんでしょうか。」
当然の疑問をつい口からこぼしてしまう上野。
それも仕方がない、今目の前に広がる光景は突如として現れたなどと誰が信じるだろうか。
何か、夢でも見ているのではないかと錯覚する。
「それはいくら勇者様といえど言えないようになっております。その代わりに秘伝の魔術を披露して差し上げましょう。」
いくらなんでも村を守るための防衛手段を教えるなどということはしなかった。
その代わりにと言って提案してきたのは、魔術の披露。
恐らく、魔法スキルのようなものだとは思うが、1歩前に出た若いエルフ達に注目しておく。
「森羅万象の崩壊を以て、現世の真髄を表す。【エルフ秘術】”魅型・花吹雪”」
詠唱によって杖から放たれる魔法は、その威力を肌で感じられるほど強力なものになっている。
放ち終えて数十秒経った今でも、余韻が残ってるほどだ。
もしも、まともにエルフと戦うことになっていれば、この魔術も行使してきたであろう。
エルフは、俺達の驚愕した顔に満足している。
「どうでしたかね。勇者様方。」
その答えはどうすればよかったのか分からない。
どう答えても正解ではなかったのかもしれないと思えた。
魔術を見せられた時点で、エルフ族と俺達で格の違いを見せられてしまっている。
「ここまで完成されたスキルが存在するとは思ってもいなかった。」
今、ここにいる人間で唯一言葉を交わしたのは、フウライ。
エルフ達の顔を順番に見ていき、何度も顔を頷かせる。
その顔は、宛ら少年のように純粋に心を躍らせている目をしている。
エルフは気味が悪いものを見たような顔をしているが、それは俺達も同じ感想である。
「お前らに付いてきて正解だったぜ。エルフの生態を間近で観察するのが夢だったんだよ。」
「それが目的だったなら最初から言えば良かっただろ。」
「お前、本当のこと言ったら付いてくるなって言いそうなタイプだろ。」
そこは否定するこはなかった。
わざわざ同行させるまでの理由ではないからな。
例え、それを言葉にしなくともフウライが理解しているのは、本人自身がそう感じているからに違いない。
これ以上の沈黙はまずいと感じたのだろうか、気を遣った上野から質問が投げかけられる。
「我々は確かに勇者として魔王討伐を進めていますが、勇者とエルフにどんな関係があるんですか?ここまで義理堅くなるのは、相当な理由があったからとしか思えないです。」
質問の意図は理解していただろうが、返答までには少し時間が掛かる。
当然、知らないということではないので躊躇われる理由があるのだろう。
まずいことを聞いてしまったと、上野も反省の表情を浮かべている。
発言の撤回をしようとした時、上野に被せてエルフの長らしき人物が語りだした。
「もう、何百年も前のことになるでしょう。この世界には、魔族と人間、そして多種族が区別なく暮らしていた時期がありました。」
今では想像もできないような話。
異分子を排除しようとする傾向が強い種族は多いはずなのに、生活までも共にしていたなんて信じられないことだ。
「皆様が想像している通り、それにも限界がありました。まず、素行の悪い魔族は人間から迫害を受けるようになり、それに対して怒りを露わにした魔族と人間の抗争にまで発展してしまう結果に。」
どちらの方が悪いのか、これだけの話を聞いただけでは判断ができない。
結論のない疑問であるため、俺達は決して聞き逃してはならないエルフの長の語りを傾聴することに徹する。
「そこまでは我々に何も関係の無かった話でした。しかし、物語はそこで終わることは無かったのです。その抗争に巻き込まれる形として、他種族が人間や魔族に捕まってしまいました。両者の言い分はあまりにも身勝手なもので、完璧な準備が出来る前に敵を攫ったら完全に戦争が始まってしまうと。」
震えた手に込められたのは、怒りか悲しみか。その両方なのかもしれない。
火種を悪化させないようにと考えた手段は、また別のところに火種を生み出すことになったのだ。
自分達が犯した愚行でないとしても、聞いているこっちが恥ずかしくなってしまう。
「我々が恨みに思うには十分すぎる理由だったのですよ。絶望しか見えない毎日をこれから過ごすことになるのか思ったある日のことでした。とある人間が囚われた我々を解放していったのです。その時の光景は、冗談ではなく光が差したと思うほどに眩しく光輝いて見えたのです。」
とある人物が誰のことを言っているのかというのは言うまでもない。
救われたから恩義に感じて一生尽くすということがどれほど難しいことか。
エルフ族を救った勇者は言うまでもなく俺達とは別ものである。
それでもこの扱いをするのは、勇者という存在に相当な思いがあるからだ。
「今回の依頼も失敗に終わりそうだな。」
「えぇ。ここまでの待遇を受けたんですから、こちらも行動を以て示さないと。」
全員の意思は同じものになっているだろう。
元々は、こちらから依頼を受けたわけではないし適当な理由をつけてやり過ごせば問題はない。
それよりも依頼と聞いて顔色が穏やかではなくなっているエルフ族に説明をしなければならない。
誤解を生んでしまい、エルフとの関係が崩れてしまうのは道理に反するからな。
「依頼というのは、エルフの村の調査を依頼されていた。恐らくエルフが探している奴隷と何らかの関係があるのだろうな。」
必死に噛みつきたい気持ちを抑えて次の言葉を待っているエルフ。
誰1人として、こちらに武器を向けるということはしない。
どれほど、屈辱的で不安になる時間だろうか。
表情からエルフが何を思っているのか理解した清水が真っ先に訂正する。
「もちろん、ここのことは秘密にします!あ、信じられないと思うので何か書くものがあれば。」
必死になって周辺から文字に残せそうなものを探す。
環境の整った街ならともかく、ここは少し変な木々が生い茂る森の中。
そう簡単には見つかりはしなかった。
「もう良いですよ。その言葉が聞けるだけでいいのです。我らはエルフ種族の末裔、真なるものはこの眼で見極めます故に。」
「ありがとうございます!奴隷になっているエルフの子、私達でなんとかしてみせますから。」
清水の行き過ぎた約束に、他の6人は顔にこそ出さなかったが焦りを覚えた。
奴隷を解放するということはあの国の仕組み自体に難色を示すということだ。
清水の言葉に出会った中で1番の穏やかな表情を浮かべるエルフ達を見たら、ここで待ったをかけることはできない。
「あぁ、忘れておりました。ここに勇者様は魔王討伐に向けて動いているのですよね。それでしたら、秘宝に関する情報をお教えしなければ。」
「いいんですか。僕達から何かしてあげられた訳じゃないのに。」
「もちろん大丈夫ですよ。秘宝の情報を持っていようと我々に魔王を討伐することは不可能ですから。これは、貴方達にこそ相応しい情報だ。」
最後の秘宝について語られる情報を聞いた俺達は、絶句する。
次の秘宝のある場所は、ドラゴンのいる洞窟らしい。
秘宝の名は、天叢雲剣。
日本神話に登場する三種の神器がなぜこの世界に。
この世界と日本の関係に俺達は近づいているのかもしれない。
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