19_同じ青空の下_Fin
荒涼と広がる砂の大地。
風で舞い上げられた砂の粒が口に入り、彼女は小さく悪態をついた。
「――酷い風」
彼女の隣を歩く男は、それを聞いて揶揄うように笑う。
「なんだ、もう嫌になったのか?」
「――嫌にもなるでしょう」
ふたりは砂塵と砂漠の日射を遮るために全身を覆っており、その姿は麻色の塊にしか見えない。ともすれば干からびたサボテンにしか見えない彼らではあるが、背後に残る足跡がそれを否定している。
「横切る分にはまだマシだろ」
「――そうでなければ別の道を探していましたよ。逆に、魔法が使えないというのに、どうしてそんなに元気なのですか、あなたは」
「鍛え方が違う」
「そういう事が聞きたい訳ではありません」
砂塵が彼らの前を吹き抜け、彼女は思わず顔を覆う。
顔を上げると、彼は少し前に進んでいる。
「――お前こそ、王族だったくせによくもまあ、ここまで歩けるものだ」
振り返ってそう述べる彼の目がフードの下から覗く。
その目は角が取れ、どことなく優し気に見えた。
彼女はそれを見て渋面を解き、微笑んだ。
「鍛えられましたから」
「――そうかもな」
彼の隣に追いつき、彼女は訊ねる。
「まさか、魔国に足を踏み入れる時が来るとは思いもしませんでした」
「――俺もだ。だが、理由ができた」
「そうですね」
「オウマが魔国の出だと分かった以上、魔国は災厄に関して何かを知っている可能性は高い。あいつの行動は、こちらにきて初めて調べたそれには見えん」
「確かに考えてもみれば、アントマキウスは災厄について調べるには不十分ですね。伝承は残れど、記録がほとんど残っていない……先人は一体何をやっていたのやら」
「逆に考えてみろ。それができる余裕すら残らなかった、のだと」
言われてみればその通りかもしれない。
彼女は目から鱗な思いで彼を見る。
「魔国に記録が残っているのは、直接的な被害に遭っていないから……」
「――あるいは、災厄の被害にあった人間が逃げ込んだ先に作られたのが『魔国』なのか、だな」
そこまで話し終え、ふたりは無言で砂漠を歩く。
彼らの知らない、考えもしなかった何かに自分たちが近づいていることを肌で感じた。
そうして歩くことしばらく、小高い丘を登り終えたふたりは、眼前に広がる光景を前に嘆息する。
「――あいつらは、上手くやっているだろうか」
唐突に彼はそう呟いた。
彼女はそれに対して、半ば投げやりに応える。
「そうでなければ困りますよ」
「丸投げしたお前がそれを言うか?」
彼は笑うが、彼女はあくまで怒ったような態度を崩さない。
「わざわざ反逆してまで欲したものが手に入ったのです、それ以上なにを望むのです。それに――」
彼女は目下に広がる、見知らぬ都市を見つめ、呟く。
「――わたしには国を導けるだけの『才能』などありませんから」
彼も同じようにその景色を見下ろしつつ、彼女に言った。
「――お前は相変わらず『才能』の話が好きだな」
彼女が目線でその真意を問うと、彼は苦笑して言う。
「メナ、お前は自分を『無能』と蔑む。確かにその考えに至るだけの『何か』はあったのだろう。――だが、お前は俺を救い出す事はできた。小さな光を視て、それを追いかけ続けた。おそらくは他の誰にもできないこと、『才能』だ。お前は……少なくとも俺にとっては、紛れもない『鴉瞳の魔法使い』なのだがな」
メナは彼の思いもよらない言葉を前に、はにかむように笑った。
「わたしは欲張りなのです」
今や力を失った、それでも進み続ける「最強の魔法使い」に向け、メナは問いかけた。
「リョウ、あなたも知っているでしょう?」
ふたりの頭上を一匹の黒鳥が飛び去る。
その黒曜石の瞳には、ただひたすらに青い、空の色が映り込んでいた。
〜Fin〜
〜最後の反省会〜
予定していたものよりも2週間ほど伸びてしまった。
最後をどうするのか、そもそもクライマックスをどう描くのかを大まかにだけ決めて、半ば見切り発車的な形になっていたのかも知れない。
そのつもりはなかったが、そこら辺の見立てが甘いらしい。
以上を踏まえた今後の課題としては、
・物語を動かす問題の連続性を上手く作れていなかったこと(大問題を用意し、そこに至るまでに小問題を上手く結びつけられるように用意する)
・キャラクターに対する解像度、あるいはキャラクターをキャラクターとして惹き立たせる努力(矛盾の用意、人間観察と解像度を高める努力)
・世界観の設定の仕方(物語を作る上で用意しておかねばならない情報と必要で無い情報の取捨選択)
・鴉瞳の魔法使いを描き切ったことで得た知見を磨くこと(反省の内容を見返す)
・テーマの明確化。それに通ずる知識の更新(勉強しろ)
パッと思いつく限りでは以上の点が挙げられる。
特にキャラクターについては、少なくとも自分が面白いと思えた作品のキャラクターを解き、自分なりに作り方に落とし込む必要性を感じた。
と、反省点ばかり述べてきたが「物語としての形」は以前のものに比べると”サマ”にはなったのではないかと思う。
正直、振り返ってみるとまだまだ拙い感は否めないが、それでも物語を描いていく上での「作り方」の基本がようやく理解できた。
最近流行っているものと、自分が書いている内容と題材との間にあるそもそもの乖離も含めて見直し、次はもっと”面白い”ものが書けるようにしたいと考えている。
最後に、ここまで読んでくださっている方がいらっしゃるかは分かりませんが、
クソほど拙い散文的な小説「鴉瞳の魔法使い」を読んでいただき、ありがとうございました。
卑下してはおりますが、なるべく面白くしようと心がけて書いてきたことに違いはありません。
なので、「暇つぶし程度にはなるか」くらいには思っていただけてたならば幸いです。
それではまた機会があればよろしくお願いいたします。




