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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
薄明の姫_Prologue
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4_決行_1/1

 日が暮れ始めた。

 大丈夫、できるだけのことはやった。

 そんな思いでメナは皆をかえりみた。

 各々が緊張の面持ちで暮れていく太陽を見ている。

 ほとんど日が沈んだ頃合いを見計らい、誰が言うでもなく、皆が船に乗り込んでいく。

 メナもそれに続き、船に乗り込んだ。

 心音が煩いほどに耳に響いていた。

 普段は落ち着く河のせせらぎも、鼓膜の上を上滑りしているようで、何も耳に入ってこない。

「出るぞ」

 ドウカイの掛け声が聞こえ、セジンカグが留め紐を外し、船は河を流れに従って降り始めた。

 それに合わせて、ギノーが魔導炉を起動させる。

 炉中の水が爆ぜる音を皮切りに、ゴゥんと、低い音が船上に鳴り始め、それが船の足を動かし出したことを知らせていた。

 そこまで大きな音が鳴っているわけではないのだが、他に音のない河面の上では嫌に大きな音のように思えた。

 順調に進み始めた船の上で、落ち着かないメナは辺りを見渡した。

 辺りは森で、人が覗いているはずもないのだが、それでも何かに見られていのではないかという考えに捉われてしまう。

「姫様。まだ街からは遠い。気を張るのはもう少し後でも良いでしょう」

 ドウカイに見咎められ、メナは苦笑と共に深呼吸をした。

「………そうですね」

 とは言ったものの、不安は知らずに心のどこかで滞留し続けるもので、目を閉じようが遠景を眺めようが、なかなか気持ちは落ち着かない。

 そして、気づけば願っている。

(どうか、上手くことが運びますように)

 祈りつつ、最後の鬼札、鴉羽の使者から渡された煙芯管と思われる筒を握りしめる。

 これが実際に使われることになるのか、それは分からない。

 使ったところで、事態が好転する保証すらない。

 ならば、これに頼らない方法で切り抜ける努力をする。それが、四人の総意だった。

 だが、メナは心のどこかで、こうも思っていた。

(私たちはきっと、これを使うことになるのだろう)

 それは誰にも話していない直感。

 本人にすら言語化できない程の小さな予感。だが確かに胸中に巣食う、嫌な予感だ。

 小さくとも、それは彼女の行動に少なからぬ影響を与えていた。

 しかし、そんな彼女の危惧を他所に、一行の乗った小舟は順調に進んでいく。

 まるでそんなものは杞憂だとでもいうように。

 その航行の始まりは、嫌になるほど順調なものだった。

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