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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
分光の破断面
55/93

5_薄明の時、雫に揺れる白糸を編む

インテネの提案を聞いてから数日が経った。

ゾークと共に拠点を移動し、彼らの本拠地であるオクホダイ家の領土、その屋敷に招かれたメナは今、その中庭にいる。外からは見えない、狭くはないが完全に閉じられた中庭だ。

メナはゾークを説得すると言うインテネの提案に対する明確な答えが出せていなかった。

出せないままにだらだらと時間を食い潰していた。

とは言え、何もしていなかった訳ではない。

例えば、オクホダイの『掃除屋』が回収していたというドウカイ、セジンカグそしてギノーの遺骸、その確認は移動してすぐに行われた。

きっと短い間にさまざまな事が起こり続けていたからだろう。

あの日から、まだそう日も経っていないという事が信じられないほどに、彼らと共にいた日々が遠い昔のことのように感じられた。

そんな思いがあったからだろう。その想像以上に清らかな表情を前にして、彼女の心に浮かんだのは、彼らは本当に死んでいるのだろうか、という場違いな思いであった。

しかしその思いとは裏腹に、「彼らの遺骸で間違いないか」と遺骸を管理していた者から訊ねられた際には、彼女の口は自然とそれを肯定する言葉を吐いていた。

彼らは死んでしまった。それが目の前に突きつけられ、それを事実として認めたのにも関わらず、メナは自身が思っていたよりも、その事実をすんなりと受け入れていたのだ。

あれほど会う前には緊張していたというのに、いつの間にかそれも消えてしまっていた。

あの日、塞ぎ込んで部屋に篭っていた自分が嘘や夢であったかのようだ。

度がすぎる悲しみは、むしろ何も感じさせないのか。

あるいは、それほどまでに彼女は、彼から影響を受けていたのかも知れない。

いずれにせよ、メナは自身が(こと)のほか平静であることを意識せざるを得なかった。

そしてその不和は彼女に罪悪感を呼び起こさせる。

自分は彼らのことを忘れてしまったのだろうか。

あれほど尽くしてくれた彼らに対して、それは不義理なのではないか、と。

しかし、それらを深く考えるよりも前に、彼女はそれらに蓋をした。

最近は自分の感情を押し込め、後回しにすることに慣れ始めていた。

それが良いことかは判らないが、少なくとも行動をするためには役に立った。

(望まぬ結果を避けるためには、動き続けなければならない)

メナは気づいていなかったが、彼女は立ち止まりそうになる度にそれを思い出し、自分を奮い立たせていた。

そして、それは今彼女が中庭にいる理由でもある。

彼女は、何もしていなかった訳ではない。例えそれが実際的な役に立つのかは判らずとも。

「いいですねえ。だいぶ様になってきたように思いますよ」

メナが振るう模擬刀を軽くいなしつつ、インテネが言う。

彼は、何が気に入ったのか、事あるごとにメナの近くに居ようとした。

それはゾークの指示でもあったのだろうが、それにしては同じ指示を受けているはずの妹のアミネは、中庭の出入り口の階段の縁に座って不機嫌そうにしている。

初めて見た時に比べればクマも薄くなっていたが、それでもその気だるげな印象は変わらない。

「これくらいはできねば修練を積んでいた意味がありません」

メナはあっさりと剣戟を受け止められた事が、自身の努力不足を見せつけられているような気がして唇を軽く噛む。

彼は自分よりも年若いと言うのに、その腕はドウカイやセジンカグのそれと遜色(そんしょく)ないように思えた。

「そうですか?」

インテネはトントンと背後に跳んでメナから距離を取る。

「そもそも、王族が戦うような状況って詰んでますし、十分でしょう?」

彼の(げん)(もっと)もだ。

だが、メナはそれを素直に受け入れるつもりもなかった。

「それを言うなら、今の私はここにいませんよ。たしかに、兵士として役には立たないとは思いますが、突発的な場面では役立つ時は必ずあります」

「ふーん。そうですか。ま、僕はなんでもいいんですけどね。あ、それはそうと………」

メナが言葉と共に彼に切り込むがインテネは、今度は受けもせずにひらりと身を(かわ)す。

「―――考えは変わりました?」

インテネはカツンと模擬刀でメナのそれを打ち払い、喉元にそれを突きつけた。

メナは苦々しく思いつつも、ため息を吐いてそれに応える。

「ここ数日、私の考えが変わるような事が一つでもありましたか?」

「ふむ、そう言われると、確かに」

インテネは模擬刀を引きつつ、納得したかのように呟いた。

とは言え、彼が諦めていないのは態度で分かる。

メナは軽く身を引いて構える。

「そもそも、なぜ私なのです。何度も聞いていますが」

メナは、これまで納得のゆく答えが彼から聞けたことはない。

「なんとなく、としか言えませんよ。そう言うものでしょう?」

メナが放った突きは模擬刀で受け流されたとはいえ、彼の腕をかすめた。

「それでは納得できないので、私は聞いているのですよ」

インテネは困ったように頭をかく。

メナはそこに向けて上段から切り込む。

「ごちゃごちゃ面倒くさいな」

予期せぬ衝撃が腕に伝わり、メナは剣を取りこぼした。

メナが放った上段の剣戟を声の主が弾いたのだ。

「―――あんまりイライラさせないで」

声の主、アミネは殆ど表情のない冷たい視線と模擬刀の(きっさき)をメナに突きつける。

「―――何か気に(さわ)ったのですか?」

メナはひとまず取りこぼした模擬刀を屈んで拾い直しつつ、彼女に訊く。

正直なところ、インテネに比べるとアミネについては良く分からない。

彼女がいつもメナから距離を取るようにしていたこともあるが、インテネの話にもあまり挙がらない事もその要因の一つだった。

「………」

彼女からの返事はなく、ただ睨むような視線だけがメナに届く。

「なんだよ突然割り込んで。それに失礼だろ?」

「―――知らない。そもそも、失礼はお互い様でしょ。このお姫様は、私たちの立場が弱いからって足元を見てる」

メナにはそんな意図は無い。

「そう見えましたか?」

「とても。だいたい、あんた何考えてるの? あんたらは精々後ろでふんぞり返ってればいい。わざわざ危険なことに首を突っ込むようなことをして、あんたを守って死んでいった彼らが可哀想。ねぇ、分かるでしょ。こんな無駄な努力、やめれば」

「アミネ!」

さすがに度がすぎると考えたのか、インテネが彼女を叱責する。

しかし、彼女はそれでも止まらなかった。

そしてその怒りの火の粉はメナだけに収まらず、インテネにも降りかかる。

「うるさい、なに? だいたい、インテネもインテネ。こんな何もできない優柔不断に何を期待してるの? どうせ何も変わりっこ無いのに」

「変えようとしなければ、何も変わらない」

インテネが低い声を発する。

「変にいじって壊すよりマシ」

アミネも負けじと威嚇するような声で唸った。

二人はしばらく、メナをそっちのけで睨み合っていたが、アミネはふっとその視線をメナに移す。

メナはその苛烈さに一瞬たじろいだ。

「いい。わかった。それなら確かめよ? あなたが信じているこのお姫様、あなたとの訓練でどれくらい『変わった』のか、ね」

アミネはそう言うと、メナから少し距離を置いて模擬刀を構えた。

その意図が判らないメナでは無い。

「本人の了承もなし、ですか………」

「まあでも、可哀想だし、ハンデをあげる。少しでも私に当てられれば(・・・・・・)あんたの勝ち」

メナのぼやきは聞こえていないのか、それとも聞こえないフリをしているだけなのか、アミネは一方的に今回の試合における規則(ルール)を発表する。

それは明から様にメナを下に見たものだが、彼女がインテネと同等の力を持っていると考えれば、それは決して傲慢とは言えない。

「アミネ………!」

インテネが何かを言おうとするのを手で制し、メナも模擬刀を構えた。

アミネのそれと比べればぎこちない動き、しかし明確にそれは闘争の意思を示す。

「インテネ、いいです。私もあそこまで言われては引き下がれません」

「―――勝てませんよ?」

インテネは断言する。それは警告だ。

アミネになら勝てるかも知れないという希望を抱いているのなら、それは誤りだ、と。

「理解しています」

「………」

メナの言葉を聞いたインテネは黙り込み、ため息を吐いた。

「度が過ぎれば止めます。どう転ぼうが、あなたは僕ら(・・)が守るべき人だ」

インテネは離れ際、二人に聞こえる声(・・・・・)でそう言い残した。

メナはアミネと対面して深呼吸をする。

彼に言われるまでもなく、メナは理解している。

その実力差は確かなものだ。普通に戦えば勝てる道理などある筈もない。

それでもこの場に立ったのは、何か勝算がある訳でもなければ、怒りに身を任せた訳でもない。

ただ、体感したくなったのだ。

(『最強』を梃子摺(てこず)らせた実力者。今の私は、どれほど通用するのだろう)

「正直、受けるとは思わなかった」

「断るという選択肢はありましたか?」

「ないよ、当然。無理矢理にでも引っ張り出してやるつもりだったし」

(そんなに私は意志薄弱に見えるのか)

メナは何となく予想がついていたその返答に苦笑する。

「あんたは一度体験するべき。あんたがやってる目障りな努力は全て無駄、体感すればそれも分かるでしょ」

「それを否定するにはあなたに勝つ他ないと、難題ですね」

メナは思う、そもそもそれは合理的(・・・)ではない。

だが、メナはそれを言い訳にするつもりはなかった。

彼女の言っている事も間違えてはいないと、そう思ったからだ。

その上で、メナはアミネと戦うことを選んだ。


**


「やぁっ!」

メナは屹立(きつりつ)するアミネへと切り込む。

模擬刀によって放たれた袈裟斬りは鋭く走るが、アミネはそれをあっさりと受け流し、メナの身体が泳いだところに打ち込みが入る。

「痛っ!」

さすがに骨が折れるような勢いではなかったとは言え、叩かれたメナの腕は染み拡がるような鈍痛を訴えていた。

(少なくとも(あざ)にはなっているな)

「やっぱりこの程度」

「いえ、まだですよ。ようやく身体が温まってきたところです」

痛みを堪えつつも、なるべく不敵に見えるように笑う。

それは完全に強がり、虚勢の類である。

しかしメナはこの程度で挫けられるほど、かつてのように聞き分けが良くは無くなってきていた。

この意地がどこから来るものなのか、メナにも分からない。

「へぇ、そう」

そんなメナに向かって、アミネは無造作に模擬刀を振るう。

メナはそれを何とか受けるが、次の瞬間には模擬刀の(つか)で脇腹を小突かれた。

「ぅぐっ」

(あの時蹴られたのに比べれば、マシ)

痛みに思わず屈み込んだメナであったが、自分に言い聞かせてよろめきながら立ち上がる。

しかし立ち上がったのはいいものの、特に次の策がある訳でもない。

「―――少しくらい手加減してくれてもいいのですよ?」

「お生憎(あいにく)様、これでもめちゃくちゃ手加減してる。これが現実、理解したでしょ。認めなよ」

別に本気で手加減を求めてのことではない。

立ち直るまでに時間が欲しかったのと、少しアミネと話したいと思ったからだった。

「そうはいきません―――それにしてもアミネ、あなたたちはどうやってそこまでの力を?」

「聞いてどうするの?」

「さぁ、どうでしょうね。気になっただけです」

アミネは少し考える素振りを見せたが、すぐに嫌な笑みを浮かべて言った。

「―――さぁ、特に。才能でしょ」

「そうですか」

「―――はん、どうせ王族様にはそんなもの必要ないんでしょ。最初から持ってる(・・・・)んだから」

メナは話しつつも、痛みが少し引いたのを意識する。

「必要ないなんてことは無いです」

「どうだか。どうせ、これも時間稼ぎでしょ。どう? 十分休めた? それじゃあ―――」

アミネはメナの意図を察した上で乗っていたようで、嘲笑うように口角をあげる。

「―――次は私から」

「っ!」

意識の隙間を()うように間合いを詰めてきたアミネの一撃は、備える間もなくメナの右腿(もも)を捉えた。

加減されているとは言え、涙が(にじ)むほどには痛い。

「歳下にいいようにされる気分はどう、お姫様?」

メナは痛みを堪えて中腰になりつつも、模擬刀を振るった。

当然、そんな腰の入っていない一撃がアミネに届く筈もなく、彼女は軽く後ろに跳んで避けると、メナを値踏みするように見下ろした。

「―――っ、本当に………嫌になりますね」

メナはぼやきつつも立ち上がる。打たれた部分が熱を持ったように熱い。

「解らないな。何度やっても同じ。結局この才能(・・)の差は埋まらない。諦めれば楽になるのに」

アミネは呼気一つ乱すことなくそこに立っている。

「そうかもしれませんね―――」

その質問も他の意図がある訳ではなく、純然な興味からくるものだろう。

あるいは無意識的には何か思うところがあるのかも知れないが、少なくとも彼女自身はそれを自覚していない。

それでも、メナがそれに返す言葉は同じだっただろう。

「―――ですが、使えるものは全て使わなければ生き残れませんでしたから」

「は? 意味不明」

明らかにイラついた様子のアミネは、再度メナの間合いに踏み込んだ。

それを予期していたメナは、今度はその初撃を模擬刀で受け止めた。

軽い鍔迫り合いの中、メナは押し返すための力を込めつつ、アミネに言葉を吐いた。

「才能も努力も、全て前提(・・)に過ぎないということですよ!」

それは確かにアミネには届いた。

彼女の眉が微かに動いたのが、極限状態のメナには分かった。

しかし、鍔迫(つばぜ)りが拮抗していたのも束の間だった。

「―――だから何だって言うの?」

その一言と共にアミネが更に力を込めると、メナの抵抗も(むな)しく、身体は次第に地面に向けて押し付けられていくように感じられた。

単純な腕力でさえもここまでの差がある。

「ぅくっ」

しかしメナは諦めてはいない。

先ほど屈んだ時に確認した、踏み荒らされた脚元の土塊(つちくれ)

拳の半分ほどしか無い塊ではあったが、それはこの試合の規則(ルール)においては立派に有用な道具の一つだった。

メナはあの日以来、何も(・・)していなかった(・・・・・・・)訳では無い(・・・・・・)

「『アケレテス』!」

メナが唱えた呪文は、メナの領域、足先の土塊を舞い上げた。

それは、リョウに言われた魔法の訓練によって掴んだ感覚、自身の領域の認識が可能にした魔法の使い方。

荒削りだが不意を突くのには使える、紛れもないメナの修練の結果だった。

「っ!」

しかしそれは、アミネが咄嗟に身を引いたため、それらはしばらく何もない宙を突き進んだ後、あっさりと地に落ちる。

そしてそれは、メナの非常に細い勝利への糸筋が途切れた瞬間でもあった。

「―――それが切り札ってわけ。くだらない」

アミネが顔を(しか)めて吐き捨てる。

「それで? まだ続けるの?」

アミネがそう言って軽く模擬刀を持ち上げるが、それをいつの間にか現れたインテネが制する。

「このくらいにしておいた方がいい」

「―――そうですね。私の負けです」

メナはインテネが出てきた意図を察して、素直に負けを認めた。

種明かしをした以上、これ以上やったところで一矢報いるどころか、無駄な怪我を増やすだけだ。

とは言え、負けは負けだが、メナは確かな手応えも感じていた。

規則の穴をつくような不意打ちではあったとは言え、彼女の意表をつくことができたのも事実だ。

「―――っは、結局私の勝ち。手加減していたのに、あんたは何一つ届かなかった。分かったでしょ、無駄な努力はやめた方がいいって」

故に、メナはそんなアミネの嘲笑も、冷静に受け止めることができた。

届かなかったことは紛れもない事実ではあるが、それは言ってしまえば「アミネだったから」である。

「そうかも知れませんね。分かってはいましたが、敵わなかった。さすがに強いですね」

メナは打たれた腕を軽く摩りながら、アミネを賞賛する。

メナのその姿は、アミネにとってはどう映ったのだろうか、少なくとも彼女は渋面をより深くした。

「―――もういい。疲れた」

勝者とは思えないような捨て台詞を残し、アミネは建物の中に去っていく。

ああは言っていたが、彼女にも思うところがあったのかも知れない。

メナはため息を()いて、インテネに視線を向けた。

彼が何かを言いたげだったからだ。


**

メナが座れるところを見つけてインテネに話を促すと、彼は滔々(とうとう)と語り始めた。

それはある意味で彼らの成り立ち、その存在の道筋と言えるものだった。

「―――僕らは、元々孤児でした。それは酷い環境で暮らしてきましたね。今でこそそれらが『悪い事』であるという意味は理解していますが、当時はいろいろな事をやったものです」

「後悔していますか?」

「後悔、はしていません。それは僕らに必要なことでしたから。それに、当時も今もそういった行動の原理は変わっていないと僕は思っています」

「つまり?」

「単純です。生きる為、ですよ。僕とアミネはお互いが生き残るために、こうしてゾーク様の下についている。僕らはその点、運がいい。能力のおかげもあってかなり良くしてもらっています」

「それは、そうでしょうね」

メナは、彼らの力がリョウの目を掻い潜る程の代物だという事や、そもそも固有の魔法が発現していると言う時点でも、彼らは貴重であると認識していた。

羨ましくも思う。

そして、そんな彼らを捨て子だからと雑に扱うのではなく、きちんと教育まで授けたゾークのやり方は、流石に人の上に立つ人間のそれだと感心する。

「それもあるからでしょうか、アミネは才能を、何と言うか、過大に捉えているんですよ」

メナはインテネの言っていることが何となく理解できた。

メナは才能が無いが、インテネとアミネには才能がある、メナから見れば二人は羨ましいが、おそらく二人から見たメナは、―――特にアミネとメナの認識は違っているのだろう。

「かく言う僕も、その気持ちは解ります。双子ですしね」

インテネはそう言うと、照れくさそうに笑う。

「だからこそ、アミネがあなたを敵視している理由も、何となくですが解ります。生まれた時から生きるのに困らない人間。そんな人が何を望んでいるのだろう、って」

それは純粋な疑問であった。

子供が目の前を横切る四足歩行の生き物が何なのかを尋ねるのと同じように、彼らは自分たちとは全く生き方の違う存在を前にして、その行動原理を訊ねているのだ。

「そしてそれが、あなたが私に声をかけた理由なのですね?」

メナの中で一本に繋がった線は、一つの図面を作り上げようとしていた。

「はい。ゾーク様の今の行動は、明らかに僕らの行動原理とはかけ離れている。でも、あなたならそれを理解できるのでは無いか、そう思ったんです」

メナは渋面を顔に貼り付けて彼に見せる。

確かに、そこまでは理解できる。だが、だからと言ってゾークを理解し、説得できるのかどうかは別問題だ。

とは言え、何となくだが彼の行動原理は予想ができた。

だが、それを口にすると言う事は、自分のうちに巣食う、彼らにしてみれば贅沢で傲慢な悩みの存在を認めるという事でもあった。

(今の私はそれどころでは無いはずなのに………)

だがそれは否定することもできないものだ。

そう思えば、ゾークが今回の「無謀な」クーデターに対するクーデターを企てている事と、メナが必死に足掻く理由とはよく似ている。

メナは目の前のインテネを見、アミネを思い出す。思えば、彼女も必死だったのだ。

ありもしないものを守ろうと必死になる姿は、自分たちのそれとそっくりでは無いか。

「―――苦しいものなのでしょうね。全てが満たされて生きるに困らない環境で、誰にも必要とされず、矜持(きょうじ)()じ曲げてまでただ生きて行くというのは」

言っていて、メナは馬鹿馬鹿しくなって苦笑してしまう。

確かにこれは、生きるのにも困る人が抱く思いでは無い。

「………」

「―――分かりました。少し考えておきます」

メナは、黙り込んでいるインテネに笑いかけた。

先ほどの体験が自分にとって何かの変化のきっかけとなっていた。

その上でインテネの話を聞き、自分の中で何かが明確に変わったと言うことが分かる。

その変化が良いものであるかは判らない。

だが、それを見て見ぬふりをすることも、メナにはできなかったのである。

人は感情で動く生き物だ。


**


夜。メナの部屋の扉を叩く音が聞こえた。

もう寝台に潜り込むかという頃合いだった故に、メナは怪訝(けげん)に思いその正体を確かめるための声を出す。

「名乗ってください」

「―――アミネ」

扉の向こうに立つ意外な人物の声にメナは驚き、念の為に外の様子を(うかが)いつつ扉の鍵を開ける。

アミネは先ほどまでとは違い、大人しい様子で立っていた。

「夜更けにごめんなさい。明日にすべきだったんでしょうけど、どうしても気が済まなくて」

メナはその様子にもう一度驚いて、しかし彼女を部屋に招き入れることはできた。

彼女がメナの示した椅子に座るのを確認して、メナもその正面に腰をかける。

「インテネから聞いた。ゾークに話をするんでしょ?」

「そう、ですね。そうすることも視野に入れようかと………止めるつもりですか?」

しかしメナの予想に反して、アミネは首を横に振る。

「謝るつもりはないのだけれど、冷静になってみれば今朝のことはあそこまでする必要もなかった。別に私はあんたが(・・・・)関わっていること(・・・・・・・・)についてはゾークを説得できようができまいが、どっちでもいいの。ただ、居場所が奪われると困るってだけ。説得の成否は直接関係ない、そうでしょ?」

「ではなぜここへ?」

あんたが(・・・・)関わっていないこと(・・・・・・・・・・)では、そうなるかも知れないから」

メナは彼女の言っていることの意味を理解して、問い返そうと口を開いた。

「それは―――」

しかし。メナが続く言葉を紡ぐより早く、異変が起こった。


カンカンカン………!


城内に連続で鐘を打ちつける音が響く。

「―――警鐘、何が!?」

「分からない!」

アミネの反応から、それが今回の話とは関係ないことを直感したメナは、即座に身支度を始める。

そしてその間、アミネは部屋を出て様子を確認しに行った。

本当に必要なものだけをまとめる、簡潔なものだが、やるのとやらないのとでは全然違う。

父の形見であるペンダントもしっかりと胸元に落とし込み、見えないようにする。

そして、怒声が城に響き始めたのは、アミネがインテネを引き連れて戻ってきて、メナの準備が終わった頃であった。

「広間に! 急いでください!

5章終わり。ほとんど繋ぎのような内容でした。


反省:

・登場人物同士の対立を意識、最後は少しできた気がする。

・テクスチャに意識を向けすぎて深みがない問題。そもそもそのテクスチャ自体にも起承転結の意図が薄いため、多分ワクワクする内容じゃない。その点は対立意識をもう少し意識する必要がある。

・執筆ペースに関しては、一応予定通りにこなせた。前章に比べると文量が少ないのはあるが、そもそも前章は無駄が多かったのだと思う。こちらはこの調子か、もう少しペースを上げられるように。

・分かりやすい文章を心がける。会話等でそれだと分かるならわざわざ描写を入れない。誇張表現を敢えて入れてもいいのかも知れない。


改善点はまだまだ多いが進歩はあり。次も頑張っていきましょう。

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