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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
亡花、薄明に咲く
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6_波紋の石、楼閣の屋根から来りて

 自身を取り囲むようにして従者を引き連れた彼は、王宮を我が物顔で闊歩かっぽしている。

 白塗りに整えられた城壁も、窓枠の弧から差し込む眩いばかりの光も、そこを修飾する装飾だって、それを自分の好みに作り変えたところで誰も文句は言わない。もはや、自分に抗するであろう勢力は何一つない。

(無いというのに………!)

 何故自分はこうも苛立たなくてはならないのだ。彼の踏みしめる地面は硬い。力を込めて踏み込む度に衝撃がそのまま返ってくるものだから、それが彼の苛立ちに拍車をかけていた。

 彼、イカコ家の重鎮である「イカコ・ナウク・ヒエラーゾ」は自分が仮の王として据えたシオに、形式上としてのみに考えていた支配権を実質的に奪われている事に腹立たしさを感じていた。確かに、彼は自分がある種、利用されているということを感じてはいた。その上で出し抜いて見せるという自信もあった。あんな若造にしてやられる訳がないと。しかし、その時点で焼きが回っていたようだ。

 奴は、予想以上に頭が切れた。

 ヒエラーゾは別の場所で待っている筈の自身の秘書となる側近を呼びつけ、それを待つ。その間も足は止めない。一刻も早く、次の行動に移さねばならない。

 実のところ、自分の傀儡かいらいになるはずだったシオの下につく事になったのは屈辱的ではあるのだが、そこはまだ我慢できる事であった。

 ヒエラーゾは彼の持つ権力と影響力を正しく理解しており、またシオがそれを捨てる事など出来ようはずも無い事を知っていたからだ。完璧な結果とは言えないまでも、数ある宝石の内に傷の一つや二つくらいならば許容範囲というもの。それが強奪したものならば尚更だ。

 とは言え現状、ヒエラーゾとシオの利害は一致している。むしろこの状況なら、彼が優秀である事はイカコ家にとっても都合が良いかもしれない。つまり、彼はシオの下に居ること自体はそこまで大きな不満はないのだ。

 では、何故彼は苛立っているのか。それは前日までの出来事が関係していた。

(我が隠密までも駆り出したというのに何故、小娘一匹が捕まらん!? おまけに、ズノクヨールの置き網にさえ音沙汰がないときた)

「クソっ、払い損だ」

 ヒエラーゾの感情は小爆発を起こし、誰に向けるでもない悪態をついた。飛び火を恐れた従者が気持ち離れたようだが、彼はそのことに気を払いすらしない。

 彼は、クーデターの際に取り逃したアントマキウス姫の捕縛、あるいは抹殺が全くもって上手くいっていない現状が気に入らないのである。自身の子飼いの兵隊まで出動させ、あわよくば雑兵たちを始末しようと考えたにも関わらず、どちらも中途半端な結果に終わってしまった。

 報告を聞いても「突然霧が出ただの」要領を得ず、それがまた腹立たしい。

「ヒルマ、まだか!」

 いつまで経っても現れない自分の甥に、彼は声を荒げる。それを聞いたヒルマが急いでやって来るだろうだとか、そういった打算の全くない感情に任せた行為であったが、結果としてそれは彼にとって都合の良い運びとなる。

「はい。はい。只今。遅れまして済みません」

 へこへこと頭を下げながら小走りで彼の隣にやってきた頬骨の浮き出た痩せぎすの男。この男こそがヒエラーゾの甥であり秘書の「イカコ・ヨツイ・ヒルマ」だ。軍事や戦闘に関してはてんで才能のない男であるが、お役所仕事のような雑事や、時間管理などをやらせればそれなりに使える男であり、ヒエラーゾは口にはしないものの、この甥を見下しつつも重宝していた。

 故に苛立ってはいても、他の者にするのと同様に長々と彼に当たり散らすことはしなかった。それは、他人に対しては何処までも冷たくなれる彼に残った、良心のかけらのようなものであった。それは端的に言うならば身内への甘さである。

「遅い」

「はい、済みません」

 誰が見ても、見るからに急いでやって来たと感じるであろう男に対する言い草では無い。しかし、ヒエラーゾという男は高じた自尊心を諌める者が周りにもはや存在しない為に、それに気を使う事はない。そして現に、彼の周りはそれで上手く機能していた。

「まぁいい。ニコイに連絡をとってくれ『兵の用意をしろ』とな。可及の仕事がある。分かったか? 下がれ」

 ヒエラーゾは淡白に指示を下し、ヒルマを下がらせる。ヒルマはそれに文句も言わず、頭を下げて来た時と同様、ひょこひょこと退いて行った。

 ニコイはイカコ家が抱える最高戦力を率いる団の団長である。先ほどシオに聞かされた話を総合すれば、いま姫君には「厄介な」魔法使いが付いている可能性がある、と言うことであった。

カゥコイ家という特殊な組織の長にさえ「厄介」と言わしめる存在がどのような存在なのか、それはヒエラーゾには想像できなかったが、少なくとも多少は気を引き締める必要があると認識していた。だが、実質的に国の最高戦力である兵隊を揃えたニコイの兵団がたった一人の魔法使いに完敗を帰すことはあり得ない。懸念点としては、その兵力があるとシオは知っている筈なのにも関わらず、彼がそれをヒエラーゾに忠告した、ということだ。あるいは手を抜くな、と言う意味やも知れないが、ニコイを使っても敵わないと踏んでいるのか、そのどちらかによって、対応は変えざるを得ない。

(若造め。どのような存在なのか、明かせば良いものを………)

 ヒエラーゾは内心で毒付く。流石に、誰が聞いているかも分からないような場所でそれを口にするのは彼の理性が邪魔をした。とは言え、苛立ちが消える訳でもなく、床を踏みしめるように歩くのは止めない。

 同時に、彼の頭はシオが自分たちを牽制しているのだと冷静に考察していた。危険な存在がいると仄めかすことで、ヒエラーゾの動きを見計らっている、あるいは抑制しようという考えがあるようにも思える。もしそうなのだとすれば、そうしたい理由があるという事になる。

(これに、どのような狙いがあるというのだ………)

 ヒエラーゾには現状、それが見えていない。故にニコイを使う事を即座に決めた。ニコイならばそこに何かを見出すだろうという確信があった為だ。

 何のつもりかは分からないが、姫君の居場所とその「厄介な」魔法使いの居場所というのは、シオからある程度の予想を受け取っていた。ひとまずはそこに間諜を向かわせるのは既定事項だ。

 先のカトチトァ河への罠の件もそうだが、彼はどうやって知り得たのか姫君の逃げ場所、その通り道を言い当て、そこに罠を張る事を提案までした。ヒエラーゾはそもそも姫君が上手く逃げ仰るとは考えていなかったばかりか、ズノクヨールとの秘密裏での取引により、仮に姫君が包囲を突破したとしてもアーデリに逃げ込むであろう事を知っていたのだが、シオもその手の取引をしていたのだろうか。その案を持ちかけられた時の驚きといったら、思わず冷や汗が流れた程だ。現状、それに関しては何の詮索もないので、そこはバレていないのだろうとヒエラーゾは踏んでいる。

 そして、シオは今回も姫君の居場所を示した。一度の出来事で信用しすぎるのも良くないが、そこに彼女が居る可能性は低くないだろう。

(悔しいが、流石は「カゥコイ家」ということか………)

 ヒエラーゾは、その若い癖に感情を完璧に覆い隠した、何を考えているのか掴み辛いシオの顔を思い出し、苦々しい思いで顔を顰める。

 思えば、ヒエラーゾはカゥコイ家の当主が変わる前からシオとは接点があった。そのきっかけが何であったのかは最早思い出せないが、ヒエラーゾがそれを上手く使おうと考えたのは確かだ。しかしそれは、今になって振り返って見るとシオの目論見の通りなのかも知れない。とするならば、ヒエラーゾの目論見にも勘付いている可能性はある。

 ヒエラーゾは王宮内に新たに設えた自分の部屋の前に立ち、部下が扉を開けるのを待つ中、今後の事に思いを巡らせていたが、ふと、目下の目的について視点が向かった。

(………それにしても何故、奴は姫君の排除にここまで拘っているのだ?)

 支配者が替わると言う触れをすでに出している以上、最早何の力も持たないであろう姫君の存在など、大した脅威とはなり得ない。生じた反発も現状では想定以内のものであった。それらが仮に姫君のために団結し、蜂起したとしても問題はないだろう。

 元から政治的な力が強かったならば、それに与する集団もあるだろうが、調べた限りではそのような集団は彼女の背後には付いていない。アントマキウス教に関してもそこに関連性は見られなかった。だと言うのに、シオは姫君の排除に異様に執着している。

 やるからには徹底的に、と言うことなら彼も共感できた。些細な見落としから思わぬ反抗勢力など出てこられても面倒だ。負けるとは思わないが。

(だが、奴は休暇はカビ臭い書庫に籠る手合いの人間、それだけでここまでの執着はしないはず。やはり何か隠しているな?)

 そこまで考えたところで、部下が部屋の扉を開け切り、ヒエラーゾは部屋に入る。そして、若いめかけを呼びつけ、その身体を抱き寄せた。

(………いや、関係あるまい)

 しなだれ掛かる女の匂いを嗅ぎ、そうしている内に気持ちに余裕ができたヒエラーゾは、自分の内に浮かんだ考えを陶磁器を地面に叩きつけるように打ち消した。

 仮にそうであったとしても、今や状況は動き始めているのだ。それは「知っている」からどうにかできるような代物ではない。世の中には知っていても手が届かないことがごまんと存在する。

 障害は、圧倒的な「力」で押し通れば良いのだ。

 とりあえずの最優先事項は姫君の排除。その後のことは、その後に考えれば良い。

「ワシこそが支配者に相応しい。そう思うだろう?」

 何の考えもなしにそれを肯定する、自分に都合の良い生きた人形を片手に、彼は気分良くほくそ笑んだ。

三章終了。

 夏バテ、辛いですね。ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

 少しずつ面白くできて来ているのではないかなと思いますが、自分で見直すだけでもできていないことが多いので、そこら辺の成長も含めて見守ってもらえればと思います。

 以下は今回の反省と次回の目標です。何かの参考にはなるかもしれません。興味があればご覧になっていただければと思います。


反省、整理:

 三章は主人公の二人が協力関係を結ぶまでの過程を意識。起伏を作る試みもしたが、少ない。

 一応、章の意図には沿った内容にはなったかとは思う。丁寧に書いたつもりだが、振り返ってみれば特に三章の頭の方にはその場面は本当に必要か、という場面も多いように感じる。

 誰が物語を動かすのか、その意識の欠落。それに気づいたのが後半に入って少ししてから。今後は要改善。

 後半は新たな試みも兼ねて多少は長くなるが、一話をまとめてアップ。一連の話ができてからなので話の区切りもつけやすい、自分の中での大枠としての物語の整理にもなる他、未定な部分など不明点の洗い直しなどができる。利点はもりもり。デメリットとして、考えられるのはかさ増しができないこと。ただ、現状はそこを考える段階ではない。そういうのは、ある程度人気が出て、さらに顧客数を増やす必要がある人が考えること。自分には不相応。

 基礎を身につけることに意識を集中。


四章で意識すること:

 章ごとの起承転結を用意、それに沿って話を作り、一話ごとにも起承転結を意識。

 少しずつプロットの作り方も理解できて来たので、キャラクターの深掘りも視野に入れる。現状は個性が薄味。現状の作風的にキャラクターのデフォルメはしすぎると不自然。それを踏まえた上で、プロットの段階で登場する人物の決定、その物語における役割、どういった過去を持ち、性格になったのかをある程度詳細に決定する。

終了

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