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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
薄明の姫_Prologue
4/93

2_鴉羽の使者_1/2

 暗く迷宮のような隠し道を抜けた四人に、滑らかな絹のような声音が覆い被さった。

 初めに動いたのはドウカイとセジンカグの二人。

 ドウカイは即応的に腰から直剣を引き抜き、声の聞こえた方向に突きつけるように構える。

 そして彼は同時に、メナとギノーに対してさりげなく、洞窟に下がるようにと身振りをする。

 セジンカグはメナ達の背後を警戒しているのか、出入り口に対して横向きに立ち、なるべく背後と正面を視界に収めるようにして起立している。

「………何者だ」

 洞窟の入り口、その横に立っていたその女は、目の前で武器を構えるドウカイを前にして特に焦った様子も見せない。

 むしろ、目元まで隠れたフードの下で微笑んでさえいる。

「さて、何が良いかしらね。考えてなかったわ。

 ………鴉羽の使者、とかどう?格好いいと思わない?」

(鴉羽?聞いたことがないけれど………服装に準えた?)

 メナはドウカイの背後から、その怪しげな女を観察する。

 その薄く紫色がかった外套の黒色は、確かに鴉の羽の色に見えなくもない。

「要件は」

 ドウカイが低く唸る。その際、彼の心情につられたように直剣が少し持ち上がった。

 その目は一挙一動を見逃すまいと、睨みつけるように鋭い。

 メナは、それが自分に向けられた訳ではないのにも拘らず、鳥肌が立っていることに気づき、そっと腕を摩る。

「一言で言うならば、助言?が一番近いかしら?」

 あくまでも態度は変えず、平然と答える彼女に、メナは驚嘆した。

 自分よりも一回りも二回りも大きな男からあんな声を出され、それでも尚、平静でいられるその胆力はどこから来ているというのか。

「助言だと?」

「そう。強いて言えば、ね?」

 ドウカイが眉を顰めたのが、背中越しにも分かった。

 メナとしても同感である。

(信用できるはずがない。けれど………)

 猜疑心という色眼鏡を通して、鴉羽の使者を見ているメナではあったが、そんな中でも不自然な点があることを確かに感じ取っていた。

(もし仮に彼女が追手なのだとしたら、一人でここにいる理由がない)

 居場所が分かっているのだったら、人数を揃えて襲った方が余程、手っ取り早く合理的である。

 わざわざ回りくどい方法をとって罠を仕掛ける理由があるとは思えない。

 考えるメナを尻目に、鴉羽の使者はふわりと動いた。

 正確には、動いていた。

 誰もが反応する間も無く、気づけば彼女はメナの真後ろに立っていたのだ。

 メナがそれに気づけたのは、彼女の艶やかな声が自分の耳元で聞こえたからだ。

「………でも少なくとも、あなたの命を救うこと、助言の役割を果たすことに違いはないわ」

「!?」

 メナが慌てて振り向いた時には、彼女の姿は掻き消え、また元の位置に戻っていた。

 なんとも言えぬ、ほのかに甘い残り香だけがそこに誰かが居たことを示しているようだった。

 元の位置に戻った彼女は特に身構えるでも無く、まるで初めから動いていないかのようである。

「セジン、ギノーでも良い。何か見えたか」

「………いや、何も」

「私も、気づいたら………あれは、『魔法』ですか?」

 涼しげな使者の女とは対照的に、振り返ったドウカイは苦々しげだった。

 そして、何かを考えるように空を見上げたあと、ため息をついた。

「………姫様」

 ドウカイに声を掛けられ、メナはその意図を察する。

 メナに判断を委ねる、それは暗にドウカイが負けを認めたと言うことだった。

 たった一人の女性から、メナを守り切ることができないという確信。

 そしてそれは、メナの目から見ても明らかだった。それならば、変に話を拗らせるのは得策ではないだろう。

「『鴉羽の使者』の方、話を聞きましょう」

 それを聞いた使者の女の口元は、にっこりと笑みを深めた。

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