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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
亡花、薄明に咲く
38/93

1_明けぬ空に明星_3/3

2/3の最後のビレトのセリフ部分。フレーバー的に芳しくない部分があったので、少しだけ修正しました。

ビレトと一緒に時間を潰していたのはイシタカの先代の「イシタゴ」に変更しました。

現在の狩人、兼、解体師の「イシタカ」ではありません。

話の流れは変わらないですが、一応ここに追記しておきます。

 リョウがイシタカを訪ねて部屋を出て行ってしばらくして、ビレトは村を石切の宿場町とする「開拓計画書」をまとめ終わり、伸びをして凝り固まった背中をポキポキと鳴らした。

(上手くいきゃいいがな)

 この計画は村の進退に関わるものだ。山の雪も完全に溶けて、これからが本格的な活動だという時期に出鼻を挫かれるのは避けたいところだった。

 最近では魔獣の霞被害による日照問題が数日間続いてどうなることかと考えたが、蓋を開けてみれば最小限の被害で済んだと言えた。これは奇跡的なことだ。

 というのも魔獣駆逐、もしくは退治は本来ならば村に魔獣に対峙できる人間がいない以上、国に魔獣排除のための申請やら討伐隊の派遣のために賃金を工面する必要があるやらで、そもそも数月以上かかるのが普通だ。かといって、魔獣が近隣に存在している状態で計画を推し進めることなど、あまりに現実的ではない。だが幸いにも、この村にはリョウというあまりにも規格外の存在が居てくれた。おかげで、その辺りの問題を丸ごと避けることができた訳だ。

 しかしながら、そういった幸運というものはいつまでも続かないこともビレトは長年の経験から知っていた。こういう気運は波のように浮き沈みがあるものだ。

 これが特大の幸運であったとすると、その採算を取るために不幸が起こるか、あるいは不幸とまでは行かずとも多少の問題が起こるのではないだろうか。そんな漠然とした不安がビレトにはあったのだ。

(魔獣が出たって時点である意味では不幸ではあるんだがな………)

 とは言え、今後のことを考えるとこの計画を通さない理由はない。彼も老先長い訳でもなし。自賛するようだが、次世代に彼ほどの切れ物もいなかった。なれば彼がまだ動ける今のうちにできることはしておきたいというのが正直なところである。

(こんなことなら、教育の方に力を入れても良かったかもなぁ)

 彼はふと、そんなことを考える。村の規模を考えると不要だろうと当時は考えたが、今になって思えば失敗だったかもしれない。

 次代は彼の娘のメムに頼むということも考えたが、どうにも気乗りはしない。これも親心かと自重気味にひとり、笑う。

 だが実際、客観的に考えてみても彼女の性格は村長には向いていないだろうなとも思う。

(ありゃぁ、誰に似たんだろうな?)

 瞼の裏に、根っからの学者気質の娘の姿が映り込み、彼は苦笑した。

 背中側に手をついて寄りかかるように胡座をかいて、疲れた目を休めるように瞼を下ろして座っていたビレトであったが、しばらくして扉の前をパタパタと歩く足音が聞こえ、声をかけるまでもなく扉が開け放たれたのを聞き取って目を開けた。

「なんだ、もう飯の時間か? さっき食ったばかりだと思ったがな」

「違う」

 茶化すようなビレトの言葉に、彼の妻のジーナは呆れたように言った。

 しかしビレトが目を遣ると、真面目な表情を作った彼女の姿が目に入る。それを見て彼は「まあ、そうだわな」と、今後の展開を思い描く。

「………ねぇ、おとうさん? リョウが連れてきたあの子なんだけど、何か聞いてないの?」

「聞いてねぇな。必要ないからな」

「そう? ………ねぇ、おとうさん?

あの子が着てた服、ボロボロではあったけど、高そうだったし、怪我の具合にしたって………」

 ジーナがポツポツと雨受けの雫が滴るように話始めたその内容が、ビレトの予想通りに彼女のことであったために、ビレトは先に決めていた通りに、ジーナの言葉を遮った。

「かぁさん………」

 ビレトに呼びかけられたジーナは、眉を八の字に曲げて彼を見たが、ビレトはそれに対して首を横に振る。

「知らんでいた方が都合がいいこともある。今は放っておけばいいんだよ。それにお前、リョウが連れてきたんだ、アイツだぞ? あいつのことだ、問題がありゃぁ、何とかするだろうさ」

「そう、かねぇ?」

 疑わしげに眉を顰めて首を傾げるジーナであったが、ビレトはあえて力強く頷いてみせた。

「そうとも」

 ビレトの言葉はジーナを安心させるための目的を持って放たれたものではあるが、半分は本心である。知らない方が「知らなかった」という言い訳ができるし、大抵の事もリョウならば解決できるだろう。それが本心の部分だ。

 しかし、もう半分はそれが危険性を孕んでいるという事実を押し隠した、嘘だ。

 リョウが自分でビレトに言ったように、彼がいつまでもこの村を守ってくれるとも限らない。それに、知らなかったが故に取れたはずの対策をやり逃す、ということも十分に考えられるのだ。だからこれは一長一短、彼にとっては賭けのようなものでもあった。

 だが、ビレトはリョウのことを信用している。同じ村民ではないとは言え、彼は村のためにさまざまなことをしてくれた。それが村の為だけではないにせよ、してくれたことに変わりはない。昔から見てきた、大人ぶっちゃいるがその性根は昔と変わっていない。それだけで信じるに値するというものだ。

「ま、何にせよ今は休ませてやりゃいいのさ。あいつらは、俺らじゃ計り知れんようなモンを背負い込んでるんだろうからよ」

 明らかに全てを納得した様子ではない嫁を流し見て、ビレトは目を閉じた。

(そうだ。休ませてやればいい。休めばまた、動き出せる)

 色々起こるだろうが、きっと、これに関しては悪いことにはならない。そんな気がするのだ。

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