8_不明の魔法使い_4/4
彼の「領域」の中に、視知った感覚が入り込んだことで、リョウはそこに目線を向ける。
それは、先ほどの洞窟の側で感じた魔法の残滓。
空に伸び上がるようにして伸びるその形質は煙のようだ。
(魔道具か?ただの煙筒のようだが)
しかし、暗闇の中にあっては視界では何も捉えられず、しかしリョウはその意図をそこから察する。
どうにも、これはリョウへと向けた合図らしい。魔法を「領域」で認識するリョウ以外には使えない、視覚に依らない伝達道具。
(偶然な気もするが、あいつならこれくらい仕込むか………)
リョウは友の憎たらしい笑顔を思いだし、苦笑する。どこまでも、思い通りという訳だ。
癪だが、その筋書きに従ってやろう。
「出番です、ベニー」
リョウは自分の外套に手を当て、声をかける。
その瞬間、彼の背後から風が吹き抜ける。
「『追風』借りますね」
リョウの呼びかけに応えるように一際強い風が吹く。彼はそれに合わせて膝をたわめ、跳躍する。その衝撃で地面が少し抉れ、周りの草木は暴風でなびき、葉が数枚とんだ。
その速さは今までの比ではなく、その速度は流星を思わせるようなものだった。
直線的な動きしかできない上に、速すぎて探索や短い距離を移動するには絶望的にそぐわないこの技はしかし、今回のような状況では非常に強い。
リョウは体感にして一分にも満たない内にその距離を踏破する。着地の衝撃を逃す為に、周囲に少しばかり風が舞ったが、それに気を払う者などいなかった。
両手と膝をついた状態からゆっくりと立ち上がり、彼はそこで初めて自分の領域に入り込んだ混沌渦巻く周囲の様相を認識する。
(なるほど、ね………)
リョウの「領域」は、そこで巻き起こる全てを捉える。だが、リョウはそれら全てを認識することはできない。
しかし、彼はそれを認識していないだけで、そこにあるものを無意識下では受け取っている。それは彼自身を守る為であり、余計なことを考えない為の術でもある。
裏を返せば、必要なことは「認識」することができる。
故に彼は、この修羅場に於いて誰を助けるべきなのかを自然と判別できた。
ゆっくりと歩む彼に気付き、咎める者は誰も居ない。
もはや空疎な喧騒も鳴り止んで、彼が歩く音を遮るものは何もなかったというのに。
代わりに響いたのは、一人の男の下品な大義の宣言。
リョウは、俯いたまま応えぬ薄明の姫に代わり、言葉を紡いだ。
「嘆かわしいが、お前は多分、その『我ら』には含まれていないよ」
それは単なる事実の羅列。隠し味は嘲笑と憐れみである。




