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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
薄明の姫_Prologue
3/93

1_秘された道_3/3

 メナは地図から森と地下道の出口の距離を読み取り、その長さに辟易とする。

 そして彼女は薄暗さに紛れてさりげなく、靴擦れの周りを摩った。

 暗くてよく見えないが、きっと血も滲んでいるだろう。我慢できないこともないが、痛いものは痛い。

 かと言って、こんな洞窟で靴を脱ぐのは怖くてできない。

 この道ですらここまで疲労しているというのに、さらに長い距離を歩くとなると正直自信がない。

「それについては、この地図を貰い受けた際にオウマ殿からお聞き受けしています。

 川には小舟が一艘、船を泊めてあるはずだ、と」

 メナはそれを聞いて、平静を装いつつも内心では歩く必要がない安堵で胸を撫で下ろす。

「準備がいいですね………なんにせよ、移動については問題は無しということでしょうか」

「そうですね。危惧があるとすれば、川が一度、城下町とその近くの橋に近づくことでしょうか。

 彼らの捜査網がどこまで拡がっているのかは分かりませんが、仮に町の外にまで網が貼られていた場合、非常に危険な綱を渡る羽目になります」

「見込みは?」

「幸いにもあそこは川幅が広いので、夜闇に紛れれば見つからずに移動することはそう難しくはないかと。

 それと、川に異変が起きていないか、一度セジンカグに斥候せっこうを頼もうと考えています」

 ドウカイの計画は、早い話が行き当たりバッタリの博打ではあるが、現状持ちうる情報ならこれが最善だと、メナは思った。

 変に手の込んだことをして墓穴を掘るくらいなら、単純な作戦の方が失敗も少なく済む。

「そうですね。それがいいでしょう。二人も、異論はありますか?」

「いえ、ございません」

あっしも良いと思いますぜ」

 二人の肯定とメナの視線を受け、ドウカイが頷く。

「それではセジン。今のうちにこれを渡しておく」

 ドウカイが背後の荷物袋から二本の筒を取り出した。滑らかに加工された木製の外装と、その両端にふたをするように無骨な木材が取り付けられている。

 ドウカイが渡したそれらは、それぞれで外装の色が異なっているのが薄暗い中でも分かる。

「煙筒ですかい?」

「ああ。危険を確認した場合は白の煙筒をあげてくれ。こっちで準備をする。

 もしお前が捕まりそうだとか、追われていることに気がついた場合は黒だ。悪いが黒の場合は、お前の戻りを待っている余裕はないと思え」

「それくらいは覚悟していますぜ」

「あぁ。頼む」

 メナは、そんなやりとりをする二人の屈強な護衛を見やる。

 戦闘技術を徹底的に学んでいる騎士出身の二人。

 魔法も単純な格闘も、その実力は並の兵士の比ではないだろうが、そうは言っても所詮は人間。

 極論、百人の一般市民に囲まれたとして、数にものを言わされれば無事で済む保証はない。

 故に「危険なら見捨てる」という選択が入り込むのは仕方ないことであるということは理解していた。

 しかし、理屈とは別に、感情はそうなることは避けたいと叫び続けている。

 叫ぶはいいが、考えるのは理屈だ。

 他に取れる手段が思いつくわけでもなく、結局感情は理屈にねじ伏せられる。

 メナはあくまでも凡才。彼女自身がそれを自覚していた。感情が活路を拓くような奇跡を望むべくもない。

 彼女は何も言わず、俯いたまま立ち上がった。

 その顔に出ているであろう感情を誰にも見せないように。

「………さて、もう十分休めました。方針も決まりましたし、先を急ぎましょう。

 まずは外に出てから、です」

(————私はちゃんと振る舞えているだろうか)

 メナの心配を知ってか知らでか、彼女の言葉に他の三人も同意して抜け道をまた歩き始めた。

 メナも足の痛みに密かに顔を顰めつつも、遅れないよう足を早めた。

 それからしばらく歩き続け、足元が土気を帯びてきてしばらくして、彼女たちは外の世界へと辿りついた。

 出口は小高い丘に囲まれ、茂みで視界が通らないが、それが地底ではないことは、眩いほどの月明かりが証明していた。

 しかし、その達成感とちゃんと辿りつけたという安堵で気を緩めるよりも早く、聞き覚えのない声が彼女達を出迎えたのである。


「お待ちしておりました。姫様と………その従者の方々」 

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