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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
不明の魔法使い
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7_かり_2/2

「それで、話とは何だ」

 村長の屋敷の一室。応接の間として使われているその場に腰を据え、村長は口火を切った。

「あれとは別の魔獣が付近に出現した可能性があります」

 村長は卓上のやかんから自分で茶を注ぎ、それをぐびと一気に呷った。

 彼は一筋溢れた口元の茶を手で拭い、ため息をつく。

「そりゃあ、面倒だな。目星はついているのか?」

 リョウは首を横に振る。

「あの魔獣を追いやった存在としか」

 村長はがりがりと頭を掻きむしり、顔を顰める。

「ありゃあ相当な大きさだ。あれが棲家を変えるほどの何かがいる、と?」

「現状ではあくまで可能性にすぎませんがね」

「そりゃあ、もう、確定事項なんだろうが。お前がわざわざ、こういう話を振るんだからよ」

 リョウは強いて否定する事はせず、黙ってその場をやり過ごす。彼としては確かに、その可能性が遥かに高いものに感じられている。しかし、それを証明する手立てが何一つない上に、自分がこの村に関しては部外者なこともあり、余計な憶測は口にしないことに決めていた。

 それでも今回のことを村長に伝えたのは、それだけ危険な可能性があることと、世話になっている借りを返すために他ならない。

「………分かった。それとなく村人には警告しておこう。………敢えて訊くが、仮にそれが見つかったとして、お前はそれを狩れるのか?」

 村長はリョウが放つ、普段とは違う微妙な違和感を敏感に察知していた。

 この質問はその正体を探るためのもので、リョウがそれを狩れないことを危惧しているのではないかと推測してのことだ。

「狩れない事はないと思います」

 それに対して、リョウは曖昧な回答を投げ返した。現状のリョウにはその魔獣の正体を掴めているわけではない上に、今の彼には胸中にわだかまる悩みがあった。それは言語化できておらず、なんとなく内側で燻っている。

「歯切れが悪りぃ、らしくないな。何か問題でもあるのか」

 村長の問いに、リョウは話すべきか悩み、結局何も言えずに黙り込んだ。どうにもこの人の前だと自然に甘えがでてしまうような気がする。

「………」

「………お前のその顔、見た事があるな」

 村長はそう言って苦笑すると、立ち上がってリョウの横に立って、頭に手を乗せた。

「リョウよ。俺達・・に引け目があるのは分かるが、少なくとも俺は………」

「分かってますよ」

 リョウは村長の手を優しく払いのけ、ため息を吐いた。

 かつて実際の親のように彼の面倒を見てくれた命の恩人、その彼が何を言わんとしているのかは、言われずともリョウには伝わっていた。

「手紙が届いたんです。かつての友人から」

 リョウはその経緯をかいつまんで説明し、それに対して彼自身が思うところを全て、村長に明かした。もちろんそれは、彼自身の感情面が主の、話せる部分までの話だが。

「つまりその友達は、お前に助けを求めている訳だが、お前はそれに乗り気ではないと?」

 リョウは頷いた。

「その手紙の真偽すら確かではない。それに魔獣の件もある。時間を掛ける事は避けたい」

 リョウは腰掛けにぎしりと体重を掛け、軽く上向く。

「まぁ、そいつらぁ全部言い訳だわな」

 無意識にかつての出来事を思い浮かべているリョウに対して、村長が言った言葉はリョウの内面を見透かすものだった。リョウはきまりが悪くなり、思わずはにかんだ。

「そうですね………確かにそうだ。言い訳だ」

「要は、魔獣狩りをやっていられないかもしれない、ってこったろ?」

 村長は自分の席に戻り、どっかりと腰を落とし、深く沈み込んだ。

 古びた椅子はギシリと音を立てる。

「そりゃ、多少は面倒だが、村の一員・・・・でもねぇお前が背負うことでもねえだろうがよ」

 そして村長はため息を一つ吐いた後、まだ考え込んでいるリョウに身体を前に寄せ、ニヤリと笑った。

「行ってこいや。こっちはこっちでやるしかねぇんだ。最悪、村捨ててでも逃げりゃいい」

 リョウはその顔が、かつて彼と出会った時のそれと重なり、確かな安心感を感じた。

 それは決して論理的でなものではないが、それを馬鹿げたものと否定できないほどには、リョウは人間であったらしい。

「………そうですね。ありがとうございます」

 リョウはその日、初めて本当の意味での笑みを見せた。

 この不器用な男に今や、迷いはなかった。

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