6_仮王_1/3
薄暗い王城、その一室。
執務に関わる会議の全般が行われるこの場所に集められたのは、この国の舵を取る権力者達。
しかしそこに仄めかしく存在する、後ろ暗さ。この部屋が普段にも増して暗く閉め切られているのはその総意の発露であっただろうか。
しかし、そんな中であっても、その男は堂々と胸を張り、夜闇に浮かび有象無象の星々を照らす月の如き様相で、彼らの中央に鎮座していた。
如何にも高価な黒い生地に、権勢を示す細かな金糸の刺繍がしつらえられた服装に身を包み、その男——シオはよく通る声で場を取り仕切る。
「それでは、現状の報告を」
「は。現状の『特記人物』の行方についてでございますが、特一、特二、特四に関しては王宮にてその身柄を確保。その際、抵抗の激しかった特一、特二に関しては既に、我が隊の者が」
シオの直属の部下であるスメノオ。彼の話す内容は当然、既に耳に入れている内容ではあるが今回は会議の場、改めてその概要の説明をさせる。
「特三に関してはどうなっている?」
「は、依然、確保には繋がっておりません」
「なぜ?」
わずかに漏れ聞こえる嘲笑以外には至って静かな室に自分の声が嫌に耳に響くのを彼は感じていた。
シオとしては、この茶番のようなやりとりを繰り広げることに馬鹿馬鹿しさを感じないこともないのだが、こうした形式ばったやり方を好むのが権力者というもの。殊更、歴史の長い貴族などは特にこういったしきたりを重視する傾向にあることは、この場からだけでも十分に見て取れた。
彼はため息をぐっと飲み込んで、部下の返答を待つ。
「目下調査中ではありますが、隠し道の類が存在したものと思われます。加えて我々の動きがどこからか漏れていたようで、それが特三が逃げるだけの隙を与える結果に繋がったものかと」
「正直な話、今回の動きに関しては完璧に秘密裏の行動とは行きがたいものだったことは我々も認識している。それでも敢えて問うが、どこから情報が漏れていたのかは掴めているのか?」
「ええ、ごほん。それに関しては我々から提言させていただきましょう」
唐突に声が上がり、シオは目線をそちらに向ける。
「………ヒエラーゾ殿」
シオのことを手で制すようにして起立した「イカコ家」の重鎮。
「イカコ・ナウク・ヒエラーゾ」は、我こそがこの場における主役とでも言わんが如く、シオの許可を待つまでもなく芝居がかった仕草で話し始めた。
「それに関しては、我々『イカコ』が内々にて調査を進めておりました。敢えて飾りを排しまして語らせていただきますと、計画の漏洩元は『ギノリンダス家』でございましょう」
ヒエラーゾは態とらしい笑みを口元に浮かべ、そのまま手をギノリンダス家の長、パーロの方に差し向けた。
それを受け、パーロは俯き気味だった顔を勢い良く上げたかと思うと、引き攣った顔で烈火の如くそれを否定する言葉を並べ立てた。
「何を………何をそんなバカな!我々、我々がそのようなことをするはずがないでしょう!我々は実際、計画のために多大な出資をして………」
「そのような形式上だけのことならいくらでもできるでしょう?それに実際、我々には決定的な証拠があるのですがね」
ヒエラーゾはそこで態とらしい口元のニヤケを引っ込め、背後の従者から一片の紙束を受け取る。
「こちらには、何者かと特記人物とのやりとりが記されております。こちらの書面からのみではその人物については特定できないように工夫はされているようですが、こちら、計画の日取りを確認していただきたい」
パーロ含め、他の貴族達がその資料に目を向ける中、シオは冷めた目で横合いの窓の垂れ布の隙間から、眩しいほどに蒼い空を覗き見た。




