4_逸脱の者_2/2
スメノオは森を魔法で風のように駆ける。
身体能力は操作できないが、その推進力は多少ならば制御できる。
諜報部隊に配属されてからというもの、この手の技術の習得は必須。彼もその習得には手を焼いたものだ。
ほとんど曲芸と変わらないような魔法の操作、集中力を必要とするこの技ではあったが、ごく短時間であればこれほど効果的に使える移動手段もない。
あの小屋から街道まではそう近くもないが、彼ならば問題なくその距離を走破することができた。
それは一般的な認識とすれば神技と称すに十分なものだし、彼自身もそれを自負していた。
今の主人にもそれを買われ、こうして任を任せられているのだ。
だが、だからこそ、先のリョウという存在の人道を逸した存在が頭にこびりついて離れない。
主人から話を聞いた時には、失礼ながらその正気を疑った。
そんなことがあってたまるか、と。
だからこそわざわざ鍵開けまで実行してあのボロ小屋に潜み、その真偽を試すような真似をしたのだ。
最初は、やはり眉唾かと落胆した。しかし彼が主人の名を述べた瞬間に、その印象がガラリと変わった。それが演技であったのだと理解するのに時間がかかったが、その時分まではまだ油断ならない存在、その程度の認識である。
だが………。
(初めから演じていたのだとして、私に気づいていたとしたら………あいつの『領域』はどれほどあるのだ?それともそういう魔法なのか?だとしたらどんな?まさか人体に直接作用する類ではあるまいな)
考えているうちに目的地に辿り着き、彼は背後を振り返る。そして得体のしれない不安を振り払い、正面を向く。
スメノオは帰路に待たせていた自分の部下と馬車に乗り込むと、主人の言葉を思い出した。
(あなたのいう通りでした。確かに、あれは………)
彼は馬車に揺られ一人、いつの間にか強張っていた肩の力を抜き、凝り固まった肺から重苦しい息を吐き出した。
それは確かに安堵の吐息であった。




