2_穿通_2/2
「俺には効かない」
加速の魔法で一瞬で間合いに潜り込んだリョウは、怪我をした脚の前で言葉を解さないその獣に語り掛ける。
霞猿はそれに反応し、咄嗟に右脚を地について腕をリョウに振り下ろそうとするが、そのまま上体を崩し、その攻撃はリョウの頭上を行き過ぎる。
自身の生み出した蒸気の幕が脚を引っ張る形で反応が遅れ、霞の中から飛び出してきたリョウの動きに対応しきれなかった。
「悪いな。『ファーロ』貫け!」
リョウはその言葉を最後に、霞猿の喉元に『穿通』を乗せた剣を突き立てた。
少し曲がった彼の剣はそれでも、リョウの体重と速度、そして魔法の力を一点に集め、持ち主の意の通りに霞猿の喉を貫き、致命傷を与えた。
(あぁ、嫌だ嫌だ)
リョウはその手に残る感覚に顔を顰めつつも、手は緩めない。
剣を捻るように力を加えて傷口を広げた後、無理やり剣を引き抜いて三歩程そこから退く。
返り血を全身に浴びたが、リョウは霞猿から視線を外さない。
ガ………ブ………。
肺に血が入ったか、ゴロゴロと不快な音を立て、霞猿は苦しそうに呻いた。
霞猿は倒れ際に腕を振るうが、リョウはそれを難なく剣で叩き払う。
そして屈み込んだ霞猿の背中に剣を突き立て、蹴り倒すように剣を引き抜いてトドメを刺した。できる限り苦しむ時間を減らすためだ。
横倒しになった霞猿の身体はその後に少し痙攣し、そのうちにその動きも停止した。
それが治って尚もその亡骸をただ眺めていたリョウだったが、しばらく経って霞が晴れ、陽が彼の顔を照らしたことで我に帰った。
剣の血糊を落として鞘に戻したリョウは霞猿だった巨大な背中の脇に立ち、その光を見て顔を顰める。
そして、滲み込むように頭に語りかけてくるその感覚を振り払うように、彼は独白する。
「………臆病なやつだな。そんなだから、負けるんだよ。だから、そんな目で見るな」
物言わぬはずの霞猿の翡翠の相貌は、恨みがましく彼を睨んでいるようだった。




