1_秘された道_2/3
「仮に追手が人数を揃えてこの地下に入ったとして、分岐ごとに半数ずつに別れて進んでいくとしますね?
そうすると、分岐ごとに人数は減りますが、誰かは確実に正解の分岐を選べます。
そう言うふうに、無理やり追ってこられると、この迷路のような道を進んでいても追い付かれるかも知れない、と言うことですよ」
メナがドウカイの代わりにギノーに説明してやる。
昔ドウカイが似たような話をしていた受け売りだが、自分が理解できていることを示す意味でも、そうしておきたかった。
「なるほどぉ」
あまり理解できていなさそうな返事が返ってきて、三人は思わず苦笑する。
「あまりのんびりはしていられない、という事でもある」
ドウカイがメナの言葉に付け加えてそう言うと、彼女は焦ったように立ち上がる。
「では、急ぎませんと!」
「落ち着きなさい。確かに急ぐことも大事だが、休める時に休まないと後で手痛いしっぺ返しを食らってしまうものだ」
ドウカイに諭され、今度はギノーもメナの隣に座った。
ドウカイはそれを尻目に、抜け道の地図を拡げてカンテラの灯りで照らした。
「それに、多少なりとも安全が確保できている今のうちに、今後の話し合いもしておかなければ」
「この道の先には何があるんで?」
セジンカグが訊ねる。彼は警戒のためか立ちっぱなしなので、メナの頭上から声が聞こえてきた。
「カトチーニ川に続いている」
「ほーん………」
「………何かないのか?」
「私の本職は戦いですから」
「そうかい」
二人の軽口を聞き流し、メナはドウカイの手元の地図を覗き込んだ。
地下に伸びるこの不思議な道を、線だけで書き記したこの地図から分かることはそう多くはない。
しかしドウカイの言う通り、終点は王宮から南東の方角、その直線上のカトチーニ川だということは読み取れた。
「カトチーニ………」
「気付かれましたか」
ドウカイがメナの視線を追って、訊ねた。
「アーデリの森に続いてますね」
「えぇ、ズノクヨールの騎兵と落ち合う予定地。予定では5日後のはずでしたが………」
ドウカイの言を聞き、メナは無意識に背中に担いだ文書の入った巾着袋に手を添えた。亡命の際に最低限差し出せる、手土産の一つだ。
(なぜ、こうなってしまったのか)
その袋を触りつつ、メナは何度目になるのかも分からない自問を繰り返す。
実際のところ王宮では、怪しい動き自体は早い段階で掴んでいた。だから事前に父が以前から親交があったズノクヨールに根回しをして、亡命を助けて貰う算段だった。
父と弟は共に逃げるつもりがあるのか微妙なところではあったが、少なくともメナは比較的安全にこの国を脱出できたはずだった。
しかし予想外だったのは、彼らの動きが想定以上に早かったこと。
結果として計画は前倒し、おまけにこうして地下を這い回ることになっている。
メナはこうして運良く生き延びているが、彼女の父と弟はおそらく————。
メナはため息を吐きそうになり、それを気取られないよう、ドウカイに疑問を投げかけて何とか取り繕った。
「………川に出れば、それを伝って森へ移動できる、と考えて良いのでしょうか?」
「ええ。ですが正直なところ、この道が後どれほど続いているのかは判然としませんし、オウマ殿を疑う訳ではありませんが、本当に出られるかどうかも怪しいところではあります」
「ドウカイ様、怖いこと言わないでくださいまし」
ギノーが心底嫌そうな顔をしてドウカイを詰った。ギノーの気持ちは解らないでもない。
この暗い中、出口がない洞窟を彷徨い続けるなど、考えただけで気が滅入る。
「ああ、いや、済まない。だが、利点もある。現状、この道は地上を往くよりははるかに安全だ」
メナはそれに相槌を打った。
相手も馬鹿ではないのだ。今は街道など移動しようものなら一瞬で見つかってしまうだろう。
そういう点で言えば、この地下道が安全な道であることに間違いはない。現に、休んで計画を立てる余裕さえある。
「川に出た後にはどうするのです?川沿いに徒歩ですか?」
ミナオシシタ。
ヌケテルブブンアッタ。
ショック。
オデ、チェックシートツクル。