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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
薄明の姫_Prologue
15/93

7_廻恨_2/2

「『フレマト』ォ!」

 セジンカグが怒鳴り、その隙にドウカイが一瞬、前線から退く。

 彼の怒声の後には何も続かなかったが、先までの火炎瓶が効いているのか追手は警戒し、一瞬だけ後退の気を見せる。

 それに追撃を仕掛けるような形で、セジンカグが武器を振り下ろす。

「ぐぅ!」

 うめき声と共に、追手の一人がセジンカグの一撃を受け止めるが、大きくよろめいた。

 しかし、セジンカグはそこに追撃をかけず、一気にその場を飛び退いた。

「ドウカイ!」

「『ミュタス・コングオ・アケレテス』!」

 セジンカグの掛け声と共に、ドウカイの魔法が放たれる。

 中空に静止した無数の鋭利な氷の矢尻が、急激な加速を得て目にも止まらぬ速さで放たれる。

 それは「氷槍」と呼ばれる、ドウカイの十八番の魔法だ。

 氷槍は肉薄していた追手の四人ほどを負傷させたが、残りの二人は先にドウカイとセジンカグがやったように外套で壁を作り、それを凌いでいる。

(まずいな………)

 メナは、直感する。ドウカイの魔法を凌げる程の実力と経験がある兵士が少なくとも二人、相手にいるということが判ったからだ。

 加えて、肩で息をするセジンカグの姿が目に入り、彼が戦っていられる時間が残り少ないということが嫌でも分かった。

 これは敵から見ても大きな弱点として映るだろう。

 さらに悪いことに、彼らの背後から増援がやってきているのが見える。

(どうすればいいの………)

 メナが何か手はないかと思考を巡らせている、その時だった。

 追手の一人が火の海の中を突っ切って突破してきたのだ。

 彼の外套は少し焼け、煤けていたが、お構いなしにこちらへと突き進んでくる。

(嘘⁉︎)

「姫様!」

 ドウカイがこちらに向き直ろうとするが、その動きを察知したのか逆に追手に包囲され、逃れられずにいる。

「ギノー、下がっていて!」

「っ、はい!」

 それを見るや、メナは腹を括り、飛び出す。

 メナは戦士ではないが、相手の動きが極端に悪いことが素人目にも判断できたのだ。

 あの火の中を通り抜けるのに、身体に相当な負荷をかけたのだろう。

(もしかして、『零下ニヒルデオ』を自分にかけていた?そこまでする?)

 メナは走ってくる追手に向けて細剣を突き出す。

 それは避けられるが、状態を崩した追手からは碌な反撃もなく、メナは再度突きを放つ。

 それが敵の肩口を捉え、彼は武器を取り落とした。

「うぐっ」

(よし、これなら!)

 追い討ちをかけるために武器を引き抜こうと腕を引く。

 しかしそこで予想外のことが起こる。

 彼は細剣を、手が切れるのもお構いなしに握り、掴んだのだ。

(な⁉︎)

 メナはその時の追手の表情が脳裏に焦げついた。

 どこか妄執とも言えるような、狂気を孕んだ、憎しみに満ちた歪んだ笑み。

 王族をやっていれば恨まれることの一つや二つ、あるだろうが、これは………。

「ぁがっ………!」

 腹を思い切り蹴り飛ばされ、メナはその場にかがみ込んだ。

 涙が滲み、吐き気がして、咳き込む。息ができない。

「姫様!」

 絶叫と重いものがぶつかるような音が聞こえた。

 メナが痛みを堪えつつも目を上げると、ギノーが体当たりをして男を突き飛ばしたのだと知る。

「このアマ!」

 男は怒りに顔を歪め、ギノーのことも蹴り飛ばす。

「うごッ」

 ギノーは横倒しになり、苦しそうに喘いでいる。

 男はそれによろよろと歩みよっていく。

「………死ね、裏切り者が!」

「やめっ………」

 メナが痛みを堪えて手を伸ばせども、静止を叫ぼうとも、男は手を止めなかった。

 向こうで、ドウカイが何かを叫んでいる。セジンカグが無理やりこちらに駆け寄ろうとしている。しかし、彼らは間に合わない。

 無情にも、男がメナの細剣をギノーに突き立てる。

 ギノーは声にもならない叫びを上げたのを見て、メナは涙で前が見えなくなった。

(どうしてこんな………)

 痛みを忘れて咽び泣くメナに対して、男は心底楽しそうに高笑いをして見せた。

「いい気味だな。散々うまい思いをしたんだ、もう十分だろう?

 さぁて、次はあんただ、高貴なお姫様?」

 メナはせめてもの抵抗のために、男を睨め付けた。

 涙で顔中をベタベタに濡らしながら、男の顔を、その憎しみを受け止める。さらなる憎しみを込めて。

「呪われてしまえ………!」

「言い残すことはそれだけか?なぁに、すぐにお仲間と一緒のところに行けるだろうさ」

 男は激しく興奮していて、とても正気とは思えなかった。もしかしたら、覚醒剤の類でも使用しているのかもしれない。

 だが、少なくともそこから感じる憎しみだけは本物だった。

 直接自分に向けられると、こうも怖気を震うものなのかと、メナは寒々しく思う。

 死を目前に感じたメナには、見ずとも男が武器を振り上げたのが分かった。

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