6_破釜沈船_1/2
あの時、「鴉羽の使者」を名乗る彼女が実際的にメナ達に行ったことと言えば、あいまいな助言と、煙筒を一本だけメナ達に与えたことだった。
いつの間にかメナの足元に置かれていたその煙筒は、通常の煙筒と同じような見た目をしており、ドウカイがセジンカグに渡したものと目立った違いはない。違いがあるとすれば、その外装が鮮やかな赤色をしていることだろうか。
煙筒はあくまでも報せるための道具、それ以上でもそれ以下でもない。
だから、少なくとも助けを待つ間の時間が必要だ。
メナは手に持つ煙筒が一気に重くなったように感じた。
実際、煙を発生させるために様々な材料が詰められた煙筒は、見た目に反して重い。
メナはその重みに負けぬよう、煙筒を強く握る。
「『フレマト』」
魔法で熱を加えていくと、煙筒からはたちどころに煙が沸き起こった。
(後は………)
メナはそれを思い切り遠くに投げ捨てた。そしてそれきり煙筒は顧みず、辺りを見渡す。
煙を上げた以上、居場所を明かすようなものだ。
もはや大した時間稼ぎにもなるまいが、やらないよりはマシだ。
「セジンカグ、まだ、動けますね」
メナは荒い息のセジンカグに訊ねる。それは確認ではない。
「………当然ですぜ」
「姫様………」
虚勢であろうが、汗だくの顔に笑みを浮かべるセジンカグと、祈るようなギノー。
メナは彼らから目を背けるように、ドウカイに視線を向けた。
その間で既に、草根をかき分けるがかすかに遠くから聞こえていた。
「ドウカイ。申し訳ありませんが、私はこの場の誰をも見捨てるつもりはありません」
ドウカイはメナの言葉に目を瞑り、黙って頷いた。
その目に微かに光るったように見えたのは、涙であろうか。
「………とはいえ、綺麗事を言っていられる状況ではありません。死力を期待します」
「かしこまりました」
ドウカイが腰から武器を引き抜いて構えた。
それを見て、セジンカグも立ち上がる。
「ぬぁぁッ!」
立ち上がる際に彼の口から漏れた呻きは、彼自身を奮い立たせるものか、それとも苦悶か。
彼の脚はしばらくの間、ふらふらと頼りなさげにたたらを踏むが、すぐに無事な左腕で武器を引き抜いた。
「これは賭けです。彼女が私たちの味方か、それとも敵か」
メナは話しつつ、靴を脱ぎ捨て、細剣を鞘から引き抜いた。足元の泥濘の冷たい感触と、枯れ茎の硬さが足の裏に感じられる。
縋るものがない現状では、そんな硬さにさえ頼り甲斐を感じてしまう。
「いずれにせよ。賭けの場に立つには、まずはこの場で押し潰されないことが最低条件です。
………ギノー。あなたに戦えとは言いません。できることなら、あなただけでも………」
メナは呆然と怯えるギノーに語りかける。




