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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
薄明の姫_Prologue
12/93

6_破釜沈船_1/2

 あの時、「鴉羽の使者」を名乗る彼女が実際的にメナ達に行ったことと言えば、あいまいな助言と、煙筒を一本だけメナ達に与えたことだった。

 いつの間にかメナの足元に置かれていたその煙筒は、通常の煙筒と同じような見た目をしており、ドウカイがセジンカグに渡したものと目立った違いはない。違いがあるとすれば、その外装が鮮やかな赤色をしていることだろうか。

 煙筒はあくまでも報せるための道具、それ以上でもそれ以下でもない。

 だから、少なくとも助けを待つ間の時間が必要だ。

 メナは手に持つ煙筒が一気に重くなったように感じた。

 実際、煙を発生させるために様々な材料が詰められた煙筒は、見た目に反して重い。

 メナはその重みに負けぬよう、煙筒を強く握る。

「『フレマト』」 

 魔法で熱を加えていくと、煙筒からはたちどころに煙が沸き起こった。

(後は………)

 メナはそれを思い切り遠くに投げ捨てた。そしてそれきり煙筒は顧みず、辺りを見渡す。

 煙を上げた以上、居場所を明かすようなものだ。

 もはや大した時間稼ぎにもなるまいが、やらないよりはマシだ。

「セジンカグ、まだ、動けますね」

 メナは荒い息のセジンカグに訊ねる。それは確認ではない。

「………当然ですぜ」

「姫様………」

 虚勢であろうが、汗だくの顔に笑みを浮かべるセジンカグと、祈るようなギノー。

 メナは彼らから目を背けるように、ドウカイに視線を向けた。

 その間で既に、草根をかき分けるがかすかに遠くから聞こえていた。

「ドウカイ。申し訳ありませんが、私はこの場の誰をも見捨てるつもりはありません」

 ドウカイはメナの言葉に目を瞑り、黙って頷いた。

 その目に微かに光るったように見えたのは、涙であろうか。

「………とはいえ、綺麗事を言っていられる状況ではありません。死力を期待します」

「かしこまりました」

 ドウカイが腰から武器を引き抜いて構えた。

 それを見て、セジンカグも立ち上がる。

「ぬぁぁッ!」

 立ち上がる際に彼の口から漏れた呻きは、彼自身を奮い立たせるものか、それとも苦悶か。

 彼の脚はしばらくの間、ふらふらと頼りなさげにたたらを踏むが、すぐに無事な左腕で武器を引き抜いた。

「これは賭けです。彼女が私たちの味方か、それとも敵か」

 メナは話しつつ、靴を脱ぎ捨て、細剣を鞘から引き抜いた。足元の泥濘の冷たい感触と、枯れ茎の硬さが足の裏に感じられる。

 縋るものがない現状では、そんな硬さにさえ頼り甲斐を感じてしまう。

「いずれにせよ。賭けの場に立つには、まずはこの場で押し潰されないことが最低条件です。

 ………ギノー。あなたに戦えとは言いません。できることなら、あなただけでも………」

 メナは呆然と怯えるギノーに語りかける。

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