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鴉瞳の魔法使い  作者: てらじま
薄明の姫_Prologue
1/93

1_秘された道_1/3

 彼女達四人は急かされるように暗い道を進んでいた。

 この世の全ての闇を集めて固めたようなその場所は、城を抜け得る隠し道であった。

 頼りないカンテラの明かりは荒削りの洞壁を照らし、四人の歩みに合わせてぬらぬらと揺れる。

 重い金属同士がぶつかる甲高い音。歩き続けて少しだけ荒い、四人分の呼気。

 狭い洞窟の中では、その生ぬるく湿った空気がその場に満ちているような気がしてくる。

 うんざりとするような空間に、時折吹き込むささやかな風。それが運んでくる、ひんやりと乾いたような空気。

 有難い。

 この風は、この暗い道の先が外へと続いていることを想起させてくれた。

「姫様。お疲れではないですか?」

 彼女………アントマキウス国の姫、メナを気遣う、同い年の従者の柔らかい声に彼女の気持ちは少し和らいだ。

「大丈夫よ、ギノー。私とて、多少の修練は積んできたつもりですから」

 それに、今は疲れたなどと弱音を吐いている余裕などあるはずもない。追われる身だ。

 爺のおかげで上手く抜け穴に入ることができたが、彼がいなければどうなっていたか分からない。

 メナは奥歯を噛み締め、前を向く。

 前を行くのはドウカイ。彼の持つカンテラの明かりのみが今の彼女達の命綱だ。

 幾度目かの分岐路に立ったメナと三人の従者は休憩も兼ねてその道で一度、立ち止まった。

 メナは棒のような脚を少しでも休めるために、近くの壁を背にして座り込んだ。

 それに追従するようにしてギノーが隣にかがみ込む。メナの様子を察して、脚をほぐしてくれている。

「ありがとう、ギノー」

 もうどれほど歩いたのであろうか、光の差さぬ地下では時の流れを推しはかることさえ難しい。それにしても、今の自分の格好はなんたるものか、動きにくいことこの上ない。

「姫様。オウマ殿の地図によれば、この道を行き、もう一つの岐路を越えた先が外に出られる道のようです」

「良かった。なんとか、出られそうですね。爺の地図には本当に助けられました」

「そうですなぁ。………オウマ殿にも付いて来ていただきたかった」

 殿しんがりを歩いていたセジンカグが、嘆くように呟く。

 皆がそれに共感し、重い沈黙が続いた。

 この道の地図を渡してくれた爺——オウマは、彼女の説得も虚しく、四人を抜け道に押し込むと、その道を押し隠すために城に残った。

 彼のおかげで、この道が見つかるまでには時間がある。

 加えて、この迷路のような構造。地図がなければ追ってくることは難しいだろう。

 唯一の不安は「この道が何なのか」それが彼女達にも分からないということだ。

 秘密の抜け道には違いない。だが、姫である彼女はオウマに教えてもらうまで、その存在を知らなかった。

 あるいは彼女の父、エヌマ王は知っていたのかも知れないが、今となってはその事実は確認できまい。

 何より、ここはただの抜け道にしては、得体の知れない何かを感じる。

 メナは暗い虚を振り返る。

 覗いたその奥に、彼女は何かを感じたような気がした。

 耳を澄ますが、別段おかしな音は聞こえてこない。

 彼女は微かに消え入るような、安堵の吐息を漏らした。前に引き戻した視線は、自然とドウカイの持った灯りに向かった。

 カンテラの中で揺れる小さな炎は、後どれくらい保つのだろうか。

(………悪いことばかり考えてる)

「こうも暗いと、気が滅入ってしまいますね」

 まとわりつくような不安から気を紛らわすために、メナは口を開いた。

「我々がついています」

 ドウカイが短く、力強く応えてくれた。

 そこには何の根拠も無かろうが、その力強さはわずかでも心のざわつきを鎮めてくれた。

 ドウカイはメナの親衛隊の中でも最古参の騎士だ。

 戦いの場にも何度か出ているので、そういうことも感覚として分かるのだろう。

「ありがとう、ドウカイ。それにセジンカグにギノーも」

 彼女の謝辞に、頷きを以って答える三人。

 なんとも言えない安心感と、結束感がそこにはあるような気がした。

「さて、余談は置いておきましょう」 

 どことなく弛緩した空気に楔を打ち込むように、ドウカイが言った。

 鋭く、真面目な声音だ。

「我々は一時的に危機を凌げたに過ぎません。いくらオウマ殿が隠蔽いんぺいを図ってくれているとは言え、この道が見つからないとも限りません。

 人海戦術を取られれば、追いつかれる可能性も………なくはない。相当な力押しですが」

「つまり、どういうことですか?」

 ドウカイの説明と懸念に対して、ギノーが疑問を口にする。

 ギノーは従者としての働きは優秀だが、こういったことには疎い。

 もっとも、護衛の二人がいる以上、彼女にその役目が回ってくることはない。

 彼女の役割は別にあり、そして彼女は十分に働いてくれている。本来であれば、ここまでしてくれる義理もないはずなのだ。

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