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約束と契約4  作者: オボロ
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#9 幽霊の正体






幽霊とは、成仏せずに、この世にとどまる、死んだモノの姿をさす。

では、どうして成仏せずにこの世に留まっているのだろうか?


未練?

悔恨?

憎悪

執念

懺悔

怨念


留まる理由は、いろいろあるらしかった。


マリア達は、川辺に棲みついた女の霊を、{三四子川みよしがわで亡くなった女性と仮定した。

子供だけを狙って襲っている———ということは、子供に恨みを持つような死に方だったに違いない。

では、子供に恨みを持つような死に方とは、どんな死に方なのだろう?

子供に殺された?

しかし、余程、残酷な殺され方をしなければ、悪霊となって子供を殺し続けたりはしないだろう。

そして、そこまで残酷な殺し方を、子供がするとは考えられなかった。


その女の霊を見ていないマリアには、その女が悪霊となって、長い間、子供を襲い続ける理由に、予想をつけることは出来なかった。




マリアは、警察庁の榊原と連絡をとり、三ノ上村さんのかみむらに流れる三四子川で、今までに亡くなった女性について、調べてもらうことにした。

ドドが聞いたカエルの話によれば、大昔から居る———とのことだったので、調べられるだけ昔にさかのぼってもらうよう、頼んだ。


「年齢は分からないので、年齢は問わずで、お願いします。」


榊原は、「すぐに調べて送ります。」と、即答で、快諾してくれた。


これで、一旦休止だ。


マリアは、榊原からの調査報告が来るまでは、三四子川での事故に関してするべきことがないので、その間、別のするべきことに取り掛かることにした。

本当なら、おみくじやお守りの整理をするはずだったが、それは、ヴィゼとノラに任せた。

七曜神楽と弓の練習は、サボる訳にはいかないからだ。

しっかりと時間を掛け、入念に確認しながら、何回も繰り返して練習した。


「マリアー、夕食の用意が出来たよー。もう終わりにして戻っておいでよー。」


クロが呼びに来た時には、もうすっかり、日が暮れていた。



夕食の後は、数学のテキストだ。

一日5ページのノルマをこなさなければ、別の日に上乗せしなくてはならなかった。

なんとしても金曜日までに、15ページ終わらせるのだ。


「よし。張り切って、やりますか。」


三四子川に棲みついている女の正体も気になるが、それはそれ、これはこれ。

マリアにとっては、勉強会での津谷美羽の目の吊り上がり具合も、充分に気になることだった。




榊原から調査結果が届いたのは、二日後の夕方だった。

マリアが七曜神楽の練習をする為、本殿の裏に向かう準備をしていた時、スーツ姿の女性が社務所を訪ねて来た。

マリアが不在の時、依頼書を持って来た沼田という女性警察官だった。


「それでは、失礼します。」

「ありがとうございました。」



榊原が二日がかりで調べた結果は、マリア達が期待していたものとは違っていた。


三ノ上村に流れる三四子川での死亡者について調べた結果、昭和6年に起きた3歳男児の溺死事故が一番古く、これ以降、年に4~5件、子供の溺死事故が発生している。

分かっているだけで、合計451人。

内、女児は138人。

男児の方が遥かに多く313人。

溺死以外の死亡事故は、自殺も含めて発生していなかった。


なお、三ノ上村は、明治22年に合併して出来た村で、事故があった三四子川付近の村の名は、明治22年までに二度変わっていて、”三ノ上村”の前は、”上田うえだ村”、その前は、”日田ひた村”だったそうだ。


村の名前の推移などは、資料として残されていても、その村で起きた溺死事故や自殺など、個人レベルの小さな事件の資料は、どこにも残されていなかったらしい。

当時のことを知る生存者も、今はもう居ないので、言い伝えのようなもので語り継がれている話だけでも、現地警察に調べてもらったとのことで、聞いた話も書かれていた。



・「子供が出来ない嫁には、子を食べると授かる。」と言って、アユの稚魚である稚鮎を食べる風習が残っている。

いくらやたらこで代用する家もある。


・三四子川には河童が居て、川に入った子供を溺れさせる。

・三四子川には、子供が出来ない河童が居て、子供が欲しくて、川に入った子供を攫ってしまう。


長い間、子供が溺死する事故が起こっているので、そういう話も伝えられていたのだろう。

驚いたのは、そう聞かされて育った人が、自分の子や孫にも同じ話をしていて、地元の子供は、三四子川には近付かないのだという。

実際に、事故が起きない年は無いので、子供達は近づかないのだろうと、榊原の報告書には書かれてあった。


言われてみれば、今月に入ってから溺れてしまった子供達は、皆、地元の子ではなかった。

そして、見て来た三四子川付近に人家が無かった理由も、そこにあるような気がした。



「これじゃあ、本当に危険な女が居るって、わかっただけじゃないか……。」


B・Bが不満げに言った。


「怖いことしかわからないのって、不安だわ……。」


マリアは、がっくりと項垂れた。

全く何もわからない相手であっても、ただ祓って終わりでいいなら簡単だ。

川辺で七曜神楽を舞うだけでいい。

それだけで、妖は一掃され、周囲は浄化される。

しかし、それだけを期待している訳ではないから、警察は七曜に依頼している。

何がって、どうして起こった事件なのかを解明し、そして、無事に祓ったので、今後は安心できると、報告して欲しいのだ。


その為には、どうすればいいのか………、


考えるだけでも、時間が掛かりそうだった。



子供が溺れて死んでいる。

今回の相手は、人を殺すことが出来る。

それも、確実に。

もう、何百人も殺しているのだ。



「直接会って、話をしてみるしかないか……。」


凪は、最終手段を口にした。


「それしかないようだね……。」


琴音は、仕方がないと言うように、肩を落として呟いた。



はぁ?



「………。」


マリアは、零れ落ちんばかりに見開いた目を、凪と琴音の二人に向けた。






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