#8 情報収集
「この川で、子供がよく溺れるって聞いたんだけど、何か理由があるのかな?」
ドドはカエルの姿で、川辺に暮らしているカエルたちを見つけて、声を掛けた。
「あそこの川で、子供が溺れるらしいんだけど、何か知ってる?」
カラスのクロは、川辺に近い木に止まっている鳥たちに近付いて、話を聞いていた。
ドドとクロは、川の近くで暮らしている動物達から事故が起きた時の情報を集める為、今回、マリアについて来た。
B・Bは、もしもの時のマリアの護衛だ。
凪だけで対抗できる相手かどうか、まだわからないので、琴音が心配して、一緒に行くことを決めたのだった。
マリアと凪とB・Bは、事故の発生現場となった5か所から花束を流した。
そして、遺体が発見された下流まで、川に沿って歩いた。
「静かなところだね……。」
歩きながら、マリアは呟いた。
マリアから見た川の印象は、”穏やか”だ。
川の水はきれいだし、流れも急ではないように見える。
さほど深そうにも見えないので、子供だけで水遊びをさせてしまう親の気持ちもわからないではなかった。
しかし、流れに足を取られてしまえば、立つことは出来なかったのかもしれない。
溺れてしまった子供の親は、自分の所為だと、自分を責めただろうか……?
「川自体に嫌な気配は感じないけど……、川に棲む妖って居るの?」
ただ足を取られてしまっただけなら、発見場所が同じ場所であるのは可笑しい。
警察も、そこに引っかかったから、マリアに依頼をした。
人形を流して試してみたが、どれももっと下流に流されていて、行き着いた場所もバラバラだった———と、依頼書の中に書かれてあった。
「日本には、河童と言う妖がいると、何かの本で読んだぞ。」
B・Bが言った。
「カッパ?悪い妖怪なの?」
マリアは聞いた。
マリアは、河童という妖を知らなかった。
B・Bも、そこまでは知らなかったらしい。
B・Bが「さぁ。」と、首を傾げると、代わりに凪が答えた。
「悪い河童も居れば、そうでもない河童もいる。河童によるだろうな。」
「子供を溺れさせるような河童も居るの?」
「中には居るだろうな。子供に限っている訳でもないが。」
「ふーん。」
ならば、可能性はあるのか———と、マリアは思った。
溺れた子供達が発見された場所に辿り着いた。
やはり、マリア達が流した花束は、そこに一つも無かった、
発見された子供達は、全く同じ場所だったのではなかったらしい。
手向けられた花やお菓子が、川岸に点在している。
しかし、かなり近い場所であるのは、確かだった。
そして、そこら一帯には、嫌な気配と生臭さが残っていた。
マリアの腕に、ぞわりと鳥肌が立った。
「これって、河童?」
だとしたら、そうとうに悪い河童だ。
「聞いて来たよ。」
バサバサと、クロが空から降りて来て、B・Bの腕に止まった。
「何かいい情報あったかい?」
B・Bが聞いた。
「ここには女が居るって、鳥たちは言ってた。全身ずぶぬれの女で、いつもブツブツ何か言っているんだって。いつでもいるわけじゃないみたい。その女のこと、見たことのあるやつと、ないやつが居た。」
「向こうのカエルたちも、女が居るって、言っていたよ。」
子供の姿のドドが戻って来た。
カエルの姿では、ここまで来るのに時間が掛かるからだろう。
「大昔から棲みついている怖い女なんだって。だから、ここには近づかないって言ってた。」
「どんな姿だって言ってた?何の妖?」
マリアは不思議に思って聞いた。
クロとドドの話では、妖が女であることはわかっても、何の妖なのかわからない。
「たぶん、人間じゃないかな?」
B・Bが言った。
「ずぶぬれの姿でここに棲みついているってことは、生きてはいない人間の女…か。」
凪も言った。
「それって…」
マリアにもようやく予想がついた。
「幽霊?」