#7 ひっそりとした山奥の川辺
警察から依頼される黒石神社の担当範囲の中には、避暑地と呼ばれれている場所がある。
そこには、可愛らしいお菓子屋さんや喫茶店があったり、近くには動物園や遊園地、温泉やスキー場もあるので、別荘を持っていない人もたくさん訪れていて、一年中、賑わっているような場所だった。
今回の事故が多発している三四子川の河川敷は、その場所からは、少し外れたところにあった。
人の手があまり入っていないような山の奥の、何もないひっそりとした場所だ。
家も店も何もない。
自動販売機も見当たらないし、街灯らしきものも見当たらない。
夜になったら真っ暗になるのではないだろうか?
「………。」
マリアは 最初の事故現場となった河川敷に立ち、周囲を見渡しながら、思った。
マリア達は、茶の間で話をした後、すぐに空を翔けて現場に向かった。
マリアは、白い大きな狐の姿になった凪の背に乗り、ドドはカエルの姿になり、イヌワシの姿になったB・Bの背に乗った。
クロはカラスなので、自分で飛んだ。
「誰も居ないし、何もないじゃん。」
クロが言った。
今日は、平日なので、誰も来ていなかっただけなのかもしれない。
だが、お陰でマリア達は、人目を避け、森の奥に着地しなくて済んだ。
「誰も居なくて良かったね。」
マリアは、自分の腕に止まった、カラスのままのクロの頭に、ポンポンっと、軽く二回、手を置いた。
そこは、本当に何もなかった。
車どころか、人っ子一人、全く通らない。
本当に家族連れが来るのだろうか?
広い河川敷は、車を止めることも出来るし、バーベキューも出来る。
川の水は、濁っていない綺麗な水で、流れも穏やかだった。
危険要素は感じられない。
家族で来るにはもってこいの場所だろう。
今現在、誰も居ないことが不思議なくらいだ。
穴場であることに、間違いはなさそうだった。
「知る人ぞ知る———って感じなのかなぁ。」
マリアは不思議に思いながら呟いた。
ここは、公営のキャンプ場ではないし、私営のキャンプ場でもない。
看板が立って居る訳ではないし、どこかで宣伝しているとも思えなかった。
では、ここに来たことのある人たちは、どうやって、ここを知ったのだろうか?
「亡くなった子の家族って、どうしてここに来ようと思ったのかなぁ。」
警察から受け取った書類の中には、現場となった三四子川の河川敷に関して、書かれていたものもあった。
事件現場となった三四子川の河川敷は、三の上村の所有地であるが、関係者以外の立入りを禁止している場所ではない為、常識の範囲内であれば、自由に使用することが許されている。
つまり、キャンプや川釣りは、自由に出来るというわけだ。
「ここに来た家族の子供が、必ずしも溺死しているわけではないなら、口伝てで知った者が居ても、おかしくは無いだろうな。」
B・Bが言った。
「でも、亡くなった子が居ることは、ニュースとかで知ったりするでしょう?」
子供が川で溺れたなら、注意喚起の意味も含めて、何かしらの方法で報じられているはずだと、マリアは思った。
どんなに良い場所だったと聞かされても、子供が溺れた場所に、家族で来ようと思うだろうか?
B・Bは、続けて答えた。
「事故扱いなら、そんなに掘り下げて報道はしないだろう。自分達は大丈夫だと思ったのかもしれない。実際、無事だった子供は居るわけだからな。」
「………。」
マリアは、何とも複雑な気持ちになった。
自分達は大丈夫だと思って来たのに、実際は大丈夫ではなかったなら、どんなに後悔しただろうか?
来なければよかったと、自分を責めていないだろうか?
誰かを責めていないだろうか?
場所を教えた友人は?
教えなければよかったと、思って後悔しているだろうか?
それぞれの家族が思いを巡らし、バラバラになっていないだろうか?
亡くなってしまった子の家族もその友人も、ただ“悲しい”という気持ちだけではないだろうことを思って、マリアの胸は締め付けられた。