#64 瀬川朱寧
同じ様な家ばかりが並んでいる場所というのは、イギリスにも多くあった。
実際、マリアは、そういうところに住んでいた。
そして、日本にも、イギリスとは多少異なるけれど、建ち並ぶ家が皆、同じような家である場所があり、そこに瀬川朱寧は住んでいた。
庭先にも玄関先にも、アレンジされた花が飾られている。
それは、瀬川朱寧の家だけではない。
見栄なのか、趣味なのか、わからないが、この辺りに住む人間たちは、花の手入れに生きがいを感じているらしい。
瀬川朱寧の家の隣の家の屋根の上で身を潜めながら、ヴィゼは、瀬川朱寧の家の様子を眺めていた。
朝6時に、父親は車で出勤。
この辺りでは、この時間に出勤する父親は多いらしい。
あちらこちらの家から父親らしき人間が出て来て、徒歩や車でどこかに向かって行った。
そして、7時を過ぎた頃から、家を出発する子供達が多くなっていった。
小学生は、団体で登校するのが決まりらしい。
学年に関係なく、大きい子も小さい子も一緒の塊になって、歩いていた。
小学生よりも大きい、制服を着ている子供達は、徒歩と自転車の両方が居る。
瀬川朱寧は、徒歩だった。
家からしばらく歩くとバス停があり、そこからバスに乗って、一度、駅で乗り換える。
家の様子を見ていた限り、瀬川朱寧に兄弟姉妹は存在していなかった。
ペットも飼っている様子はない。
”中流家庭の一人娘”と、いったところだろうか。
ヴィゼとクロは、体育祭後の三日間、瀬川朱寧に張り付いた。
家での様子、学校での様子、登下校の様子など、情報を収集しまくった。
見落としが無い為と、人目を引かない為に、ヴィゼとクロは、別々に行動した。
瀬川朱寧は、朝、基本的には一人で登校している。
駅でバスを乗り換えた際、友人と会えば、一緒に登校するが、待ち合わせている様子はない。
同級生との仲は良好の様子。
仲間外れになっている訳でもないし、一人にべったりとくっ付いている訳でもない。
複数の友人と、適度な距離を保って、交流しているように見えた———というのが、クロの報告だ。
部活には入っていない。
塾にも通っていない。
友人とどこかに遊びに行ってから帰る———ということは、この三日間に限っては全くなかったが、中曽町の本屋には、三日間、毎日通っていた。
三日とも、何も買わず、きょろきょろと誰かを探している様子で、結局、会えずに帰っていた。
店員も、毎日来ている瀬川朱寧に気付いているみたいだった。
店内に入って来た瀬川朱寧を見るなり、店員同士でコソコソと話したり、慌てた様子で店の奥に入って行く店員もいた。
「本屋の店員は、瀬川朱寧が誰を探しているのか、知っているのかもしれない……。」
ヴィゼの見解だ。
マリアは、学校での橘和樹の様子を注意深く観察した。
観察するにしても、別々のクラスなので、休み時間や放課後などの少ない時間だけだった。
マリアの目には、ずっと橘和樹だった。
いつでもどこでも女の子の目を意識して、常に浮世離れをした映画スターのような振舞いをしていた。
瀬川朱寧以外に、瀬川朱寧に対して見せた態度も顔も、言葉遣いも、垣間見ることは無かった。
「あの時だけなのよねぇ。」
弓の練習の準備をしながら、マリアは呟いた。
「………。」
傍らで、掃き掃除の片づけをしていたB・Bは、ちらりとマリアを見た。
B・Bが見たことのある橘和樹は、昨年の文化祭で見かけたのが最後だ。
ホストを模した幼い少年だった。
琴音は、女にモテることを生きがいにしている優男だと言っていたが、あの若さでアメとムチを使い分けているのだとしたら、大したものだ。
だが、今のままでは、情報が足りない。
「橘和樹の情報は、集めなくていいのか?」
「うー…ん。そうなんだけど……」
マリアは、弓の弦の張り具合を調べながら、口ごもった返事をした。
橘和樹の情報は欲しい。
けれど、今、動けるのは、ノラとドド。
ペルシャ猫とカエルだ。
どちらも、諜報に向いているとは思えない。
そして、B・Bはイヌワシ。
下手したら、通報されて、大騒ぎになるだろう。
「ヴィゼとクロに、今度は橘くんを調べてもらうわ。」




