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約束と契約4  作者: オボロ
63/64

#63 大切な人

瀬川朱寧せがわあかね


中庭で橘和樹と揉めていた女子生徒は、ブルーの三年生だった。

つまり、マリアよりも一学年上の3年5組。

橘和樹よりも一つ年上になる。


マリアは、中庭で橘和樹と揉めていた女子学生が誰であるのかが分かった後、今度はどうして揉めていたのかが気になった。

しかし、プライベートなことに首を突っ込むのは失礼だし、はしたない。

どう言って聞けばいいのかもわからない。

それに、そう易々やすやすと話してもらえるとも思えなかった。


体育祭の後、クロとヴィゼから、中庭で揉めていた女子生徒の情報を貰ったマリアは、一度、みんなで集まって話し合うことにした。


マリアが、中庭で見聞きしたことを気にするのは、ただ単に橘和樹の意外な面を知ってしまったからなのか………。

それとも、マリア自身、気付いていないだけで、気になる何かがあったのか………。

琴音と凪、B・Bやノラ、バト、ドドにも話を聞いてもらい、気になるのはおかしいのか、そうではないのか、意見を聞いてみたかった。



マリアは自宅に戻ると、巫女装束に着替え、いつものように他の参拝客の邪魔にならないよう、裏手にある祠に手を合わせ、本殿の御弥之様に報告をした。


ヴィゼは、マリアとほぼ一緒に戻って来たが、クロには、瀬川朱寧が家に着くまでの間、密かに後を付けてもらっている。


本当に橘和樹に付き纏っているのか。

どんな風に付き纏っているのか。


実際の様子を、クロに見て来てもらうことにしたのだった。





クロは夕食前に戻って来た。


「あの女、学校から本屋に寄っただけで、まっすぐ家に帰ったよ。あの男はどこにもいなかった。」


クロの話では、瀬川朱寧は本屋以外には寄り道せず、帰宅したと言う。

本屋の中で、誰かと会っていた様子もなかったらしい。


「じゃあ、ただ本を買っていただけ?」

「ううん。何も買ってなかった。」

「何も?」

「うん。」

「欲しかった本が無かったのかなぁ?」


マリアは聞いた。

クロはうーんと唸り、頭の中でその時の様子を思い出しながら答えた。


「本を探していたっていうより、誰かを探していたみたい…だったような気がする。」

「気がする?」

「うん。本棚を見ているっていう感じじゃなかった。周りの人っているか、周りに居る人の、その向こうに居て見えない人を探しているような、そんな感じだった。」

「……?」

「誰かと待ち合わせでもしていたのかな?」

「待ち合わせだったたら、店内探し回って、結局、会えない、なんてことにはならないよ。」


不思議に思ったマリアの疑問に、間髪入れずに答えたのはヴィゼだった。


「それに、男にしつこく付き纏っている状態で、誰かと待ち合わせして、何するのさ。」


そうだ。

あんなにも怒られるほど、しつこく付き纏ってしまうくらいなのだ。

他の事を考える余裕などないのではないだろうか?

別の人と会うことなど考えられるだろうか?

友達と遊びたいと思うだろうか?


「じゃあ、橘くんが、その本屋に来ると思ってた?……とか。」

「本屋に行くタイプには見えないよね。服を買いに行くとかならわかるけど…」

「んー…確かに。でも、雑誌ぐらいなら買いに行くこともあるんじゃない?」


クロをそっちのけにして、マリアとヴィゼが話していると、ノラがやって来た。

クロが一緒に帰って来ていない時点で、大まかな経緯いきさつは、みんなに話してあった。


「とりあえず、茶の間にみんな揃ってるよ。話をまとめよう。」


ノラに促されて、マリアとクロとヴィゼは、茶の間に向かった。









「つまり、女の子にモテることを生きがいにしているような優男が、言い寄って来ているらしき女の子に、もう付き纏ってくれるなと、怒鳴っているのを目撃した————と。それが気になって、クロに後を付けさせたけど、付き纏っている様子はなかった。これでいいかい?」


琴音の、橘和樹に対する認識は、あんまりのような気もするが、大まかな経緯に間違いはなかった。


「うん。怒鳴られた後だから、今日はまっすぐ帰ったっていう可能性もあるけど、本屋で誰かを探している様子だったっていうのが、なんか気になる……。」


「誰を探していたと思う?」


琴音が聞いた。

マリアは、もう一度、考えながら答えた。


「ん―…、橘くんかなって、最初、思ったんだけど、約束していたとは思えないし、約束していたわけじゃないなら、後を付けて行った方が確実だわ。だから、探していたのは、橘くんじゃないと思う。で、瀬川さんが、本屋にいるはずだと思っていた人。」


「それって、誰?」


「ねえ、瀬川朱寧が付き纏っているのって、橘和樹じゃないの?」


話の展開について行けないクロが、ついに根を上げた。

琴音は優しく微笑み、柔らかい口調で言った。


「そうだね。でも、自分が付き纏われているのではなくても、その女の子を怒鳴ってしまうほどには、付き纏われているその人のことを、大切に思っているのだろうね。」




「橘くんが大切に思っている人……」


マリアは、橘和樹の大切な人を考えた。




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