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約束と契約4  作者: オボロ
62/64

#62 気質と性格と困惑


橘和樹は、マリアが知る限り、女の子に優しい。

時に、自分に好意を寄せているだろう女の子たちに対しては、皆に等しく優しい態度で接しており、その徹底した紳士ぶりは、尊敬に値するほどだった。


そんな橘和樹が、女の子に怒鳴っていた。

迷惑だと、もう付きまとってくれるなと、拒絶の言葉は吐き、突き放していた。


信じられない光景だった。


どういう経緯があり、どうしてそういう状況になったのかはわからないが、マリアは信じられない光景を目にして動揺した。



玉入れの後、お昼休憩に入り、マリアは、清水美羽と沢井萌々と一緒にお弁当を食べた。

沢井萌々は、休憩後すぐ、午後の競技一番に行われる応援合戦に出る為、お弁当を食べると三人で話す時間もそこそこに、応援団の準備に行ってしまった。


本当は、たくさんの情報を持って居る沢井萌々に、橘和樹のことを、いろいろ聞きたいと思っていたのだが、競技前で落ち着かない様子の沢井萌々に聞くタイミングを考えていたら、聞く時間が無くなってしまった。

清水美羽に聞くのは不自然だ。

清水美羽が、橘和樹のことに詳しいとは思えない。


そうこうしているうちにお昼休憩は終わり、応援合戦が始まった。

各カラーの応援団が、順番に他のカラーチームへエールを送る。

カラーごとに違うパフォーマンスに、どう点数がつくのか分からないが、どのチームの応援団も楽しそうで、生徒達を盛り上げていた。

橘和樹も、当然の如く応援合戦に出ていて、最初からそうすることになっていたのか、女子生徒たちへのアピールはもの凄く、そして、女子生徒たちのから歓声はすさまじかった。



「これだけ騒がれていて、面倒臭くならないのかしら……」


凄まじい女子生徒達からの声援にも笑顔でこたえている橘和樹の姿を遠目で眺めながら、マリアは誰に言うでもなく呟いていた。

笑顔で手を振る橘和樹は、無理をして笑っているようには見えなかった。

中庭で垣間見たあの顔が、見間違いであったかのようだ。



「彼は病気だからね……」


意外にも、マリアの呟きに清水美羽が答えた。


「彼、病気なの?」


マリアは思わず聞いていた。

橘和樹が病気だったとは初耳だ。

体育祭に出ても大丈夫なのだろうか?


「そうよ。女の子に騒がれていないと、多分、死んでしまうのかもしれないわね。」

「………。え?」


マリアは耳を疑った。

聞き間違いでなかったら、それは”病気”なのだろうか?

いや、ある意味、”病気”で正しいのかもしれないが……


「病気だと思えば、仕方がないと思えるでしょ?好きでやっているのだから、放って置けばいいのよ。」


清水美羽は辛辣しんらつに言い放った。

おそらく、清水美羽は橘和樹が嫌いだ。



お祭り騒ぎの応援合戦が終了し、他のカラーチームの応援団の子達と写真を撮り合い、大満足した様子の沢井萌々が応援席に戻って来たのは、応援合戦の後、三つの競技が終わってからだった。

清水美羽は、混合リレーに出場するための準備で、移動していた。

どのカラーも応援団の衣装が可愛かったと、沢井萌々は興奮していた。

清水美羽が居たら、『着替えて来なさい!』と、言われてしまいそうだが、出場の準備で不在であるのをいいことに、沢井萌々は応援団の衣装のまま、応援席に座った。







『次は、カラー対抗混合リレーです。本日最後の競技となりますので、みなさん、応援よろしくお願いします』




校庭には、選手に選ばれた生徒達が、それぞれ自分のチームカラーの鉢巻きをして、二か所にある待機場所で整列していた。

スタート地点には各学年の女子が、その半周先の地点には各学年の男子が、待機している。

1年生から走り出し、たった三周で結果が決まってしまう最終決戦だ。


「がんばれー!!」

「がんばってー!!」


各カラーの応援も力が入っていた。




清水美羽は、スタートラインに居る1年生が走ったら、すぐにコースで待機しなければならない。


「美羽ちゃーん!がんばってねー!!」


沢井美和が声を掛けた。

清水美羽の目が沢井萌々を見て、応援団の服装のままで居ることを咎めるような目つきになったが、沢井萌々は気付かないのか、気付かない振りをすることに決めたのか、声援を送り続けている。


「美羽ちゃーん!がんばれー!」


「………。」


マリアは、清水美羽に手を振りながらも、ふと気が付くと、男子が待機している場所に視線がずれてしまっていた。


気付けば、橘和樹を見ている。


橘和樹は、相変わらずのキラキラ笑顔で、女の子達の声援に応えている。

応援合戦の時よりも、声援を送っている女の子達の顔が良く見えた。


中庭に居た女子生徒は何年生だったのだろう?


「………。」


気になって、コース脇に集まり橘和樹に声援を送っている女の子達の顔を、一人一人確認したが、あの女子生徒は居なかった。


あんなことがあった後に声援など送れるはずも無いか……



パンッ‼



「………っ!!」


いつの間にか、スタートしていた。

始まってしまえば、あっという間だった。


あれよあれよと清水美羽の番が来て、橘和樹が走り出すと、ひと際甲高い悲鳴のような歓声が響き、その後、歓声は止むこと無く続いて、あっという間に最終ランナーが走り、ゴールとなった。


「1位グリーン、2位バイオレット、3位レッド、————」


うおおおおおおおぉぉぉ!!!


「………っ!!!」


放送が流れた直後、グリーンチームからどよめきが起こった。


「1位が変わったって。」

「1位レッドだっけ?」


どうやら総合順位が変わったらしい。


「………。」


マリアは、自分のチームが今何位なのかもわからなかったので、聞こえて来る会話に、どう反応すればいいのかわからなかった。


「わたしたちのチームって、何位ぐらいなの?」

「たぶん4位ぐらいじゃない?よくわかんないけど。」

「そっか。」


沢井萌々も、よくわかっていないようだったので、マリアは、自分だけが取り残されている訳ではないことに、ホッとした。



体育祭も、残るは閉会式だけとなった。

学校内の生徒が、皆、校庭に整列する。


マリアは、まだクロとヴィゼが学校内に居ることを願い、念を送った。


”クロ、ヴィゼ、中庭で揉めていた女子生徒が、どのカラーの何年生か、探して”


カァー!


カラスがひと鳴きするのを聞いてから、マリアは閉会式に向かった。



優勝はグリーンだった。

マリアのチーム、イエローは4位だった。

全く順位が分からなかったマリアとは違い、沢井萌々はある程度の順位は把握していたらしい。

マリアは、自分と一緒にしてしまった沢井に、心の中で謝罪し、優勝チームに拍手を送った。


続いて、各学年MVPが発表された。

2年生のMVPは、橘和樹だった。

体育祭を大いに盛り上げたことが、評価されたとのことだ。

たくさんの声援を浴びながら、橘和樹は表彰台の前に立った。

歓声を上げる女子生徒達に笑顔で手を振りながら歩く姿は、まるで映画スターのようだ。

それは、気質なのか、性格なのか……


では、中庭で見た姿は?


あれが、橘和樹の本当の姿だったとして、その姿をさらけ出す程、あの女子生徒は何をしたのだろうか?



『とにかく、迷惑だから、もう付きまとわないでくれ。』



あの女子生徒が、橘和樹に付き纏っているのを、マリアは見たことがない。

少なくとも、今日一日で一緒に居るところを見たのは、中庭でのあの時だけだ。


では、学校以外の場所で付き纏われているということだろうか?


「………。」


マリアは、分からなっことばかりで混乱した。


女の子に人気があるっていうのも、大変なのだろうか?


「………。」


ただの痴話げんかかもしれないのに、こんなにも気になることにも、困惑した。



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