#6 川辺に潜む陰
「今日はここまでにしましょう。」
ふと、腕時計を確認した津谷美羽が言った。
マリアは、図書室に掛けられている時計を見上げた。
時計の針は、12時15分になろうとしていた。
中庭のベンチに座り、それぞれが用意してきたお弁当を食べた。
沢井萌々は、クロワッサンのサンドイッチ。
津谷美羽はお弁当。
二人とも自分で作っているらしい。
マリアはバトが作ったお弁当を広げて食べた。
「一日目で、結構、進んだよね?」
沢井萌々は、卵とハムを挟んだクロワッサンを一口食べて、嬉しそうに言った。
その言葉に対して、眉一つ動かさずに、津谷美羽は言った。
「そう?わたしの予定では、あと5~6ページはいけると思っていたのに…、残念だわ。次からは、もっとスパルタにしないといけないわね。」
お弁当の卵焼きを一口食べ、言葉も無く驚く沢井萌々とマリアに、にっこりと微笑んだ。
「次は数学にしましょう。次の勉強会、金曜日までに、数学の問題集15ページまで、二人とも、絶対にやってきてね。」
先程までは、救いの神のように思えていたのに、この時の津谷美羽は、恐ろしい鬼人のようだと、マリアは思った。
角と牙さえ、見える気がした。
「じゃあ、次は金曜日ね。数学、15ページまで進めておくの、二人とも忘れないでね。」
「はーい。頑張ってみるよ。またねぇ。」
「わたしも頑張る。じゃ、金曜日に。またね。」
マリア達は、学校の校門の前で別れた。
津谷美羽と沢井萌々は、マリアとは違う路線のバスに乗る。
マリアは、二人と別れて、自分が乗るバスの停留所に向かった。
次の勉強会は数学をやる。
金曜日までに、数学のテキスト15ページまで終わらせる。
毎日5ページずつやれば、15ページになる。
やってやれない量じゃない。
バスの中、マリアは自分を励ましながら帰路についた。
今日は、おみくじとお守りの整理をする予定だ。
七曜神楽の練習と、弓の練習もしなくてはならない。
夜にも、勉強時間を入れる必要があるようだった。
「おかえり、マリア。話があるから、巫女さんになる前に、ちょっといいかい?」
家に着くなり、茶の間から顔を出した琴音に呼ばれた。
「はい。」
不思議に思いながらも、そのままマリアは茶の間に入った。
茶の間の中には、琴音と凪、そしてB・Bも居た。
「警察から依頼書が届きました。」
琴音は、マリアの前に、書類が入った封筒を差し出した。
「先に内容は確認させてもらいました。あなたも御覧なさい。」
琴音に言われ、マリアは封筒の中から書類を全部取り出して読んだ。
「川の事故?」
ざっと目を通したマリアが呟いた。
「全部、キャンプ中の事故みたいだけど…、不自然なところ、ある?」
「不自然なのは、発見場所だよ。」
「……?」
言われて、マリアは書類を見直した。
「5件とも、発見場所が近い?」
「そう。そこが川の作りや流れなどから、発見されやすい場所であるなら、依頼は来なかったと思うよ。」
「まずは、現場へ行って見てみないとわからない。」
最後に凪が言うと、琴音は、いつにも増して、真剣な顔つきになった。
「今回は、凪とB・Bも、それから、クロとドドにも一緒に現場を見に行ってもらうことになったからね。マリアは、絶対に一人にならないこと。どこに何が潜んでいるのか、まだ何もわかっていないんだからね。」
「はい。絶対一人になりません。」
全くの子ども扱いだと、思わなくも無かったが、何やら危険であることは、マリアにも分かった。