#5 川で溺れる子供達
マリアが戻って来る前に、琴音は凪と、警察からの捜査依頼書に目を通した。
どういう内容のものなのか、それを理解してからでないと、マリアには話せないからだった。
捜査依頼
三四子川で相次ぐ事故に対して、捜査を依頼します。
以前より、子供が三四子川で溺れるという事故はありましたが、今年7月に入って、既に5件もの死亡事故が発生しております。
夏休みに入ったことで、更に犠牲者は増えると予想される為、七曜に依頼することが決定しました。
事故内容と事故発生当時の様子
1件目
5歳男児・溺死
3家族でキャンプに来て、同年代5人の子供達と一緒に水遊びをしていた。
川の深さはふくらはぎが隠れない程度の場所だったので、大人達は大丈夫と判断し、バーベキューの準備をしていた。
ところが、子供達の悲鳴が聞こえ、見ると、5歳男児一人の姿が消えていた。
一緒に居た子供達の話では、5歳男児は足を滑らせて転倒。
起き上がろうとしても起き上がることが出来ず、川の流れのまま、転がるように流れていってしまったのだと言う。
二日後、2km下流にて発見。
すでに死亡していた。
2件目
8歳女児・溺死
1件目の事故現場より500m下流にて事故発生。
川釣りをして、その場で焼いて食べることを目的にし、家族で来ていた。
川釣りは父親の趣味で、女児と母親は川辺で火おこしの準備をしていた。
父親が釣りをしている様子を見て、興味を持った女児は、母親に告げないまま、父親のもとへ向かったらしい。
母親は火を起こす準備に没頭し、父親は釣りに没頭して、川に近付く女児に気付かなかった。
気付いた時、女児は川に入っていて、既に流されていた。
川に流され、沈んでいく女児の姿を、母親と父親は、目撃している。
二日後、1,5km下流で発見されるも、すでに死亡していた。
3件目も4件目も5件目も、同じような内容だった。
どれも溺死。
そして、発見場所は全部、下流の、おそらく、同じ場所か、その付近のようだった。
実証見分も行われたようで、その結果も、今回、依頼することとなった原因の一つであるようだった。
「川か……。」
書類に目を通して、最初に発した琴音の言葉は、溜息混じりだった。
嫌な予感がする。
言葉にも表情にも、不安を滲ませていた。
「使い魔達も連れて行った方が良いでしょう。人数は多い方が良い。」
凪も不安を隠しきれなかった。
一人も生き残っていない。
狙った子供すべてを殺しているのであるなら、今回の相手はオオジョロウグモの比ではない。
相当の力の持ち主で、邪悪極まりないモノが絡んでいるに違いない。
不安を抱かない方がおかしかった。
「対策を練らなくてはならないね……」
琴音の呟きは重かった。