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約束と契約4  作者: オボロ
24/59

#24 嬉しくない役目





キャーキャー!

あはははは…

きゃあ!

ハハハハハ…




たくさんの人間たちが、なかば裸同然の姿で、大きな水たまりに入り、騒いでいる。

川がある。

波のある場所もある。

高い所から寝そべって滑り落ちて来る人間がいる。

何が楽しいのか分からないが、どの人間も楽しそうだ。


「はぁー…、こんなに暑いのに、何がそんなに楽しいのか……。」


日陰の枝にまったカラスが、遠くを見つめ、ぼやいでいた。



ミーンミンミンミンミー……

ミーンミンミンミンミー……

ジジジジジジジー…

ジジジジジジジー…



セミの声が、やけに近くて、うっとうしい。






「なんでオレ?」



不満であることを、隠しもせずに、クロは言った。


「仕方がないよ、君が一番の適任者なんだから。」


ヴィゼが肩をすくませた。



事の起こりは、マリアがクラスメイトと一緒にプールへ行くことが決まったこと。

初めて行く場所に、初めて大人の付き添い無しで、マリアが出掛けると知ったB・Bと使い魔達は、マリアのことが心配だった。

しかし、自分達も一緒に行きたいとは言えなかった。

理由は、水が得意ではないから。

ドドが泳げないと知った今、水にひいでたモノは、誰も居ないと言っていい。

そこで、動物の姿でこっそりとついて行くのに、最も適したものは誰だろうかと考えた。

カエルでは、動きが遅くて、マリア達の後をついて行くことは出来ない。

ネコとイタチは、動きは速いが、バスに乗るのは無理だろう。

バスを追って走る?

冗談じゃないと、ノラとヴィゼは言った。

炎天下に車と並走するなんて、自殺行為だ。

幾らマリアのためとはいえ、汗だくの息切れしまくりで、必死になって走る自分の醜い姿なんて、想像するのも嫌だと、二人は声を揃えて言った。

夜行性のコウモリが、真昼間の炎天下にバスを追って飛んでいたら目立つだろうし、イヌワシが間近を飛んでいたなら、それこそ大騒ぎになる。

けれど、カラスなら、どうだろう?

カラスは、いつでもどこでも、人間の近くに居る。

真昼間の炎天下だろうと、バスを追って飛んでいようと、プールの近くに留まっていようと、不自然ではないし、不思議に思う人間は一人も居ないに違いない。



「クロだって、心配だろう?」

「クロは、マリアのこと、心配じゃないの?」

「マリアが行くプールって、イギリスで行ったことがあるホテルの中とかじゃなくて、外らしいよ?」

「炎天下に倒れたりするかも…、心配だよね?」


「………。」


次々と不安をあおることを言われ、クロは承知するしかなかった。




「行ってきまーす。」


マリアの出発を見届けて、後を追い、空を飛んだ。



「あ、マリアちゃーん。こっちこっち。」

「沢井さん、津谷さん、ごめんね、待った?」

「ううん、そんなことないわよ。月城さん、時間通りよ。バス停は向こうなの。行きましょう。」



クラスメイトと合流し、別のバスに乗るのを確認して、再び、空を飛んで後を追った。


やがて、やけに賑やかそうな建物の前でバスを降り、建物の中へとマリアが入って行くのを見て、ここがプールというものなのかと思いながら、再びマリアが現れるのを、木の枝に留まり、待ち続けた。






今まで生きてきた中で、裸でビーチに寝そべっている人間は居た。

それも、一人や二人ではなく、たくさん居た。

スタイルの良い者だけではなく、だらしなくたるんだ体型の者も、恥ずかし気も無くさらしていた。

はしたないと思ったのを覚えている。

しかし、これが人間本来の姿なのだと、ノラは言った。

そして、クロは、裸になるのが好きな人間も居るんだと、理解した。


今、ここは日本。

日本人は、慎み深く、恥じらいがあり、奥ゆかしいと聞いているが、水の中に入って遊ぶことを目的にしている以上、きちんと服を着たままでいることは出来ないので、それに適した水着というモノを着るらしい。

マリアも水着の用意をしていた。


キャーキャー!

あはははは…

きゃあ!

ハハハハハ…


水着というモノを着ているらしい人間達が、たくさんいる。


布地が少なく、ほぼ裸ではないかと思うような人間も居るが、本当に裸でいる人間は居ない。

おそらく、マリアも裸では現れないはず。


でも……


もしも、万が一にも、マリアが裸で出て来た時、自分はどうするべきなのか、クロは密かに悩んでいた。



だから、こんな役目、嫌だったんだ……




ミーンミンミンミンミー……

ミーンミンミンミンミー……

ジジジジジジジー…

ジジジジジジジー…




「………。」


セミの声が、やけにうるさく感じた。





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