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約束と契約4  作者: オボロ
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#2 夏休み初日






マリアは夏休みに入った。

マリアの成績は、中の中ぐらい。

落ちこぼれではないけれど、優秀とは、とても言えない成績だった。

油断をすれば、すぐにでも落ちこぼれの仲間入りをしてしまうだろう。

マリアは、今の成績で安心してはいけないことを、充分に承知していた。

学校が休みだからと、勉強をおろそかにしていたら、二学期になった途端、目も当てられないことになってしまう。

夏休みには、大量に出された宿題もある。

マリアは、夏休みをだらけて過ごすことがないよう、一日のスケジュールを決めることにした。


朝は、いつも通り6時半に起きる。

きちんと朝食を取り、御弥之様みやのさまにご挨拶をして、そのまま神社の掃除を開始。

津谷つたに美羽みわ沢井さわい萌々ももとの勉強会は、週に二回、午前9時から12時までと決めたので、勉強会の無い日も、午前9時から12時までは、宿題なり、勉強なりをする時間にてた。

宿題は夏休みの前半に終えて、後半は二学期の予習が出来たなら、すばらしいだろう。

まぁ、予定通りに進めることが出来れば———の話ではあるのだけれど……。



「……うん。これで、よし。」


マリアは、“半分出来れば良し”としながら、出来上がったスケジュール表を、部屋の壁に貼り付けた。








「おはよう。」


「あれ?マリア?」


夏休み、第一日目。

いつも通りの時間に起きて、台所に顔を出したマリアを見て、今日の食事当番だったクロが、驚いた顔をした。

驚きのあまり、持っていた箸を落としそうになっていた。

もうすっかり料理担当となっているバトは、少し目を見開きマリアを見たが、すぐにいつも通り、朝ごはんの支度をすることに意識を戻し、お椀にお味噌汁を入れ、お盆の上に並べながら、マリアを見ずに聞いた。


「どうしたの?今日から夏休みだよね?どこか行くことになってた?」


小さな体で、てきぱきと準備をしているバトの姿は、”母親”というより”職人”に近い。


「なってない。夏休みでも同じ時間に起きることにしたの。朝ごはん食べたら神社に行くわ。」

「わかった。すぐに用意するよ。顔洗って、茶の間で待ってて。」

「はーい。」


バトは月城家の料理長だ。

マリアは、そんなことを考えて、ひそかにほくそ笑みながら洗面所に向かった。




琴音の家では、食事は基本、全員揃って食べることになっている。


『せっかく一緒に暮らしているのだから、食事はみんな一緒でね。』


これは、琴音が言っていたことだ。

用意するのも片付けるのも、いっぺんに出来た方がいいから———と、当時、家事全般を任されていたまどかを気遣って言った言葉だと、マリアは思っていた。

しかし、それだけではなかったらしい。


最初、茶の間にあったテーブルは、本当に小さかった。

それが、凪とB・B、使い魔達も一緒に暮らすようになったのを切掛けにして、客間にあった大きなテーブルを使うようになった。

みんなでテーブルを囲み、食事をしていると、本当の家族のようだ。

とても賑やかで、とても暖かく、とても幸せだ。

もしかしたら、それを味わってほしいと、琴音は思ったのかもしれない。


ずっと独りで居た凪に、ずっとヒトの温かさを知らずに生きて来たB・Bたちに———。


今、マリア達は家族のように、一緒に暮らしている。



一番初めに起きて、動き出すのは、琴音だ。

一番初めに寝るのも琴音なので、それは仕方のないことなのかもしれない。

一番初めに起きて来た琴音が、お湯を沸かしていると、次に起きて来るのは凪。

凪は、動き出した琴音の気配を察して、起きて来ているようだった。

凪は、琴音を茶の間へ促し、代わりに二人分のお茶を用意する。

凪と琴音が、二人でお茶を飲んでいると、次にB・Bが起きて来る。

B・Bは、茶の間に顔を出して、琴音にお茶のお代わりを聞いた後、自分の分も一緒にお茶の用意をするのだ。

これは、B・Bの毎朝の日課だ。

琴音はB・Bにお代わりを頼み、凪はそのまま神社へ向かう。

琴音と二人だけの時間を過ごしてから、朝食までの間、本殿の清掃をするのが、凪の日課だった。

B・Bも琴音と二人でお茶を飲む時間を大切にしている。

自分達がこの場所に居ることを許してくれた人として、B・Bたちは琴音のことも“大切なヒト”として、認めていた。

そして、琴音と一緒にお茶を一杯飲んだ後、凪と同様B・Bも、朝食前のひと仕事をする為、神社へ向かうのだ。

B・Bの朝の一仕事とは、神社前の階段と、階段下の鳥居付近の掃除をすること。


神社前の階段と、階段下の鳥居付近。


その場所は、B・Bにとって、原点とも言える場所だった。



次に起きて来るのは、バトだ。

バトは使い魔の中で唯一、料理を専門に担当している。

朝食の準備をしなくてはならないバトは、使い魔たちの中では一番早く起きなくてはならなかった。

バトの後に少し遅れて起きて来るのは、その日の食事当番である使い魔の中の“誰か”だ。

それ以外の使い魔達は、マリアと同じくらいの時間に起きる。

彼らの仕事は、朝の食事を終えた後から始まるものばかりだった。

ゴミ出し、洗濯、家の中と庭の掃除。

その上で、バトも含めて、皆、神社の手伝いもしている。

使い魔達もなかなかに、ハードな一日を過ごしていた。


「マリアは、今日、巫女さんやるのかい?」


食後のお茶をすすりながら、琴音がぽつりと聞いた。

マリアは、食べ終えた食器を、片付けながら答えた。


「うん。朝と午後だけだけどね。お昼前は9時くらいから抜けるね。宿題をやってしまいたいの。明日は、9時までに学校へ行かなきゃ。クラスメイトと約束しているの。あ、そうだ。バト、明日、お弁当をお願いしても良い?クラスメイトと一緒に、お昼ごはん食べることになってたの、忘れてたわ。」


最後を、マリアは、思い出したようにバトを見て言った。

バトは、お味噌汁を呑んで、そっけなく答えた。


「いいよ、別に。マリア一人分のお弁当なんて、大した面倒でもないしね。」


まったく心強い料理長だ。







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