#17 浄化の方法
三四子川に棲みつき、子供を溺れさせている『さと』という名の女の霊を、マリアが祓うのは簡単だった。
川辺で神楽を舞えば済むこと。
マリアが七曜神楽を三四子川の川辺で舞ったなら、三四子川に棲みついている『さと』だけでなく、付近の森も川も、もれなく浄化されるので、三の上村の村長も村民も大喜びするだろうと、琴音は言った。
しかし、『さと』の記憶を体験してしまったマリアには、ただ祓って終わりにすることに、抵抗があった。
『さと』は、本当に子供が欲しかった。
子供が欲しくても出来なくて、家族からつらく当たられていた。
その辛さは、マリアが身をもって体験している。
『さと』が悪いわけではないのに、『さと』だけが悪者で。
『さと』にはどうすることも出来ないのに、『さと』ばかりが辛い思いをして、居場所が無かった。
誰も助けてくれなくて、どうすることも出来なくて、でも、このままがずっと続くのは、もう嫌で………
そして、逃げた。
冷たい水の中でも、子供が欲しいと願っていた。
強く思うあまり、この世に留まってしまった。
他人の子供を食べれば、子供が授かると、思い込んでしまった。
化け物になってしまっても尚、子供が欲しいと願い続けた。
その『さと』を、ただ祓うだけでいいのだろうか?
マリアは悩んだ。
「彼女と話がしたいの。」
「話をして、どうするの?あの川で子供を溺れさせているモノの正体と、その理由が分かれば、もう彼女と話をする必要は無いと思うけど?」
方法を考えあぐねて、マリアは琴音に相談した。
琴音は、マリアの相談を受けて、冷静に答えた。
「子供を食べても子供は授からないと、分かってもらいたい。」
「当時、あの辺では、アユの稚魚を食べると子が授かると言われていたらしいけど、それも否定するの?」
「言い伝えは言い伝えであって、検証されたモノでは無いわ。ましてや人の子を食べても子供は授からない。」
「それを理解したとして、それで?祓うことに変わりはないでしょ?」
「それでも、祓われる彼女の気持ちも、祓うわたしの気持ちも、違うと思うわ。」
マリアは、答えながら、悲しくなっていった。
答える琴音が冷静過ぎて、冷たいと、感じてしまった。
琴音は間違ったことを言ってはいないのに…
昨年の秋祭りで七曜神楽を舞った時も、それ以降、神社の裏手で練習をしている時も、祓われるモノの気持ちを、考えたことは無かった。
危うくB・Bたちも祓ってしまいそうになったと知った時、物凄く動揺したのは、B・Bたちを祓うべき相手ではないと、思っていたからだ。
では、『さと』は?
マリアは、自問自答した。
『さと』は、祓わなければならない。
それは分かっていた。
このまま、ずっと三四子川に『さと』が棲みついていたら、三四子川に関わる人間は勿論のこと、『さと』自身の為にもならないのだから…。
なのに、ただ祓うことに抵抗があるのは、化け物となってしまった『さと』の経緯を知ってしまったからだ。
辛い環境と、悲しい死に際を、体験してしまったからだ。
どうにも煮え切らないマリアの様子に、琴音は、諦めたように溜息を吐き、言った。
「まぁ、やってみたらいいさ。で、方法は?『さと』が大人しく話を聞くとは思えないけど?」
「わたしも、『さと』が大人しくわたしの話を素聞いてくれるとは思っていない。でも、逃がさなければ、話を聞くしかなくなると思うの。強制的にでも話を聞けば、『さと』は理解できるはず。憎くて子供を殺していたわけじゃなくて、自分の子供が欲しかっただけなんだから…。だから、B・Bたちに手伝ってもらう。きっと上手くいくわ。」
マリアは、はっきりと言った。