#16 居場所
「———。」
………?
「——…。」
………?
「ー……。」
……誰?
「………。」
……誰の声?
「……ド。」
……べべ?
「…?ドド。」
……ベベなの?
「……夫?ドド?」
生きていてくれたの?
「大丈夫?ドド?」
べべ⁈
「………ッ!」
ドドは、目を覚ました。
「あっ!ドド!大丈夫?」
「………。」
マリアだった。
「ごめんね、ドド。わたし、ドドが泳ぎ苦手だって知らなくって……」
「………。」
涙目のマリアが顔を覗き込み、謝っている。
後光が差しているように、眩しく見えて、ドドはちゃんと目を開くことが出来なかった。
「気にすることないよ、マリア。泳げないなら泳げないって、最初から言えばよかったんだから。」
クロの声がして———
「そうだよ、マリア。何も言わないで引き受けたドドが悪い。マリアが気にすることじゃないよ。」
ノラの声がして———
「そうそう。カエルが泳げないなんて、誰も思わないよ。ほんと、見掛け倒しだよね。」
ヴィゼの声がする。
「だから!泳げないんじゃなくて、泳ぎが苦手なんだって、何度言えばわかるんだよ。ほら、これ呑んで。」
呆れた顔をしたバトが、ドドの顔を覗き込み、片手に持った湯呑みを見せた。
「………。」
ドドは顔を上げた。
ドドの周りには、マリアの他に、使い魔達も居た。
B・Bは、少し離れたところからこちらを見ていて、微笑んでいた。
あぁ、眩しい世界はここにあった———と、ドドは思う。
「………うん。」
ドドの目から、涙が溢れて零れた。
「……え?」
「……え?」
「……え?」
「……え?」
突然に泣き出したドドを見て、クロとヴィゼとノラとバトは驚いた。
「バト、薬、苦すぎたんじゃない?」と、ヴィゼ。
「そんなことないよ。クロが泳げないって言ったからじゃない?」
バトは言い返した。
「俺だけじゃないし。ヴィゼの方が酷かったし。」と、クロが言えば、
「擦り付け合わない!どこか痛いの?」
ノラが、言い争いを納めて、ドドの顔を覗き込んだ。
「ううん。どこも痛くない。」
変わらない四人のやり取りに、ドドは嬉しくなって涙が止まらなくなった。
そうだ。
ぼくは、そうやって生きて来た。
B・Bに拾われて、良かった。
B・Bの使い魔になって、良かった。
B・Bについて来て、よかった。
みんなと一緒に生きて来て、よかった。
泣き続けるドドの頭に、温かい手が添えられた。
「ありがとう、ドド。ドドのお陰で、今回の事件、解決の糸口が見えて来たよ。」
優しく微笑むマリアの顔を見たドドは、ますます涙腺が壊れ、周りに居る使い魔達とマリアを心配させたのだった。
『死ぬ気になれば、結構、何でもできるものだよ。さぁ、わたしの手を取りなさい。そして、役に立ちなさい。』
B・Bの言葉の意味が、ようやく分かった。