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約束と契約4  作者: オボロ
15/61

#15 ドドの記憶






マリア……



川の流れに逆らえず、もがきながら、ドドの意識は遠退いて行った。












「——」


……?


「ード。」


……?


「ドド。」


……?


「ねぇ、ドド。」


……?


「ねぇ、ドドったら!」


「……!」


ドドは飛び起きた。



「やっと起きた。ドドは本当にのんびりしているよね。」


姉のべべが呆れていた。


「べべ、ドドを甘やかすな。少しは放っておいた方がいいんだよ。」


兄のダダも呆れていた。


「ごめん……。」


ドドは、謝りながら、のろのろと葉っぱの下から這い出て来た。


今は秋、冬眠する為に、お腹いっぱい食べなくてはいけなかった。


ここは、ドドが兄弟姉妹たちと一緒に暮らしていた森の中だ。

近くにある水場で、ドドたちは生まれた。

生まれたばかりの頃には、数えきれないほどの兄弟姉妹が一緒に居たけれど、今はダダとべべとドドの三匹だけが一緒に暮らして居た。


平和だった。


気が向くままに移動して、虫を食べ、眠る。


独りぼっちになってしまうなんて、考えても居なかった。



「ドド!隠れて!」


ある日、突然、ダダがドドに向かって叫んだ。

べべは、既に木の葉の下に潜って身を隠していた。


「急げ!ドド!フクロウだ!」


いつまでもぼんやりしているドドに気をもみ、ダダは枯れ枝の陰から身を乗り出して、ドドに叫んでいた。



バサバサッ!



フクロウが狙いを定めたのは、ダダだった。


「うわっ!」


あっという間だった。

フクロウは舞い降りた瞬間にダダを掴み、あっという間に連れ去った。


「ドドー!べべー!」


ダダの叫び声が、小さくなって聞こえなくなるのも、あっという間だった。


「………。」


ドドは、自分の所為だと思った。

自分がもたもたしていた所為で、ダダはフクロウの目に留まってしまった。






「助けて…、ドド…。」



「………?…っ!」


別の日、気付くと、べべはヘビに呑み込まれようとしていた。



「助けて…、助けて、ドド……」



べべのお尻を咥え込んだヘビは、本当にゆっくりとべべを呑み込みこんでいった。



「………。」


ドドは、何も出来なかった。

助けに行くどころか、一歩も動くことも、目を反らすことも出来ず、怯え、絶望し、震えながら、蛇の口の中に消えていく、助けを求めるべべの目を、ずっと見詰めていた。



「助けて……、助けて…ドド………」



最後まで、べべは助けを求めていた。



ごめんね。

ごめんね。



べべを呑み込んだヘビは、ドドには目もくれず、去って行った。



ごめんね。

ごめんね。



ドドは、独りぼっちになり、初めて、自分の存在に価値は無いのだと、悟った。



フクロウは、いつまでもフクロウの存在に気付かず、隠れようともしなかったドドではなく、気付かないドドを気にして、隠れながらも声を掛けるダダを狙った。

ヘビもそうだ。

何も考えずにのんびりと、ぼーっとしているドドではなく、周りを気にしながらも、ドドに気を配るべべを狙った。

二匹とも、ドドよりも価値があったからだ。


ドドには、お前には食べる価値も無い———と、ふくろうにもヘビにも、言われたような気がした。


意気地なしで、弱虫で、臆病者のくせに、ドン臭い。


逃げるのも遅い。

隠れるのも遅い。

足手まといでしかなかった。



二人とも、痛かったよね。

苦しかったよね。

辛かったよね。


ごめんね。

ごめんね。


後悔ばかりだった。

後悔ばかりして、何も出来なくなった。

眠って冬を越さなくてはいけないのに、充分に食べることが出来なくて、眠ることが出来なかった。

もう、餌になるものはなかった。



寒い…

寒い…

でも、眠れない…




「なぜ、冬眠せずに凍えている?」




………?


声がした。


ヒトのような姿で…

でも、ヒトではなかった。


翼があり、角がある。




「生きることをやめるのか?」



……やめる?

あぁ、ぼくは死ぬのか……


声は出ず、ただ血のように赤い瞳を、ただ見詰めることしか出来なかった。

死にたいのか、死にたくないのか、それすらもよく分からなかった。




「死ぬつもりなら、一緒に来るかい?わたしの為に、尽くしてみるかい?」




その言葉の意味も、よく分からなかった。




「わたしの所には、君のようなモノが何人か居る。さぁ、おいで。」




ヒトではない手が差し伸べられた。

獣ではない。

鳥でもない。


………。


その手を取らず、ただ見つめるだけのドドに、ソレは言った。



「死ぬ気になれば、結構、何でもできるものだよ。さぁ、わたしの手を取りなさい。そして、役に立ちなさい。」



………。


ゆっくりと伸ばした手が、その手に触れた。


…っ!


次の瞬間、目の前が真っ暗になった。






………。



………。



………。




そうだ。

これは、昔の記憶…。




暗闇の中、ドドは思った。



ヒキガエルだった頃、自分の無能さに嘆き、生きることを放棄した時、B・Bが救いの手を差し伸べてくれた。

そうだ。

その時の記憶だ。

暗闇から目を覚ました時の感動は、今も鮮明に覚えている。



珍しそうに顔を覗き込ませていた—————クロ、ノラ、ヴィゼ、バト。



「これ、カエル?」


「そうだよ。」


「ヒキガエルでしょ?」


「そうだよ。良く知っているね。」


「食べていいの?」


「だめだよ。今日から君たちの仲間だ。」


「役に立つの?」


「立ってもらうんだよ。いじめちゃダメだからね。仲良くするんだよ。」



それぞれの疑問に、別の場所から答えが返って来る。




———今日から君たちの仲間だ———


———いじめちゃダメだからね。仲良くするんだよ———




「よろしくね…。仲良くしてね…。」


かろうじて発することが出来た言葉。

ドドの声は掠れていた。


四人の顔は、あまり歓迎しては居ないようだったけれど、それでも、ドドの目には光輝いて見えた。




ここが、生きていてもいい場所なんだ———と。






………。




………。




………。






今は、まだ、暗闇の中だけれど……







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